親子 少女を拾う
光が治まると同時に、酷い酩酊感が襲って来る。
状態異常を解除しよう。頭の中でそう考えると酩酊感が嘘のようにはれていく。
「カケル、気持ち悪いの治ってって考えよう」
「あ、気持ち悪いの治った!」
「今からそこに倒れてるお姉ちゃんに話を聞くから、カケルは回りに変なの居ないか見ててね」
座り込んでいる場所の近くに中学生くらいの少女が倒れている。
この子がヘスティアの言っていた、未熟な召喚士なのだろう。
「お父さん、お姉ちゃん大丈夫かな?」
「お父さんが声かけてくるから、カケルはお父さんの後ろで待ってて」
少女に近づき、観察する。見た感じでは血が流れているわけではなさそうだ。
屈んで呼吸をしているか確認するが問題なさそうだ。少女の体を起こし頬を軽く叩き意識を覚醒させる。
「大丈夫か?」
まだ意識が朦朧としているのか、虚ろな目でこちらを見てくる。
「目を閉じて、ゆっくりでいいから、呼吸を意識して」
少女は言われたとおりに目を閉じ、呼吸を繰り返す。意識がはっきりしてきたのか、目を開きこちらを見る。
「アナタが私に召喚された人ですか?」
「ああ、色々言いたいことはあるが、今は言い合っている場合ではなさそうだ」
カケルが駆け寄ってきた。
「お父さん、お姉ちゃん起きたの?」
「この子は誰でしょうか?」
「俺の息子だ。カケル、今から一緒にお話しようか。このお姉ちゃんはお父さんとカケルをこの世界に呼んだ人だから」
学生のときに読んだ本では、死んで異世界へ行くとか、召喚されて異世界へ行くとかあったが、正直自分がそうなるとは夢にも思っていなかった。
それに、カケルを置いて一人で召喚されていたら、と考えると心の底から寒さが湧き上がってくる。カケルが居るから、冷静にもなれるし、ファンタジーだろうがリアルだろうが生きぬこうという気にもなる。
「お姉ちゃんは何でお父さんと僕を呼んだの?」
無邪気に問いかける。
少女は目を伏せながら話し始めた。
「ごめんなさい。自分や家族が危険な状態だからって、アナタみたいな幼い子を召喚してしまって。自分勝手な考えで、こちらの世界に二人を巻き込んでしまって本当にごめんなさい」
泣きながら謝り始めた少女をカケルが慰めるように頭を撫でていた。
「謝る気持ちがあるのなら、俺もカケルも君を責めたりしないよ。俺達を選んで呼んだわけじゃないし、巻き込みたくて巻き込んだわけでもないみたいだからな」
「お姉ちゃん泣かないで」
少女が泣き止むまで待った。
「落ち着いたところで、聞きたいことがある。君は何で俺達を呼んだんだ?助けがほしいのはわかったが」
少女が泣きそうになるのを堪えているのが伝わってくる。
この子はいろんなものを背負っているのだろう。
「私はローレット辺境伯爵の次女でエルダ。私達家族が住んでいるビグスの町が隣接する国に襲われてるって早馬で連絡があって。進軍してきた規模がビグスの町だけでは対抗できないから父と仲の良いリーノ男爵に救援を願いに行こうとしてた。早馬が出ているってことは、王都や近隣の領主様へも救援をお願いしていると思うけど、間に合わないかもしれない。少しでも早く救援に向かってもらえるよう、町のみんなの被害が少しでも減るように私は頑張らないといけないの。でも、一緒に救援のお願いに行っていた人は盗賊に襲われてみんな殺されたから、どうしようもなくて、召喚しかなくて」
最後のほうは泣きながらだったが、その気持ちは十分伝わってきた。
「わかった。まずはリーノ男爵が居る町まで行こう。今できることはそれしかない」
「うん、歩いていくしかないけど、一本道だからわかるはず」
この子を送り届ければいいのだろうけど、このまま歩いていくのはこの子の精神衛生上よくないよな。
早くリーノ男爵に会ってこの子を保護してもらうべきだろう。
「お父さん、歩いていくの?ずっと遠く見ても建物無いよ?」
「馬車で後二日くらいかかると騎士のジーノが言ってました」
「じゃあカケル、二人で魔法を使ってみよう。カケルはお母さんに声をかけて、お父さんが車を出せるか聞いてみて。お父さんはそれを聞いてから魔法を使うから」
「わかった!ん~、でもどうやってお母さんに声をかけるんだろ」
「エルザ、君が召喚魔法を使うときは言葉以外に使うものがあるのか?」
「言葉は頭の中の想像を言葉にしたものだから、頭の中で鮮明に思い浮かべれば魔法は発動するはずよ」
「よし、カケル今日話をしたお母さんを思い浮かべて、車のことを聞いてみて」
カケルがん~と難しい顔をしながらお母さんとつぶやいている。
急に目を閉じたまま笑顔になった。
「お父さん、車出せるみたいだよ~。先にカタログ取り寄せて、選んだらいいみたい」
ヘスティアと話せたのがうれしかったのか、話し終わってもニコニコしている。
「確認もしてもらったし、実験だな。まずは車のカタログ、道が整備されていないから、オフロードを走れる車で、頑丈な車」
言葉に出しながらカタログを想像する。ポンと煙と一緒に簡単な冊子が目の前に出てきたから慌てて掴んだ。カタログには日本でも有名な海外メーカーの車や日本最大手メーカーの車が並んでいる。
「ここは、ラン○クルーザー」
カケルがいるところに出てきたら困るから、カケルに背を向けてイメージする。
カタログのときと違い、少し時間がかかったが、ボンという少し重たい音とともに目の前にラン○ルが出てくる。
「お父さんすごい!車出てきた~」
「すみません、アナタは召喚士なのでしょうか?」
「エルザ、俺の名前はコージだ。息子はカケル。名前で呼んでくれ。俺は召喚士ではないが、それに近い能力を持っている」
「コージ殿、みんなを救う為にその力を貸してはもらえませんか?」
「殿はやめてくれ。今力を貸すことの約束はできない。軍に対して有効的な力とは限らないからな。まずはリーノ男爵の所に行こう。移動中に話を聞かせてくれ」
「わかりました。冷静に見えているかもしれませんが、目の前で無詠唱で召喚が行われたことについて、かなり驚いてます」
日本でも乗ったことが無いラン○ルに乗り込む。カケルもエルザも一人では乗れない為抱き上げて乗せた。エンジンをかけシートベルトをする。二人にも後部座席でシートベルトをさせた。
「エルザ、先に言うと、この乗り物についての質問は答えられないから。答えられるほど知識が無いって言うこと」
バックミラーを見るとうなずいているエルザが映る。座席や窓ガラスなどを興味深そうに見ている。
「では、出発する。エルザは道が合っているか教えてくれ」
ギアをいれアクセルを踏む。
後ろでエルザがキョロキョロと周りを見ながら戸惑っていた。
「なんで馬もいないのに進んでるの?」