親子で召喚
明るい日差しの中、畳の上で父親と男の子が昼寝をしている。
部屋のいたるところに使われている木の香りと、窓から入ってくる暖かな風。
田畑を通ってくる風は、柔らかく親子を包んでいた。
地方都市のベッドタウンとして開発が進みつつある南側、川を挟み古くから農業が盛んな北側。その北側で最も奥の小高い丘にその屋敷は建っていた。
古くからこの地に根付き治めてきたが、今では村の顔役といった家系だった。
<これから召喚されようというのに寝ているとは、大物といいますか、鈍感といいますか・・・これは夢でも見せてしまったほうがいいでしょうね>
二人の夢でつないで、二人にわかる姿で夢に出る。
<コージさん、カケル、起きて>
夢の中で二人を起こす。
「真帆なのか?」
「お母さん?」
<ちがうわ、二人に話があって姿を借りてるの>
「お母さんじゃないの・・・」
カケルが泣きそうになりながら私を見ている。
<カケル、今だけお母さんになるから、大事な話聞いてくれる?>
「うん、お母さん」
抱きしめて、目を見ながら話す。
<今、夢の中で二人に話しているんだけど、二人がおきたらフルータっていう遠い世界へ飛んでいってしまうの。私はフルータの世界で神様みたいなことをしてるんだけど、このまま二人を召還されてしまうと体とかが弱すぎてすぐに殺されてしまうわ。だから、フルータで普通に生活できるだけの体と特別な力をあげるわ。だから、コージさんもカケルもどんな力がいいか考えて選んで。地球の別の場所で同じように飛ばされる人が居るけど、その人たちは人数が多いから、一人一つしかあげられなかったけど、二人には5個上げるね。
後30分くらいで未熟な召還士さんの魔法が完成するから、コージさんと一緒に考えてね>
「わかったよ、お母さん。一つはね、決まったの向こうでもお母さんと会いたいから、会える力がほしい」
<カケルは亡くなったお母さんに会いたいの?>
「うん、でも、もう本当のお母さんはもう居ないのはお父さんから聞いて、いっぱい泣いたけど、夢の中で会いに来てくれたお母さんに向こうでも会いたいな」
・・・【ヘスティア召喚】が選択されました・・・・
<あらら、子供の純粋な願いは強いわね・・・>
「これでお母さんと会えるの?」
<カケルが頑張って強い子になったら、会えるわ。それまでは呼んでくれたら夢で会えるかな>
「お父さん、またお母さんに会えるって」
飛び跳ねながら喜んでいる。
「良かったなカケル、頑張って強くならないといけないね」
「うん、もう泣かないよ。強くなって今度は僕がお母さんを守ってあげるんだから」
<ありがと、カケル。じゃあ強くなる為にどんな力が要るかな?>
「ん~、お母さんを守れるくらい力持ちになりたい。お母さんに笑われたくないから、いっぱい勉強できるようになりたい。かけっこで一番になってお母さんに見せたい。病気して心配かけたくないから、元気でいたい。ん~他には、他には~」
<じゃあ、今言ったのを順番にコージさんに決めてもらおっか>
「お父さん、さっき言ったことが出来るようにはどうしたらいいの?」
「今は真帆と呼ばしてもらうが、向こうの世界は成長や経験による能力の上昇はあるのか?」
<あるわ。特殊なスキルや道具がないとわからないけど、成長による能力上昇と経験や訓練によるレベルアップで能力が上がったり、スキルがレベルアップするのよ>
「わかった、カケルには、取得経験値上昇、状態異常無効、能力値最大、スキル取得時レベル最大」
<状態異常無効はお勧めしないから、状態異常任意解除にしておくわ。能力値最大は、肉体・精神の成長に応じた最大値が上限になるわ>
「そっちの世界の状態異常は特殊なのか?」
<簡単に言うと、転移下段階で今ある状態が正常という認識になるわ。だから、強化魔法が効かない。強化される分が異常扱いになるわ。それにスキルやアイテムで発生する状態異常はスキルでも解除できるけど、日常生活で発生する病気やウィルスや細菌による症状はスキルが効きにくい>
「プラスもマイナスも等しく状態異常か・・・スキルも万能ではないか」
<そういうことよ>
「俺の方は、取得経験値上昇、状態異常任意解除、能力値最大、スキル取得時レベル最大、転移」
<転移の意味は?>
「簡単に言うと、召喚の上位カテゴリーを想像している。自分自身や周りを瞬間移動とか、任意の空間からの物の出し入れとかね」
<わかったわ、条件をつけさせてもらうと、脳がある生物はこの世界に持ち込めないし持ち出せない。これでよければ能力として登録するわ。後は、類似する能力をこちらで付けさせてもらうわ>
「それでいい」
「お母さん、次ぎ会うときはいっぱいお話しようね」
<カケル、楽しみにしてるわ>
召喚が始まったのだろうか、辺りを光が包み込み、二人は意識を失うように横たわった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
お父様、お母様、レイ兄様、リン姉様。みんな無事でしょうか、辺境伯の居城があるビグスがアビラック王国から襲撃されて既に5日、連絡が途絶えてしまっている。
宣戦布告無しの強襲に応戦しているとの早馬が届いたのは昨日。私の力ではビグスに向かっても無意味であることは明白だった。
お父様の古くからの友人であるリーノ男爵に助力を願う為、護衛とともに馬車を走らせていた。
突然馬車が横転しドアや天井に打ちつけられた。
「姫様ご無事ですか! 5人は森を警戒、ジーノ一緒に姫様を馬車から御救いするのだ!」
「私は無事よ!」
腕が痛むが声を張り上げる。
頭上にあるドアからジーノが馬車に入り込み、「失礼します」といいながら持ち上げられた。ホッとしたのもつかの間、いくつもの風切り音が聞こえ、御者や護衛達の馬に突き刺さる。
警戒していた護衛の一人は首に矢を受けて倒れていた。
「全員ぶっ殺してでも金目のもん奪っちまえ!!」
「ジーノ、姫様を守れ!その他の者は迎え撃つぞ!」
襲ってきた者たちは武器こそ持っていたが平民の服であった。しかし、数が多く護衛たちはすぐに劣勢に陥った。
「風よ集いて刃と為せ」少しでも力になるために魔法を行使する。
精鋭と謳われる護衛たちもジーノを残し、傷つき倒れた。
「後は、兄ちゃんとお嬢ちゃんだけだが、この場で死ぬかおとなしく俺達についてくるか選びな」
返り血を浴びた盗賊が声をかけてくる。
「あなた達に捕まるわけにも、死ぬわけにもいきません!私にはやらなきゃいけないことがあるんだから」
「俺達にゃそんなこと関係ないんだよ、強情な嬢ちゃんから死にな」
槍を向けて盗賊たちが襲って来る。恐怖に目を閉じてしまった。
「ギャァ!!」
既に槍で貫かれていてもおかしくないのに痛みも襲ってこない。
少し目を開けてみると、啖呵を切ってた盗賊の姿はなく、何人かの盗賊は首や腹を切られ倒れていた。
そして足元にはジーノの胴体だけが横たわっている。
「何が・・・」
「逃げろ!ワイバーンだ。お頭がやられた!」
空を舞うワイバーンを見上げ、その足に捕まれた人の形をした何かが目に入る。
ワイバーンはゆっくりと空を舞い盗賊たちが逃げ去り、死体と私だけが残された場所へと降りてくる。
恐怖で動けない。死体を咀嚼している間も目はこちらを捉えている。
何か行動を起こせば即座にあの足や牙に切り裂かれるだろう。
馬の死体を含め三体ほど食べたワイバーンは馬の死体を持ち上げ飛び立った。
残った私には目もくれず、魔の森のそらへ向かっていった。