全ては貴女のために~ミミズな俺は騎士になる~
貴女のためならば、どんなことでもいたしましょう。
世界が欲しいのなら、たとえ魔王だろうと倒してみせよう。
俺のこの身の全てを、貴方に捧げます。
そんな俺は
ーーミミズである。
小さな頃から彼は美形な両親に似ず、とてもブサイクだった。両親は”彼”の事が嫌いで、2年後に産まれた可愛い妹ばかり構っていった。幼稚園ではいじめにあい、小学校でもいじめにあい、中学生になってからは暴力まで振るわれ、金まで取られるようになった。”彼”は周りの奴らにとって、ストレス解消の・・いや。壊れてもどうでもいい、オモチャだった。
ーーもう、死にたい。生きてることが・・辛い。
”彼”は怒り・・いや、もうそんな気力もないのだろう。世の全てに絶望したかのような目で、淡々と遺書を書いた。両親が育児放棄していて、誕生日などを祝われたことなどないこと。妹は両親の隙を見て”彼”に酷いことを言われたと嘘をいい、周りの妹が大好きな男たちを使って”彼”に暴力をふるわせたこと。中学の奴らが死ね、消えろなど毎日言ってきて、沢山、たくさん暴力をふるわれたこと。”彼”・・いや、”俺”は全部覚えてる。絶対に、絶対にユルサナイ。皆みんな、死んでしまえ。
”彼”は遺書を警察に送り、夜。学校の屋上から朝皆が通るであろう場所に飛び降りた。
ーーあぁ、これで楽になれる
そう思いながら。
・・・
暗い・・。ここは・・どこだ?
俺は・・?
ああ、そうだ
ーーー俺は死んだーーー
手や、足の感覚がない・・体が、動かない。周りに何か、柔らかい・・ん?硬い?それに・・暖かい・・。
うっすらと、暗闇の中に光がある・・。動け!動け!そして”彼”は、まるで芋虫のようにウゴウゴと、そこを目指して進んだ。
あと少し!と思ったところで、いきなり”彼”の視界が開けた。
俺、土の中にいたのか・・。
”彼”は土の中にいた。なんと、ミミズになっていたのだ。”彼”の視線の先には、二人の少年がいた。”彼”と少年たちの視線があった。
「うわっ!ミズントじゃねえか!気持ち悪い!死ね!」
「バカッ!こっちにやんなよ!あっち行け!」
痛い!痛い!
少年たちは”彼”を蹴ったり、持っていた鍬で刺したりした。少年たちにとって”彼”は人間ではなく、魔物だ。同じ”人間”ではない。
いやだ。いやだ。なんでこんな・・。
死んで痛みから・・苦しみから解放されたと思ったのに!
もう嫌だ!痛いよ・・。誰か・・
タ ス ケ ・ ・
誰も助けてはくれないと知っていながらも、”彼”は望んだ。
ずっと昔にとても、とても望んでいたただ一つの願いを。
その時畑の向こう側から、お腹のあたりまである二つに縛った赤茶色の髪、意志の強そうなエメラルドグリーンの瞳をした7、8歳くらいの、一人の少女が現れた。
「こらー、あんたたち!そこで何やってんのよ!!」
その声が聞こえると、少年たちは体を止め、”彼”から少女に視線を移した。
「うわ、リアラだ!」
「逃げろーー!!」
少年二人は、少女の存在に慌ててその場を離れていく。
それを見た少女は腰に手を当て、呆れたかのように息を吐いた。
「ったく・・ん?」
”彼”は、恐怖に震えた。
また、自分を傷つける存在が来たのか、と。
リエラと呼ばれた少女の手が、”彼”に伸ばされた。
そして彼は、諦めたように目を瞑った。
「大丈夫?ミズントさん」
・・え?
”彼”はおそるおそる目を開けた。目の前にはしゃがみ込み、心配しているような顔をしてこちらを見ている少女がいた。
「あ、怪我してる。彼奴ら・・」
「治療」
少女の手が、淡く光だした。その手を”彼”にゆっくりと近づける。
傷が治っていく・・それに、暖かい。
「ん、よし。これで大丈夫」
「リエラー!ご飯の時間よー!!」
「はーい!今行くねー!!」
母親に呼ばれた少女は立ち上がりこの場から去っていくがなぜか立ち止まり、振り返った。
「こんどから気をつけるんだよ?バイバーイ!」
夕陽を背に走る少女の、暖かい満面の笑み。
ポロッ・・・・ポロポロ・・・・
気づけば、涙を流していた。そう、”彼”は初めて知ったのだ。殴るためではなく、優しく触れてくれた暖かい手を。そして自分に向けられた、あの笑顔を。
きゅううううううう・・・胸が苦しい。
”彼”は嬉しさを知った。そして、幸福を知った。
こんな俺に初めて優しくしてくれた人。ちっぽけだけど、俺の命をあげる。
君がピンチになった時は、何をしてでも絶対に助けるよ。たとえ、この身を盾にしてでも。
君のためなら、なんでもします。だからまた、笑ってください。
ーーーそれが俺の、心からの望みですーーー
主人公、ミミズではなくミズントという雑食の魔物です。姿形はミミズですが牙や目などあります。