ガリ転生 目覚めたら寿司屋のショーケース
意味が分からない。
おれはどうなっちまったというのか……ある時、ハッと目が覚めたら、寿司屋のショーケースの片隅に納まっていた。ホワッツ!?
しかもガリ。つまりショウガ。
あのね、根生姜を薄く切って甘酢漬けにしてね、薄紅に着色されたりしているヤツね。
この理不尽……。
しょうがだけにしょうがないねってうっさいわ、とか一人芝居でお茶濁すくらいしかないっていうね。
お茶濁すといえばお寿司屋さんで出されるお茶(あがり)って粉茶が好まれるからか濁ってることが多いですよねってぜんぜん上手くもなんともないね。
どうすんだこれ……。そう思っている内にも、ガリ置き用のプラ小箱からはご同輩が次々にお品出しされてゆく……っていうかお寿司さん方の添え物になってゆく。
遠からず己の番も来る。この身の儚さはもはやいかんともしがたく、ならばせめてと潔く何を決めるべきか。
ガリなれば……。そう、我が身ガリなればこそ、すなわち美味しく食されんをや。
ああ、添え物扱い至れしご同輩を見よ。彼らの粗方、食されることすらなくお片付けの境地をや。
しからずんば、我、ガリなれの身たる本懐を遂げんとす。
――カッ! とまなこを見開けば。
見える、私にも見えるぞ。カウンター席に座るお客さん方の中、我が美人カウンターにキュンキュンくるおねーさんが御一名おられますぞっ!
あの人のお口のもとへぇぇ~~! 念じる、念じるのだっっ!!
やがて職人さんの手に掴み取られ、一人前盛り(上)の添え物としてお出しされちゃうおれさまちゃん。
その寿司下駄の行く先は、そう……。
おねーさん、を連れた隣の……中年アブラギッシュおっさんでしたぁぁ~~~やだぁぁ――っ!!
ぐふぅ。おれは、敗北……ルーザー、負け犬。
あと何分もしない内におっさんの口の中か、あるいは手をつけられることすらなく廃棄か。
もう駄目だ。立ち上がれない失意体前屈(orz)状態待ったなし。
「ふふふ……」
なにやつ!?
このおれの意識に語りかけてくる、隣の、席の……ガリ、だと?
「残念だったねご同輩。ボックちんはおねーさんのお口の中を堪能させていただいちゃうよ」
キサマ!?
勝ち誇りおって! というかなんだおれ以外のガリどもにも意識がありやがんのかそうなのか?
いや……違う。感覚に悟るものがある。あれも、おれだ。同じガリ置きから別たれた兄弟たち。擬似分体。そう……。
おれたちは、いわば、ガリ群体だったんだよっっ!!
な、ナンダッテーおめがおめがおめが。
……つまるところ、あれの感性、尊ぶ価値などはこちらと同じなわけだ。
勝ちと負けの意識も。だからこそ上から目線が成り立ち、そして見下してくる!
「くやしいのうくやしいのう。しからば……サヨナラ!」
そうしてヤツは見事、本懐を遂げていった……。
へっ、ここまで勝ち誇られたらいっそ清々しくなってくらぁな。ああ、おれの負けだよ……。
さて、と。次はおれの番、負け犬は負け犬らしく噛み潰されてきますかね。
おっさんの手が伸びてくる。箸ではなく手掴み派か。生温かいが、寿司屋ならばそれもよかろう……。
「おいおい。諦めたらそこで試合終了だぜ……?」
やたらお渋い声が!
今度は誰だ! ……三つ隣の席、手つきもあやしく指先がぷるぷる震えてそうな爺さまの、そのまさに摘まれようとしているガリさんから。
声が語りかけてくる。眉毛太そうな感じで。
「おれらの役目はよ、お客さん方に本命のお寿司をいかに美味しく召し上がっていただくかっていう、縁の下の支え役みたいなもんさ。だから――」
そのガリさんは続けてくる。
やり遂げた男の笑み(が見えそうな雰囲気)をきらりと向けて。
「覚悟一つ決めたならよ、ガリらしく爽やかに食べられこそすあふん」
ガ、ガリせんぱーい!
セリフの途中で齧られちゃったよ……。これだからじじいは空気読まない。
だが、ガリ先輩よ。あんたの男気、おれにも伝わったぜ……?
さあ、おれもおっさん口元まで秒読み段階。
もはや身の処するにあがく余地なし。ゆえにこそ我が身、全霊一投をもて――
いざ逝かん!
おっさんよ、美味しく召し上がりあれぇー!
彼の散り様を。いやさ成し遂げた男の昇天を。
いまだ冷え置かれたるショーケースの小箱の中から見届けし待機ガリたち。
その彼らにも心意気は届いていた。まるで敬礼を捧ぐように、きりりと揃えられた眼差しだけがそこにあった。
「ムチャしやがって……」「待ってろよ。オレらもすぐ逝く」「あんたも、漢さ」
と……。
(おわり)
とある底辺な作者スレ(電子掲示板スレッド)における雑談ネタを、著者なりにヒネってみたものです。
あの時の同士たちには感謝を。あなたも書いていいのよ……?