プロローグ
かつて、戦士がこの世界を救った。
魔法を操る彼彼女らは、壊れかけていた世界を救ったのだ。
しかしその力はあまりにも強大すぎ、戦士たちは耐え切れず、終戦と共にこの世を去った。
だがその力は戦士らが死んでもなお消えなかった。
彼彼女らはきっと、その力にまた導かれ、還ってくることだろう。
そのときにわたしたちは、彼彼女らに伝えよう。
「大切な友人であった、と」
静寂と暗がりの中、男はおとぎ話として伝えられてきたはずの分厚い書物を、鈍い音を立てて閉じた。
男は何年も待ち続けていた。この時を、かつての戦士らが還ってくるこの時を。
男は狂気にも似た嬉々を口元に浮かべ、書物を手に歩き出した。数歩の距離だ。その床にあったのは、鉄板に紛れた重々しい鉄の扉だった。
「さあ、お仕事が始まりますよ。大好きなお仕事です」
語りかけても返答はない。あたりには機械の呼吸音、電子音ばかりが、脳のシナプスと繋がっているのではないかと錯覚するほど、常に常に鳴り響き続けていた。当然だ、ここにあるのはそういった無機質なものだけなのだから。床下からだけは、しかし異質な呼吸が聞こえてきた。肉を介した呼吸だ。
男は楽しそうに愉しそうに、まるで親にプレゼントされた絵本を読むこどものように、再び本を開いた。
戦士らが闘った最後の地とされるシェオル島は、再び戦火を灯すにはあまりにも雑然としていた。
シェオル唯一の国家、ローマス王国。
自然と人と物資とに富む集落、サンガルタン。
機械化した完全中立地域、ライブラリ。
そして、海沿いを陣取る傭兵集団、アセレート。
しかし魔法と呼ばれた力は、今では『色』と名を変え、ひっそりと残っていた。
戦士はまだそこで、眠っていた。
――プロローグ――