12話 出入口捜索
「皆、こっちに集まってくれ!」
エースが声を上げ、ギルドメンバーを一ヶ所に集める。それに乗じてエコーもエースの元に戻り、耳元で『撮影完了しました』と囁いた。エースはそれに対し、了解の意を込め頷いた。
「先ほども言ったが、俺がオールイーターのギルドマスターだ。名前はエース。こいつはサブマスターのエコー。お前たちの自己紹介は後でいい、時間が惜しいからな。早速だが攻略を始めるぜ。俺たちの最初の目標は誰よりも早くモンスターと戦うことだ」
エースは自分とエコーを紹介し、最初の目標を伝える。それを聞き、メンバーは、特に新入りの7人は顔を強張らせている。
「い、いきなりですか!?武器も持って無いんですよ!?」
新入りの男性一人が異を唱えるが、『いえ、武器なら有ります』とエコーが遮った。
「ご自身のインベントリは確認しましたか?いくつか武器が用意されていますよ」
その言葉にエースも思わず、システムウィンドウを開き、インベントリを確認する。ヘルプ項目ばかりに目が行き、インベントリの確認を疎かにしてしまっていた。気付いたエコーのファインプレーである。インベントリには確かに、『木の長剣』『木の盾』『木の短剣』『木の弓矢』『木の杖』があった。
エースはその中から『木の長剣』を選択してみた。ピロン、という選択音と共に武器が現れる。それはエースの目の前で、使用者を待つかのように宙に浮いている。いつの間にか皆の視線が集まっていたが、エースは構わず『木の長剣』を手に取り、まじまじとそれを眺めた。
「これ…ただの木刀だ…」
エースのその呟きが聞こえたのか、先ほど異を唱えた新入りが更に不安げな顔をしている。恐らく彼は生産職希望なのだろう。戦闘には乗り気では無いようだ。
「木刀でモンスターと戦うんですか!?殺されちゃいますよ!」
もう涙目だ。その彼の後ろではビーが『木の短剣』を取り出し、手に取って調べている。
「木刀ならまだマシっすよ。この『木の短剣』なんかどう使えばいいんすかね?ペーパーナイフ以外の用途が思い付かないっす」
長さ20センチ程のナイフの様な木製の短剣を、ビーは訝しい目で見ている。もちろん、木製なので刃などない。正にペーパーナイフである。
「そう怯えなくていいと思いますよー。つまりはそんな初期装備でも倒せるモンスターしか、この近くには居ない、という事なのでしょう」
そんな中、ジートが間延びした口調で皆を落ち着かせる。スキンヘッドの巨体に対して、柔らかな口調。そのギャップの大きさと正論性から、皆『『お、おう。確かに』』と妙に納得した。
更にジートは不安げな表情の新入りと女性2人に『大丈夫ですよ』と優しく声をかけている。ジートはこの様なフォローが自然に出来るイケメンだった。しかし、このゲーム内での見た目は完全にDQNなので、彼等からは逆に怯えられてしまっている。その珍しい光景を見ていたオールイーターのメンバーの数人は笑いを堪えるため、口元を手で隠し、肩を震わせていた。
「よし、全員腹括れ。君も、女性陣も、だ。モンスターと戦うぜ。まずはこの町の外に出なければな。手分けして外に出る門を探そう」
「ギルマス、ちょいと待った」
門を探すというエースに提案に待ったが掛けられた。オールイーターの中枢メンバーの一人、ティーガーである。エースはどうした、と問う。
「この街並み、ヨーロッパのそれに雰囲気が似ている。ほら、近くに大きな城があるだろう。ここは城下町だ。ヨーロッパの城下町ってのは、兵士を行軍させるための道が広く作られている、町の外までな。つまり、俺の予想では…」
ティーガーは我々が今居る噴水の広場に接している、別々の方向に伸びる3つの大通りを順番に指で示した。
「あの3つの大通りの先に、外に出られる城門がそれぞれあるはずだ」
「成程、流石だな。ティ…いや、新人くん」
思わずティーガーの名前を呼びかけるが、思い留まる。名目上、エコー以外の仲間は全員先ほどの勧誘した者たちである。面倒くさいが、少なくとも新規加入者の前ではその設定でいなければならない。
ティーガーを褒めたその時、エースはある事を思い出した。
「ヘルプにエルヴァール国について、こう書いてあったな。『北と西に平原があり、南は海に、東は森林に囲まれた自然豊かな国』と。つまり、この街の北門と西門から出れば、平原に。南門は海岸に。東門から出れば森ってことか」
エースの言葉に今度はティーガーが気付く。
「あの3つの大通りの先に、それぞれの門があり、なおかつ、四方角に門があるとするならば、残る一つの門は…向こうだな」
指で示すティーガー。指先は城の向こう側を示していた。城の裏側である。城内を突っ切る形で移動できれば簡単なのだが、閉じた城の門が目視できる。中に入れないのだろう。だが、迂回する道を選び進めば、外へ繋がる門へと辿り着ける可能性はある。四方向の内、どの道を選ぶべきか、皆が相談する中、エースは難しい顔をしていた。
「クソ、方角が分からん。出来ればスタンダードな平原に行きたいものだが…」
上空を見上げ、太陽の位置から東西南北を割り出そうとするエース。しかし、不運なことに太陽はプレイヤー等の真上であったため、おおよその方角すらも検討がつかない。エースは悪態をつく。更に言えば、太陽が傾いていてもVR世界と現実世界とで、方角が同じとは限らない。方角を割り出す他の方法もまた同じである。その考えに至り、エースは仕方ないと決心する。
「この15人を4つのチームに分ける。俺とエコーと君と君は向こう。そして…」
有無を言わさずエースは4つのチームを作る。チーム分けはエース、エコー、ジート、ビーが正面の大通り。ピースと新入りの男性3名が右、ナッシュと新入りの男性1人及び女性2人が左の大通りへ。そして、城の裏側にあるとされる門への方向には、それを予想したティーガーにカーグと新入りの男性1人を加え、行くことになった。チームのリーダーはそれぞれ、エース、ピース、ナッシュ、ティーガーである。
「各チーム、そのメンバーでパーティを組んでください。システムウィンドウからパーティの作成が出来ますよ。私とエースと各チームのリーダーはお互いにフレンド登録を済ませておきましょう。何かあればエースに連絡をしてください。エースに繋がらない場合は私にお願いします」
エコーが具体的な指示を飛ばす。エコーはキャラメイク時の余り時間で多くのヘルプに目を通していた。中にはスクリーンショットについての項目など、読み飛ばしている物もあったが、大体は閲覧していた。パーティやフレンド登録についても同様である。この速読力は化学者であった過去を持つ所以だろう。
各チームでパーティを組み、エースたちはフレンド登録を行う。フレンド登録により、チャットやメール、アイテムの受け渡しなどの機能が使用可能になったようだ。
「準備できたな。ならば早速行くぞ。おい、歩くな!急いで外に向かえ。全員駆け足だ!よし、俺たちも行くぞ。はぐれるなよ。すみません!ちょっと通ります!通りまーす!」
4つのチームが四方に向かう。皆、歩いて向かおうとしていた為、エースは走れ、と喝を入れる。慌てて走り出す皆の後ろ姿を見て、エースも定められた方角へと駆け出し、プレイヤーで溢れかえる広場を通り抜ける。すみません通ります、と声を上げ、右手で軽いチョップを繰り出しながら、エースたちは町の外に出る門に向かって駆けていった。