孟徳さんは結構気のきく姉御(?)タイプです。※
翌日、謹慎中の夫に見送られ職場にやって来た瓊樹は、ニコニコと笑いながら近づいてくる主に頭を下げる。
「お早うございます。孟徳様。今日も、素晴らしいお天気で良かったですね」
「おはよぅ~ん! 瓊樹ちゃん、早いわねぇ? 折角旦那が帰ってきたんだから、遅刻しちゃいなさいよぉ? 元譲寂しがってたでしょぉ? 元譲、見た目はいかつく見せてるけど、瓊樹ちゃんみたいな可愛い可愛い子が好みのように、でれでれ系なんだからぁ~。良いわねぇ。夫婦仲良くって。家なんて冷めてるわよぉ? 酷いの。息子達だって可愛くないし……もう、瓊樹ちゃんみたいな可愛い可愛い女の子が欲しかったわぁ~」
「閣下」
背後から聞こえる声を無視し、ぎゅっと瓊樹を抱き締める。
瓊樹は硬直する。
主であるし、その上夫の従兄……もし何かあっては夫に申し訳ない……。
「あ~ん。触り心地最高ね~!! いいわぁ~。そうだわ!! 瓊樹ちゃんっ! 家にいらっしゃいな!! 瓊樹ちゃんなら大丈夫よ~ん!! 家にすぐ慣れるわよぉ!! ねぇ? 良いわよねぇ? 大丈夫。元譲には上手く言っておくわ~」
「閣下」
「何なら、元譲の所には、妙才ちゃんを放り込んじゃうし~? あぁ、そうそう。実はねぇ~元譲、戦いの時は妙才ちゃんと仲良しさんなのにぃ、普段は仲悪いのよぉ~。元譲は勉強しろってお説教して、妙才ちゃんってばお勉強嫌いだからぁ~。孟ちゃん困っちゃう!! 」
「閣下。耳が、と言うより頭が壊れましたか!? 元譲どのが怒ってますよ!! 」
その声にようやく気がついたっといった風に振り返る。
「いやぁねぇ? 見てたの? 元譲に公達ちゃん。こそこそ覗き見なんて趣味悪いわよぉ~? 」
「私の瓊樹に触るな!! 孟徳!! 」
「閣下!! 覗き見と言うのなら、このような回廊で女人をベタベタ触りませんよう!! そして、け……文若!! お前は警戒心が足りないと何度いったら解る!! お前は、元譲どのと結婚してから緩みがちだと何度説明した!! それに、元譲どの!! 貴方と結婚してからの、文若の緩み具合、元譲どのの責任ですぞ!! 規律を守らねば……と、閣下!! 閣下が規律を守らずして如何なさいます!! 良いですか!? 」
「あぁん、もう。公達ちゃんはお説教ばっかり~、元譲何とかしてよぉ~」
訴える従兄に、冷たく、
「瓊樹を離せ。で、大人しく公達どののお説教を受けてこい!! この頭に花咲かせた孟徳が!! 何が孟ちゃんだ!! 気色悪い事を言う暇があれば、妙才と一緒に一から勉強してこい!! 倫理的な事からな!! 」
「ひっど~い!! あたしと瓊樹ちゃんの仲を何だと思ってるのよ~。いやぁねぇ? 男の嫉妬って」
「……一回やるか? 」
圧し殺した声で、従兄兼上司を睨む。
「や~あ~よ~だ。元譲のけち~!! 貸してくれたっていいじゃな~い!! 」
「誰がお前に貸すか!! 瓊樹は私の妻だ!! お前の毒牙にかけるつもりは更々ない!! 」
瓊樹をひょいっと抱き上げた元譲は、
「帰るぞ、瓊樹。数日内お前の調子が悪いんだ。では公達どの、孟徳様をお願いします」
「解りました。瓊樹をお願いします。と言う事で、閣下は妙才どのと二人勉強ですよ。良いですか」
「えぇぇ~!? 酷いわ!! どうしてあたしが~!? 元譲助けてよぉ~」
「知るか!! 」
「えぇぇ~意地悪! 」
と言いながら、孟徳は目が合った瓊樹に片目をつぶって、口を動かす。
『元譲と仲良くねぇ~? さびしんぼさんだから、甘えてあげてよねぇ~? 』
クスッと笑った瓊樹は、言葉の代わりに夫の首に腕を回したのだった。




