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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
その時一体どんなことを考えているのでしょうか?
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これです!!これが書きたかったんです!!※

 どっと疲れながら我が家に戻った元譲げんじょうは、優雅にすそをさばき歩み寄ってくる妻の美しさに目を細める。

 何時見ても、瓊樹けいじゅは誰よりも美しく、愛らしい。

 元譲の自慢の妻である。


「お帰りなさいませ。貴方様。大丈夫でした? 火に巻かれたと伺いました。お怪我は!? 」


 心配そうにそっと腕や肩の包帯を確認する妻を、そっと抱き締める。


 元譲の妻、瓊樹の姓はじゅん

 そして、出仕する際は男装をし荀彧じゅんいくあざな文若ぶんじゃくと名乗り執務に励む。

 おおやけには曹孟徳そうもうとく懐刀ふところがたなであり、わたくしでは元譲の愛妻でもあった。


「大丈夫だ……それよりも、瓊樹はどうだった? 私が稼ぐから金の為と言うのなら、働く必要はないのだぞ? そんなに収入はないのか? 」

「違いますわ」


 瓊樹は微笑む。


 いかついと言われているが、夫は一番凛々しく格好良く、そして優しい、愛おしい夫である。

 言葉には本当に自分を心配してくれているのが良く分かって、嬉しく、そして幸せである。


「収入の事は心配ありません。それよりも、一日も早く戦争を終わらせ、人々の生活が落ち着くよう……そして孤児の事、荒れた田畑に廃墟の村……それをどうすれば良いかと公達こうたつ兄上や他の内政担当の方々と話しているのです」

「そうなのか……公達どのと……」


 元譲の奇妙な表情に、瓊樹は微笑む。


 ちなみに公達とは荀攸じゅんゆうと言い、7才年上だが血筋的には瓊樹の甥になる。


「兄上がきついのは、ただ拗ねているだけなのですわ。私、少し気を抜いてしまうと貴方様の事ばかり考えてしまって、怒られてしまうのです。……実は今日も、兄上に何をしているんだと言われて……素直に貴方様が酷い怪我もなく、帰ってこられますようにと考えていると言ってしまって……」


 かぁぁっと頬を染める妻に、元譲は頬を緩める。


「大丈夫だ。火傷はない。ただ一騎討ちで少々怪我をした位で……な、何故泣く」


 ポロポロと涙をこぼす妻に慌てる。


「だ、大丈夫だ!! 相手はそう強くない!! 関雲長かんうんちょうは私情で怪我をし、出ていなかったし、張益徳ちょうえきとくも裏方だった!! 戦ったのは趙子竜ちょうしりゅう……」

「えっ? あの小さな女の子? 劉玄徳りゅうげんとくどのがさげすんで『破鏡はきょう』と呼んでいた……」


 妻の記憶力のよさに内心舌を巻きながら、答える。


「いや、名前はそう名乗ったが、その趙子竜ではない。8尺の長身で白髪に黒い瞳の20代の男だった。先程、孟徳もうとくに聞いたら、最近劉玄徳の幕下ばくか諸葛孔明しょかつこうめいという男が入ったらしい。襄陽じょうよう水鏡老師すいきょうろうしの弟子で、私が今回負けた戦の戦術を4才で、たてたそうだ」

「待って……諸葛、諸葛……諸葛子瑜しょかつしゆと言う方が現在、江東こうとうにいるわね。確か12才で琅邪ろうやの地から洛陽らくよう長安ちょうあん遊学ゆうがくした天才児。兄弟がいて、7才下の弟が孔明と言うのよ。そう。『臥竜がりゅう』だわ」

「そこまで解るのか? 」

「その人が戦場に立った? 劉玄徳どのは又何をしようとしているの!? 何も関わりもない、隠棲して過ごしたいと『臥竜』は言っていたと聞いているわ!! どうしてそんな人を戦に引きずり込むの!? 又戦をもてあそぶの!? 劉玄徳どのは狂ってる……狂ってるわ!! どうして、自分の限りない欲望に、関わりのない人々を周囲を巻き込む訳!? ひどい!! 」


 泣き出した妻の背中を撫でる。


「大丈夫だ……劉玄徳の事は任せておけ。私達が何とかする。その代わり、瓊樹は荒れた農地の開墾、収穫量の多い植物に飢える事のない街作りがあるだろう……それ以上は抱え込まないでくれ……私の事を時々忘れてしまっているような気がして、仕事の事を嬉々として、楽しそうに話すのに妬ける……」


 最後にボソッと漏らした一言に、瓊樹は泣き笑う。


「私は、いつも軍略の書簡ばかりにらめっこしていたり、孟徳様や妙才みょうさいどの、黒雷こくらいのお話ばかりの時は一杯嫉妬しますのよ? 」

「なら、どちらも一緒だな」

「そうですわね……」


 二人は互いの温もりを確かめるように、しばらく佇んでいた。

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