月英さんは有言実行、行動派の人のようです。※
その日の夕刻、孔明が連れ戻った人物に3人が目を輝かせる。
「お客様よ! 」
「お客様だわ!! 」
「それに、素敵!!!! 少し悔しいけど美人さんだわ! 」
集まってくる3姉妹……孔明が言うには1人は男の迫力に月英は、後退り退路を探す。
「姉上方、均。私の友人の月英どの。襲わないように! 特に紅瑩姉上、懐の暗器(暗殺用武器)を出してください。晶瑩姉上その拳鍔(拳で戦うための補助武器)は、外しましょう。友人に何するんですか。……申し訳ないです。月英どの。こちらが上の姉の紅瑩。投擲武器の使い手です。隣が下の姉の晶瑩。拳術や、蹴りと言った接近戦の猛者です。どちらもたしなみ以上の剣術に弓や弩、矛や戟も扱います」
溜め息をつきながら孔明は紹介する。
「そして、この子が弟の均です」
「……はぁ? 」
どこをどうみても、隙の無いといえば良いが、品は余り上等と言えないものの衣の着こなしも、生花の飾りも女の子以外に見えない。
「……こ、孔明……」
「姉たちよりも女の子らしいですが、男です。で、こちらが姉たちです」
全身に木の葉や土を浴びていて汚れているものの、全身の華奢な印象といい、生物学的には女性らしい。
惜しむらくは、弟は身綺麗にしていて、衣を……多分仕立てたのは孔明らしい……大事に着ているものの、姉二人はがさつは失礼かもしれないが、おてんばという域を超えた運動量の多さの為、衣はあちこちが綻び破れ、穴が開いている。
しかも庶民からしても古着とはいえ中々の品の衣を、何の遠慮もなくかぎ裂きはないだろう。
自分も似たようなものだが、自分は一応仕事用と普段用は別にしている。
それより姉たちは良いものを着ているが、孔明は色は褪せていると言うより、元の色が完全に消え失せたくたびれすりきれている古びた衣……これは、余りにも酷くは無いだろうか。
一瞬眉を寄せた月英に、
「ところでどうしたの? 孔明。魚釣りは? 良いお魚釣れたでしょうね? 」
「そうそう。大きなのが良いわ!! 」
「えぇぇーっ。最近少しぽっちゃりしてきたから余り大きいのは嫌よ」
口々に口を開く3人に、
「ハイハイ。ちなみに今日は魚釣りしませんでした。残ってる肉を使います。それに、姉上たちが鳥を仕留めたのでしょう? さばいておかないといけませんね」
「そうなのよう。私が仕留めたの」
「姉様だけの手柄じゃ無いでしょう! 私だって鳥を姉様のいる所までおびき寄せたじゃないの」
睨み合う二人を茶化す声。
「姉さんたちは、二人で半人前だものね。それに比べて……」
「3人とも落ち着いて。月英どのに、失礼でしょう」
たしなめる孔明の声に3人は我にかえる。
「あ、ごめんなさい。月英様」
「孔明について来たってことは、孔明の趣味の星見のこと? もしくは孔明が注釈を入れようって考えてる春秋や、孫子の兵法書について? それとも貧乏料理を習いに来た若奥様? 」
あっさりと口を開く二人に、孔明は睨み付ける月英から目を反らす。
「駄目よ。良いところの若奥様と密会なんて」
「諸葛家はそう言ったことは厳しいし、兄上にばれたら卒倒ものよ」
次々弾丸のように飛んでくる言葉に月英は、
「申し訳ないけど、オレ未婚だから、密会も何もないし……」
「じゃぁ、孔明の彼女さん!? 」
「やったじゃない、孔明。さて、式はいつするの? 」
かしましい声に、
「オレは男だ!! 男と結婚する趣味はない!! 」
怒鳴る。
そして、くるっと振り返る。
「孔明!! この二人の破壊兵器は、速攻嫁に出せ!! 個別ならなんとかなるが一緒になると破壊度が増大する。そして、この弟だが女装するなら徹底的にしろ! 徹底的にだ!! これじゃ姉たちのがさつさを少しなくしただけにすぎん!! 」
「えっと……」
顔をひきつらせる孔明に、月英は言い募る。
「明日にでも衣装や飾り等々、古着にはなるが持ち込むぞ。それと、さっき話した案、実行に移させて貰う。金はこっちが出すから安心しろ。じゃぁな!! 」
颯爽と立ち去っていった。
「破壊兵器はって酷くない? 」
「そうよ。酷いわよ」
ぶっとふくれる姉たちに苦笑しつつ、明日から起こる事に思いを馳せた。