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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
惰眠をむさぼっていた竜さんがお目覚めのお時間のようです。
56/428

公瑾さんは中間管理職で、大変苦労しているようです。※

 9人はゆっくりと歩きながら、子瑜しゆの屋敷に向かう。

 一応、月英げつえい夫婦は宿を取ると言っていたのだが、子瑜が家に泊まると良いと勧めたのである。


 ちなみに、公瑾こうきん子敬しけいは……特に子敬は、面白そうだと遠慮して帰ろうとした公瑾を掴み、着いてきていた。


「ねぇねぇ、確か『臥竜がりゅう』どのだっけ? 」


 子敬の言葉に、振り返った孔明こうめいは首を振り答える。


「いえ、私は諸葛家しょかつけの次男、孔明と申します。年は25です。魯子敬ろしけいどのと周公瑾しゅうこうきんどのですね? 」

「……ふぅ~ん、普通? 」


 子敬は、つまらなそうに呟く……その表情に、孔明は首を傾げる。


「子敬どの。最近、何者かに襲われたのですか? その、動きは少し傷が痛むか、化膿してますよね? 」


 その言葉に、子敬が一瞬表情を強ばらせる。


「……どうして、解ったの? 君が暗殺者を放った? もしくは、子瑜の言ってた『白眉はくび』が犯人? 」

「いえ、船に乗る前に星が。兄達に災いがと出ていたので、兄を確認したら全く怪我一つしていないので……もしかしたらと……」


 孔明は淡々と答える。


「それに、血や膿の臭いには敏感なんです。公瑾どのは失礼ですが、さっぱりとした薄手の衣、子敬どのはこの暑さなのに、きっちりと着込んでいらっしゃるので」

「……一目で見破られるとは、腹が立つ程知恵が回るね、君」


 ムッとした顔で子敬は、孔明を睨み付ける。


「えっ? 本気で怪我していたんですか!? 子敬」


 公瑾は子敬を見下ろす。


「……この間の襲撃で……ちょっと。子瑜にしかばれてなかったのに! 」

「だから、言ったでしょ? りょうには見破られるよって」


 子瑜は自慢げにニヤニヤと笑う。


「だが、星と言うのは……」

「だから、亮は星見だよ。夜だけじゃなくて昼間も見るんだよ。ね? 亮」

「……まぁ、そうです……父には、気味悪がられましたが……」


 兄の言葉を否定するのが億劫で、頷く。


「星見!! 君が!? 」


 公瑾が声を上げる。


「昼間も見えるのかい? どうやって!? 」

「どうやって……? いえ、普通に空を見てたら見えます。兄には余り周囲に言わないように言われてましたが……イナゴの害に、盗賊に城を襲われることとか、実母が産後の肥立ちが悪くて、亡くなることとか見えてしまって……父に何度か殴られたり、家を追い出されたり……」


 苦笑する。


「兄と母が、父にこっそり家に入れてくれて……それからは、余り」

「でも、今日はどうして? 珍しいね、亮」

「というか、今日は危険探知機と化してます。兄上、あれ……」


 孔明が示した先を追った子瑜は蒼白になる。


 子瑜の屋敷らしい門前で、真っ赤な顔をしてぎゃぁぁぁーと大泣きしている幼子と、上から枝でつついたり、叩いたりしてからかい、悦に入っている幼児。


「バーカ、バーカ。何してるんだ。泣いても母様来ないぞ!! 泣き虫、きょう。馬鹿のクセに」

「こら! かく!! 」


 珍しく表情を変えた子瑜が駆け寄り、恪と呼んだ年上の幼児から枝を引ったくる。


「お前は何をしているの!! 喬は体が余り丈夫じゃないのに……わぁぁ!! 喬!! 」


 地面に倒れ込もうとした幼子を、受け止める孔明。


「大丈夫? 」


 抱き上げ、よしよしと頭を撫で、頬の涙をぬぐい笑いかける。

 少し頬や額が熱いのは、泣きすぎたせいか、もしくは熱があるのか。

 ともかく、孔明は幼子が怯えないようににっこりと笑いかける。


「こんにちは。お名前は? 叔父さんは、君のお父さんの弟の亮叔父さんだよ。よろしくね? 」

「おとーしゃん」

「お父さん? お父さんはあちらでしょ? 」

「おとーしゃん、おとーしゃん」


 きゃっきゃとはしゃぐ幼子は、孔明の耳を引っ張り、髪をくしゃくしゃにする。


「あ、兄上? この子、私をお父さんって言うんですけど……な、何をしてるんですか? 」


 振り返った孔明は、兄の姿に唖然とする。


「この馬鹿息子!! 喬に何をしたの!? 」

「わぁぁん!! 父上、ごめんなさい!! ごめんなさい!! 」


 お尻をパンパンと叩く子瑜に、恪は悲鳴を上げる。


「だって、だって……喬が、地面に落書きしてたの!! 変な落書きなの~‼ だから聞いたのに、教えてくれなかったんだもん!! 恪は悪くないもん!! 」

「変な落書き? 」

「ほら、ここだよ!! 」


 父親に尻を叩かれつつ示す。

 地面には不可思議な模様にも見える何かが描かれており、子瑜は首を傾げるが、喬を抱き上げたまま近づいてきた孔明は目を見開き、呟く。


「星です。星宿せいしゅくが描かれています。いびつですが、それでも……」

「えっ? そうなの!? ただの落書きじゃないの!? 」


 子瑜は脇に恪を抱えたまま、そして、大人たちは恐る恐る近づき、歪みに歪んだ落書きにしか見えないものを見つめる。

 孔明が示す。


「これが、北を示す北斗ほくと。そして、こう、右回りに星が……あ、これは兄上の星ですね。へぇ……兄上、重要な仕事を任されるようですよ。忙しくなるそうです。で、公瑾殿は無理は禁物。子敬どのは、逆襲はやめた方が良いとの事です。喬……だっけ? 凄いねぇ。良く星を見るの? 」


 腕の中の子供に話しかける。


「あい、にょ。おとーしゃん」

「お父さんは、あっちでしょう? 喬? 」

「むー、と? ち、……ちーうえ! 」


 実父である子瑜を指差し、声を上げる。


「ちーうえ、の。おとーしゃん」

「喬~!! お父さんは私でしょう? どうして、亮がお父さんなの‼ 」


 近づこうとすると、喬は苛められた兄をちらっと見て、孔明にしがみつきぎゃぁぁぁーと再び泣き始める。


「ど、どうしたの!? お父さんが嫌い!? 」


 ショックを受ける子瑜に、孔明は、


「兄上の事が嫌いじゃないようですよ。先まで苛められてたので怖いようです」

「それなら良いけど……所で、喬? どうしてここにいるの? 」

「おとーしゃん。おかーしゃん」


 孔明と琉璃りゅうりを指差す。


「おんかえしゅうの」

「父の私のお出迎えは、一度もしてくれないのに……亮と琉璃のお出迎えに来るなんて……! その上、お父さん、お母さんなんて、ズルい!! 亮!! ズルすぎる!! 」

「と言うか、初対面でここまで気に入られるなんて知りませんよ。その上、お父さんなんて呼ばれるとは、想像も……」

「ズルい!! 亮のけち!! うちの子にそこまで気に入られるなんて、喬は特に人見知りが激しいし、お話すらしてくれなかったのに!! お父さんは悲しい……」


 拗ねる子瑜に、子敬は、


「子供って敏感だから、実の父親が腹黒だって解るんじゃないの? 」

「そちらにもそっくり返してあげるよ、子敬どの。息子に怖がられているんだって? 良かったね! 」

「怖がられているんじゃなくて、尊敬されているんだよ。君とは違ってね」

「言ってろ、根性悪、性格悪、言葉使いも悪い、三大悪の魔王のクセに」

「腹黒、弟大好き変人に言われたくないね」


 子瑜と子敬が睨み合うのを、何故か腹部を押さえながら公瑾が口を開く。


「頼むから、二人共……道の真ん中で嫌みの応酬は、やめないかな? 」

「良いんだよ。子敬どのは魔王だから」

「子瑜は変人だから大丈夫」


 二人は声を揃える。


「あの……兄上。この子少し熱いんですけど。熱があるのか、眠たいのか、だと思うんですが……」


 孔明は口を挟む。


「それは大変だ。じゃぁ、屋敷に行こうか、あ、子敬どのは、来なくていいよ」

「それは熱烈な歓迎と取って良いのかなぁ? じゃぁ、行こうよ、公瑾」


 子瑜の屋敷に、静かに一行は入っていく。

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