表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
引きこもり竜が穴蔵からおいだされるかもしれません。
43/428

さすがは黄承彦さん。大商人の貫禄たっぷりです。※

 がらがらと馬車が門の前に止まる。


 通常、黄家こうけ程の屋敷ならば客人を乗せたまま門の中に入れる。

 いや、入るのが普通だが、黄家には困ったことに、普通の盗賊ではなく、身分権力をかさにきて屋敷内の物を取り上げる親族がおり、馬車の入場を拒否している。

 そして、黄家は馬車はなく馬も飼っていない。


 外の者から、馬車から降りてほしいと言う声に、


「どうしてここで降りなければならないの!! そのまま中に乗り込みなさい!! 」


 馬車の中から感情的な甲高い声が響き渡る。


「奥方様。この屋敷は馬車が入れません」

「何を言っているの!! 入れろとこの私が言っているのです!! 命令を拒否するのならば、夫……いいえ、弟である蔡将軍さいしょうぐんを呼び、お前たち等、命令違反で殺されてしまうのですよ!! さぁ、いくのです!! 行かなければ……」

「ですから……」


 必死に訴えようとする警備の武将に、馬車の窓を開けた『そう』は、飲んでいた酒をぶちまける。


「うるさい!! つべこべ言わずに入れろ!! 入れないなら門を叩き壊せ!! それくらい考えろ、馬鹿どもめが」

「……っ! 」


 一瞬、表情が変わりかけた武将だが、すぐに無表情になり答える。


「……門まで、人一人が通れるほどの道しかございません。馬車どころか馬もようよう通れる程度ですが? 通られますか? 」

「何だって!? 」

「両脇はびっしりと獣の置物があり、噛みつく用意をしておりますが? それでも、よろしいですか? 」


 その言葉に親子は目を見張り、馬車から外を覗く。

 広かったはずの黄家の門前は、人一人がようやく通れるほど狭くなっており、前は1頭だった獣の置物が4頭に増えている。


「これでも入りますか? 」

「……くっ」


 二人は渋々馬車を降り、門に近づく。


「何なの、これは!! 」

「おや、どうしてこの様なところにまで、お越しになられたのかな? 」


 門から、長身の従者らしき青年に支えられながら現れた黄承彦こうしょうげんは、微笑む。


「何が、おや? だ。お前の家のお陰で、父上に怒鳴られ、ここに行けと言われたのだ!! 今すぐ、このがらくたを退け、私たちの馬車を入れろ!! 」


 きゃんきゃんとわめく、『そう』に、黄承彦は、


「申し訳ありませんが、それは無理ですなぁ? 実はうちには、親族であること、権力者であることをかさにきて、屋敷に入り込み財宝を奪い取る。悪どいものがおりましてな……その上、わしのこの怪我は、どなたがさせたのでしょうな? それだけでなく、息子は両腕を痛め、娘は手助けを拒否された上に手を切り、困っておるのですよ。本当はわしも、体が痛いので先程まで休んでおったのですよ……で、どのようなご用件で? 」


 自分は怪我人で、早く休みたいのだと言わんばかりに、頬をさする黄承彦に、


「お……いえ、そちらが、うちの息子の度の過ぎた行為に怪我をして、嫌がらせのために城内を……いえ、怪我をしたと聞いたので、し、謝罪に、来ましたの。入らせていただけるかしら? 」


 顔をひきつらせながら、蔡氏さいしが告げるが、黄承彦は、


「いえいえ、結構です」

「では、許していただけるのかしら? 」


 パッと笑みを浮かべる元嫁の姉に、黄承彦はにやっと笑い、


「謝罪等今さら、いただいても許せるはずがありません。受け入れるつもりはありませんよ」

「な、何ですってぇ!! 」

「は、母上が謝っているのにだぞ!? 」


『そう』の言葉に、黄承彦ははて? といいたげに首をかしげる。


「どこが謝っているのです? 謝罪に来た、といっているだけで、頭も下げておられない。その上、謝罪に来るなら、それなりのもの……そうですなぁ、今まで盗んでいった品々を耳を揃えて……ついでに慰謝料を少々付けて返していただけませんかなぁ? あぁ、蔡瑁さいぼうどのにもお金を貸しているのですよ、それも耳を揃えてお返しください。そうすれば、謝罪をしていただいても受け入れられますなぁ」

「な、な……」

「あぁ、壁に打ち付けられた背中がうずきますなぁ……私は、戻りますので……では」


 背中をさすりながら、中に入っていこうとする黄承彦に、『そう』は、


「お前、私たちを馬鹿にしているのか!! 私は、この荊州牧けいしゅうぼく劉景升りゅうけいしょうの妻と後継者だぞ!! 」


 その声に振り向いた老獪ろうかいな商売人が、ぎらっと鋭い眼光で二人を見下すように言い放つ。


「先に、こちらを馬鹿にしたのは、そちらが先だろうが!! 小僧!! この黄承彦を、馬鹿にした罪は大きい。今回の謝罪とは名ばかりの謝罪は、受けとりはせぬ!! 即刻お帰りください。そして、明日、宮城に出向くつもりではありましたが、体が痛むので出向けない、とそうお伝え願えますかな? 」


 では、と、後ろを向いた黄承彦は、従者と共に門扉の向こうに消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ