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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
心配症なお兄ちゃんたちが、孔明さんたちにはいます。
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均ちゃんも諸葛家の人間として、家族のために動きます。※

 少しだけ話は戻る……。


 江夏こうかに落ち着いた劉玄徳りゅうげんとく軍で工作技術部にいるきんは、緊急にと届いた書簡を広げていた。

 本当はきょうが話していた、馬のくらに乗りやすくする部分を作りたいと思っていたのだが、デカデカと『至急、緊急、即読』と書かれたものを読まない訳にはいかず、余り気乗りがしないまま読み始めていた。

 それは母であるしょう夫人、瑶樹ようじゅ……と言っても書いたのは子瑜しゆ……から届いた便りで、


「何……これ……」


 次第に真剣な眼差しになり、


「何なんだ……これ!? これは怖い……怖すぎる。ここまでの冗談は母上も兄上も言わないから、本当だと思うけれど、兄上の主は何てことをしてくれたんだ!! 」


と叫ぶ。


「どうした? 均」


 久しぶりに遊びに来ていた士元しげんに、黙ったまま書簡を差し出す。

 読めと言う意味だと解りきっている士元は、受け取り読み始めたが、衝撃の内容に硬直する。


「ちょ、っと……待て……こいつは死にたかったのか!? 」

「私もそう思う……怖い。あの、あの兄様に喧嘩を売ったよ!! あの兄様に!! 兄様の最愛の琉璃りゅうりを襲おうとするなんて、死ぬ気としか言いようがないよ!? その人!? 」


 蒼白になった顔で均は呟き、士元は、


「で、何々? 琉璃と喬が一緒に寝ていたから、助かったって……いやいや、普通夫のいる女性である琉璃の部屋に侵入するだけで、犯罪だ!! そ、その上、衝撃で泣き続ける琉璃と怒り狂う喬を別の部屋に連れていってお説教しようとしたら、孔明こうめいが丁度到着して投げ飛ばした……が謝らないし、子瑜どののことを『ロバ』だの、孔明が白髪頭だから偽物とか言って……うわぁぁ……何だ!? 孫仲謀そんちゅうぼうは馬鹿だったのか!? 」

「急いで、準備しなきゃ……」


 青い顔で均が立ち上がる。


「準備って……」

孫家そんけに喧嘩を売られたから、ドーンと買うことにした。ついては喧嘩をする為に、『諸葛連弩しょかつれんど』を至急送ってくれって書かれてるんだよね。何か前々から、母上のご友人のお嬢さんが、どうしても欲しいって言ってたらしいんだよ。でね、今回の件で良いまとを見つけたから、大丈夫って……」


 幕舎の隅の箱を引っ張り出し、中身を確認し始める。


「的って……おい!? ここに書かれている、お前の母上の友人って孫仲謀の義母の呉国太ごこくたいさまで、その娘ってことはあの、跳ねっ返りで有名な孫尚香そんしょうこう……強弓ごうきゅうを扱う猛者だぞ!! 弓腰姫きゅうようきと別名のある……」

「そうらしいね。でも今回の件、母上だけじゃなくて、義姉上と妹の珠樹しゅじゅが、もう激怒だって……それにほら……ここ、ここ」


 まだ読んでなかった箇所を示され、読んでいくと、


りょうが絶対に、決してこれ以上、琉璃に傷を付けるのは嫌だ、許さないと言い張り、亮本人が先に到着したことにして、亮が襲われたことになりました。……が、諸葛家しょかつけに恥をかかせ、傷つけた人間を許す訳にはいかないので、噂が広がる前に抹殺しようと思います。つきましては、均が作った武器の中で殺傷能力の高い武器を……『諸葛連弩』を貰えないでしょうか? 尚香さまに献上したいのです。至急内々に……』


と、書かれており、


「し、至急……って、」

「だから至急……船に乗せて送らないと……」

「どうやったら至急なんだよ!? 」


 士元も珍しく動揺する。


 諸葛家の制裁は、一度受けたことがある士元である。

 ちなみに孔明や均ではなく、従兄の嫁になる晶瑩しょうえいと、妻の叔常しゅくじょうこと球琳きゅうりんの義理の姉の紅瑩こうえい……つまり、孔明たちの姉たちである。


 知識に関しては絶対の自信と誇りを持つ士元だが、武術はある程度、何とか身を守るだけは出来る。

 しかし一度、幼かった琉璃を利用して、孔明に突っかかったことを知った晶瑩と紅瑩に、半殺しの目に遭った。


「男の癖に、正々堂々と喧嘩を売らなかった、軟弱もの!! 」


と、晶瑩に殴り飛ばされ、紅瑩には投擲武器とうてきぶきを頬すれすれに投げられ、必死に謝ったが、


「即謝るくらいなら、最初からやるな!! この頭でっかちのなまひょろが!! 」


と、益々激怒され、けちょんけちょんに叩きのめされた。


 命があったのも、話を聞いて駆けつけてくれた孔明が、


「姉上!! 諸葛家の制裁は、攻撃だけじゃなく口撃もお願いします!! 一応、士元は武術は素人です!! 素人に玄人くろうとの姉上たちが手を出したら、一方的な暴力です!! 双方が得意分野でやりましょう!! 頑張って下さい!! 」


と言う、変な仲裁をしてくれたお陰である。


 しかし舌戦も、連弩れんどのように矢継ぎ早に放たれる言葉のせんに、論客ろんきゃく説客ぜいきゃくとしての自信を失いかけたことは、もう忘れたい想い出の一つであったりする。


「い、今から、孫公祐そんこうゆうどのに話に行ってくる……至急、だから……うわーん、怖いよ……届かなかったらどうしよう……」


 愚痴る均に、士元は突っ込む。


「おい!? 普通、江東こうとうの孫仲謀を的にするってことを心配しないか!? 江東を敵に回すかもしれないんだぞ!? 」

「は? 何でその程度で? 士元兄さん」


 怪訝そうな顔で、均は言い返す。


「そんな些末さまつなこと心配しないよ!! 江東? それがどうした!! って家じゃ言うよ? それよりも家の琉璃に手を出そうとした時点で、一貫の終わりだと思わない? あの琉璃に手を出そうとしたんだよ!? 信じられない!! 私の作った武器でもう二度としないって思わせるような、仕返ししなきゃ!! じゃないと、私たちの琉璃が可哀想でしょ!! 琉璃は兄様にしか甘えられない、兄様の、諸葛家の嫁なんだよ!! 手を出す馬鹿には、もうとことん諸葛家に手を出したら、恐ろしいってことを思い知らせないとね!! ふふふ……それが見れないのが残念だけど、後で兄上や母上からの書簡を楽しみに……そ、それより、急がないと!! 」


と、書簡に箱を抱え、幕舎を飛び出した均の背中に、


「江東の覇者を敵に回すってことが、些末……どこまでぶっとんだ一族なんだよ。諸葛家ってのは……」


 士元は頭を抱えた。




 ちなみに……。

 最近では堂々と琉璃やその子供たちを可愛がっている公祐は、話を聞き、書簡を読ませて貰った上で微笑んだ。


「大丈夫ですよ!! 至急、私のつてを使えるだけ使って、江東まで送り届けますよ。安心して下さい。均どの。諸葛家の制裁……楽しみですね。今度、又便りが来たら教えて下さいね? 」




と、『諸葛連弩』が早々に尚香の手に渡ったのは、こう言った事情があったのだった。

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