諸葛家の次男坊は、完全に保護者を自認してます。※
まだ、琉璃は完全に3人を信じきっていないと、孔明は思う。
戦場から逃れ、ここに来るまで光華はなるべく琉璃の安全を考え逃れたものの、何かとばっちりを受けてはと追い払われ、ここに流れてきたと思われる。
琉璃が飢えて酷く痩せ細っていた上、光華も光華で最低限の水を飲む以外何も口にしていなかったらしく、かなり痩せ細っていた。
ようやく主従……いや、姉妹なのだろう二人は……安全な場所、住まいを得られ、特に光華はほっとしてるようだった。
戦場で怪我をした姉妹が弱っていくのを感じ、必死にその命を救ってくれる人を探していた光華である。
自分……よりも琉璃を助けてくれた孔明には、無条件に敬意を払っている。
その為、孔明の言うことには耳を傾け、そして順調に傷も癒え軽く走れるようになっていた。
しかし、琉璃は物心つく頃から戦場でいた為、日々体の怪我が癒えていく、元気になっていくと看病をしてくれていた3人の目の隙をぬい動き回り、範囲が広がる。
でも、完全ではない為ぐったりしているか、そう離れたところではなく、家の回りか光華の傍にぴったりとしており、3人……特に孔明に捕まえられる。
「いやにゃぁー。光華といゆー!! 」
今日も、嫌々と暴れまわる琉璃を抱き上げ、あやしながら歩き始める。
もう日が落ちて、暗くなっている。
琉璃の部屋に着いた孔明は、月英の家から横流しして貰っている油で火を足した。
「夜は嫌いかな? 琉璃は、苦手? 」
と優しく問いかける。
琉璃はしばらく黙り込み、ポツンと口を開く。
「……いにゃい、いにゃいになゆの……」
「……いない、いない? 」
言葉を繰り返して、次の言葉を無意識に引き出す。
「……だあれも、いにゃいいにゃい。背中きやえて、いたいいたいで目をさみゃしたら、目を見ひやいた死体がゴロゴロ転がっている中に、はきょうは光華のせにゃかの上で……しぃーんとしてる。においだけがしてて、みんにゃいにゃいにょ……」
ポロポロと涙を落としながら、琉璃はぎゅうっと孔明の首に抱きつく。
最近……ようやく覚えた、琉璃の仕草に胸が熱くなるのはどうしてだろう……。
そう思いつつ、琉璃の言葉をひとつ残らず聞き取りたいと、とんとんと完全に癒えていない背中ではなく、小さな肩をそっと叩く。
そうすると無意識なのか、すりすりと頬を寄せてくる。
「にーしゃ。一人ぼっち、怖いにょ。ねんね怖いにょ……」
必死に訴える少女に、孔明はよしよしと頭を撫でる。
「大丈夫だよ。私はここにいるから、傍にいるから、ね? 」
「ほんと? しょばにいゆ? はきょうのしょば、いゆ? 」
「う~ん……」
考え込む孔明に、顔をあげた琉璃はボロボロと涙を溢れさせる。
今度は、胸が傷む。
しかし、何故か琉璃のその顔を見つめていたかった自分もいる。
最近……自分が解らないときがある……。
「き、きあい? にーしゃ。きあい? 」
しゃくりあげる琉璃に、
「違うよ。傍にいる。けれど……私は『破鏡』の傍にはいるつもりないんだよ。私は、『琉璃』の傍にいてあげる。『琉璃』の傍にいるよ? 」
琉璃の青い瞳を見つめて繰り返す。
「大丈夫だよ。『琉璃』の傍に必ずいるから、だから『破鏡』の事とは忘れようね? 『破鏡』はこのお家に来た時にいなくなったんだよ?このお家にいるのは『琉璃』だよ。私の腕の中にいるのは『琉璃』なんだ」
「はきょう、いないいない? お家いるのはりゅうり? 」
「そうだよ? 『破鏡』はいないの。私が、今抱っこしてるのは『琉璃』」
優しく囁き、告げる。
「約束するよ。琉璃、琉璃はここの子だよ。琉璃が居たいだけ居ればいい。でもね? このお家を出ていく時は、私にお別れを必ず言って。私は、ちゃんとお別れしたいから。お別れしたくないならずっとお家にいていいからね? 」
でも、もう一人の『自分』は、呟く。
『別れなんて絶対ない……させない』
「ほんと? お家、いいにょ? 光華も? 」
「当たり前だよ。光華は琉璃を連れて来てくれたのに、追い出したりしないよ。だから約束しよう。ね? 」
孔明の言葉に、琉璃はうんっと大きく頷く。
「良かった。琉璃が急にどこかに行ってしまったら兄様、心配でどうにかなりそうだからね」
よしよしと頭を撫でる。
「もう少し元気になったら、衣を揃えようね? 一杯琉璃がしたいことをしよう」
「うん!! にーしゃ。だいしゅき」
「私も大好きだよ」
孔明は、琉璃を寝かせると肩まで古い衣をかける。
「じゃぁ、お休み。又明日。ねんねだよ」
「うん……うん、おやしゅみなしゃい……」
目を閉じて、すぐにすやすやと眠り始める。
「お休み、琉璃」
『掴まえた……私の半身……心の破片』
囁いた……のは、唇か、胸か……。




