孔明さんは、幼いものの賢い息子たちが自慢です。※
孔明自身は、至って元気だと言い張っていたのだが、傷の悪化の為に熱を出す。
琉璃は看病をと思っていたのだが、孔明は看病はいらない……と言い張る。
「3人がいるから、喬たちといてあげて? 」
「でも……」
「ここにいるから大丈夫。それとも、一緒に寝てくれる? 」
「えっ! 」
子供たち3人が、傍にいる……のだが……。
「大丈夫ですよ。お母さん。僕が統と広は見ています。お母さんはお父さんといてあげて下さい。一杯お話があるでしょう? 」
「でも……」
「統に無理はさせません。大丈夫です。ね? 統」
喬は、弟に微笑む。
「はい!! 大丈夫です」
「……えと……」
躊躇うものの、孔明に抱き上げられ牀にコロンと横たえられる。
「はい、お休み……」
怪我人である孔明によしよしと頭を撫でられ、そして抱き締められた琉璃は最初は話していたものの、しばらくして寝入ってしまう。
やはり琉璃も、疲労が溜まっていたらしい。
「……お母さん、寝ましたか? 」
静かに近づいた喬たちに、孔明は微笑む。
「うん、お母さん疲れちゃったみたいだね……あれ? 何してるの? 喬と統は」
広は公瑾たちが持ってきてくれていたおもちゃで遊んでいるのだが、喬と統は何故か地図を床に広げ、幾つもの石を庭から往復して持ってくる。
「統が、地図を見たいって言うんです。そしてまだ読むのが難しいので、『孫子』を少し教えてあげたら、何か言いたそうなので……」
「言いたそう? 」
統を見る。
「あの、えっと……僕……解らなかったので」
どもる統に喬は、
「大丈夫。統が解らないことは、一緒に解るようになろうね? 」
「はい。お兄ちゃん」
地図を広げ、石……しかも色違いの石を赤壁……の位置に置いていく。
「はい、統。ここが戦場になる場所で、こちらが周都督……公瑾おじさんが指揮する部隊の駐屯……部隊が留まる場所だよ。そして、こっちが曹孟徳軍が留まる予定の場所。で、ここは西北の風が今の時期に吹いていて……噂では、東南の風が吹く時があるって聞いたんだ。西北はこっち、こっちからこう吹くんだだよ」
喬は説明する。
「……? えっと、お兄ちゃん。どうして、その風駄目なの? 」
「兵士の差が大きすぎるんだよ。向こうは誇張……大袈裟に言っているのか、80万人の兵を用意していると言われているんだ。こっちはそんな大軍に対応出来る兵は集められない。だから、火計を使うんだ」
「……でもね? お兄ちゃん。僕、お父さんと……えとお母さんと来たでしょう? その時にね、聞いたんだよ。夜に『霧が出た』って。でね、朝ね? 船のおじさんに聞いたの。この時期は濃い霧が出てね、見えなくなるんだって」
統は、指で示す。
「とっても濃い霧なの。でね、船同士がぶつかったら困るから大変だって。だからね、そぅーっと近づいて、攻撃は無理だけど、ビックリさせたら駄目? 」
「えっ……!? 」
思っても見なかったのか、喬は絶句する。
その様子に、統は駄目だと思ったのか、がっかりした顔をする。
「やっぱり……駄目かなぁ? お父さんとお母さんとお兄ちゃんが考えてるの、僕もお手伝い出来たらって思ったんだけど……お兄ちゃんみたいになりたいけど……」
「な、何言ってるの!! 凄いよ!! 統は、偉いよ!! 」
喬は父親を見る。
「お父さん!! 統のお話、使えないかなぁ!? 急襲とか……無理ですか? 」
「……そうだねぇ……急襲したら警戒されるから……あぁ、そうだ!! 」
ポンっと手を叩く。
「箭を貰っちゃおう!! 」
「箭を貰う? 」
喬と統は声を揃える。
「そう!! あぁ、ありがとう!! 統。お父さん、凄く気になってたんだよ。すぐに、公瑾どのにお話ししなきゃ!! 」
「お父さん、駄目だよ。体調が悪いんだから……多分、伯父上来ると思うから、その時に話してみればいいと思う」
「でもね!! お父さんは、喬と統の自慢をしたいんだ!! 」
起き上がろうとする孔明を、
「駄目だよ!! お父さん。お母さん起きちゃうよ!? 」
「そうだよ、お父さん!! 」
「おとーしゃーん。おにーたんも、あしょぶの? こーもいっしょー!! 」
一人でつまらなかったのか、走ってくる広は、ピョンピョン跳び跳ねる。
「ダメダメ。遊んでるんじゃないんだよ。広」
たしなめる喬の横で、弟が握りしめている物を統は見る。
「……? 広。それなぁに? 」
「わや」
「わや? 」
兄弟は首を傾げる。
「あぁ、藁だね。どうしたの? 貰ったの? 」
孔明は問いかけると、庭を示す。
「あっちにあったにょ」
「で、何を作ってるのかなぁ? 」
「おとーしゃんとおかーしゃんいじめた、おいちゃん」
広は、いびつで人型でもないが、父親たちに見せて、ペンペンと頭らしい部分を叩く。
「わゆいこと、したの、ペンペンすゆの。ちゅぎしたや、きにょえらでぺーんなのよ」
「木の枝で!? それに、え~と……おじさんって、も、もしかして……赤い髪のおじさん……のこと? 」
「しょーなの。おかーしゃんなかしぇたかや、きにょえらでざくー!! 」
3才にしては物騒なことを言う広に、顔をひきつらせた孔明。
先日の出来事と良い、今更ながら子供の養育に良くない環境だと思い至る。
「え~と、広。ざくーは止めようね? ペンペンは良いけど」
「のーして? 」
「え~と、ペンペンにしてあげてくれるかな……? その方が、優しい公瑾おじさんがホッとするよ? 」
説明するが、広は、
「れも、しゆおいちゃんが、れんろのまとにしゅゆよーって、ゆってゆよ? れんろのまと。ざくーってしゅゆんだよって」
真顔で父親に告げる。
「あ、兄上……!! 」
何て物騒なことを3才に告げるんだ!!
後で、怒っておかなくては、と心の中で誓った孔明の前で、
「お父さん!! 箭!! 貰えるよ!! 」
喬が父親を見る。
「霧の中で、ただ船を近づけただけじゃ、向こうは弓を使わないよ。兵士がいないと!! 」
「えっ!? 兵士……って、味方を弓の前に立たせるの!? 」
「ううん!! これ!! 広が作っているのより大きな人形を作って、衣を着せたりして船に乗せるの。で、敵襲だって、ビックリさせて、沢山射て貰うんだよ!! そうすれば、集められる!! 」
「……人形を、的の代わりにするってこと? それは……凄い考えだ!! 」
孔明は、3人の頭を次々撫でていく。
「ありがとう!! ありがとう、喬、統、広!! 3人がいるから今回の策がなったんだよ。後で、おじさんたちが来たら、皆でお話ししよう!! 絶対うまくいくよ!! 」
孔明は、自分の子供たちを自慢したくて堪らない親馬鹿である。




