表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
長阪坡の戦いになる事を食い止める術はありません。
182/428

次々に戦いへの波が押し寄せてきます。※

 雲長うんちょうは、ぐずるこうを抱き締め、あやしながら移動する。

 後ろを歩くのは項垂れたさくである。


「何で、ここに来た……!? 」

「……じいちゃん、死んだから。今まで貯めたお金を持って出ていこうと思って……そしたら、とうこうがおじいちゃん探して旅してて……一緒に来た」

「統と広と言うのは……」

趙子竜ちょうしりゅうって言うじいちゃんの孫だよ!! それよりもあんた、俺の父親だろ!? 」


 索は叫ぶ。


「普通子供に会ったら、何で来たとか言うか!? あんたが俺の親父じゃん!! 会いに来て悪いのかよ!! 」

「うるさい。ぎゃんぎゃんわめくな。品がなく、育ちの悪い!! 」


 その言葉に索はカッとする。


「それじゃぁ、あの関平かんぺいって言う姉ちゃんが、品がよくて育ちがいいのかよ!? 琉璃りゅうり姉ちゃん苛めて、そして悩んで苦しんで泣いてる顔を見て喜んでるのが、品がいいのか!? どこがいいんだよ!? あんな最低行為、教えたのは誰だよ。言ってみろ!! 」

「そ、それは……」

「しかも、俺を育てもしてねぇあんたが、じいちゃんの事をののしるな!! このくそ親父!! 」


 索のポンポンと飛び出る言葉に耳を押さえる。


「何なんだ……これは……」


 江夏に向かい兵を借り、ここに陣を設けさせた。

 そこまでした自分に待ち受けていたのは、妻は死に、娘は周囲に災厄を振り撒く復讐の魔性と化し、存在すら忘れかけていた不義の子が現れ……どんな悪夢だと、覚めるのなら覚めてくれと祈りたい程である。

 それなのに……。


 口すら聞いてくれなくなった益徳えきとくが、黙ったままある幕をめくる。

 入れと言うことかと中に入ると、冷たい眼差しが雲長と索を射る。


「……来られても、迷惑なだけなんですがね」


 子仲しちゅうの冷たい声に、横で涙をぬぐっていた子方しほうが叫ぶ。


「雲長どの。幾ら、幾ら、愚かで馬鹿な所もあったけれど、私たちの妹を殺すなんて……酷いじゃありませんか!! 私たちが何をしたんです!! 返して下さい、返せ!! 」

「わ、私が、殺した訳では……」

「貴方の娘である関平どのですよ? 殺したのは。違いましたか? 」


 子仲が冷たくいい放つ。


「それに、貴方のいない間、しんがりとして、趙子竜将軍として孔明こうめいどのは戦って、一騎討ちをしたり策略を練ったり、必死にここまで来たんですよ? その方の子供を取り上げる……‼ 貴方は、自分の子供をどうやって育てたんですか? しかも……」


 関雲長が持っていた書簡を奪い取り読んだ子仲は、嘲るように吐き捨てる。


「自分のあの愚かな娘を、嫁? しかも、相手は諸葛孔明しょかつこうめいどの……バカですか? あなたは。あんな娘を嫁に、誰が欲しがるんです? 」

「と言うか、私も先渡されただけで……」


 しどろもどろになる雲長を冷たく見つめる。


「関平どのの暴挙に、置き去りにされた阿斗あとさまを救いにいった元直げんちょくどのは、曹孟徳そうもうとくに捕まりましたよ」

「なっ……!? 」

「貴方は悠長に考えているのでしょうが、そう簡単に私たちが許すと思いますか? 貴方の管理不行き届きです!! 簡単に思わないで下さい」


 キッパリ言い切った子仲が、表情を歪ませる。


「あの、馬鹿な妹でも……ただ一人の妹。甘夫人かんふじん様に感化されず、もっと凛と、拒否、拒絶できる。言い切れる強さがあれば……そうすれば、こんなことにはならなかった!! それよりも、貴方と甘夫人様が、密通など……しなければ!! それよりも、貴方が止めるべきだった!! 麗月れいげつ様を殺した現場に立ち会っていたのは、貴方でしょう!! 」

「えっ! そ、そうなのか!? 」


 初耳の事に、益徳が雲長と子仲を見る。


「わ、私はな、何も……していない……」

「ただ、助けてくれと懇願する麗月様を放置して出ていったんですよね? 雲長どのは」


 奥から姿を見せるのは、公祐こうゆう憲和けんわ士元しげん


「へぇ、長い間つるんでたってことか……お前と絳樹こうじゅは。で、糜夫人びふじんに子供を生ませないように、不妊の薬を金を使って取り寄せたり、麗月様のように殺したり……してたって訳だ!? ほぉぉ。絳樹が産んだ子供の何人がお前の子だろうな? まぁ、ここにいるのは一人、阿斗さま以下は曹孟徳の所にいる。その内何人が本当の玄徳げんとくの子だろうな? 」

「そ、それは……ち、違う!! 私はそんなことは断じて!! 」

「現に生まれてるじゃねぇか!? 索が」


 士元は呆れ果てたように、雲長を見る。


「諦め悪いと、鬱陶しいだけだぞ? でかくて役立ってないんだから、あんた。ほら、とっとと喋れよ」


 士元にどつかれ、口を開く。


「……子供を、作れないと……絳樹様が、言った」

「どういうこった? 」


 憲和は促す。

 その隙に公祐が索の耳を塞ぐ。


「麗月どのを亡くしてから……兄者の夜の呼び出しがないと……。余りにも数が少ないので、他の夫人、妾にも探らせたが、そちらにいっている様子がない。でも、子供が生まれないと、自分はもうすでに実家がない。後から入ってきた糜夫人は、兄二人もやり手で金持ちだ。兄者に捨てられたら、生きていけない……と泣かれた……」

「で、関係を持つようになったと……んじゃぁ……お前、ちょっと待てよ!? 」


 憲和は目を見開く。


「おい!! 琉璃の後に生まれた娘から、ほぼ毎年女の子を、生んでたよな!? その全員……!? 」

「……さ、いしょの方は違う……それから、後は……」


 口ごもる雲長に、周囲はうんざりとした顔になる。


「何度も、止めたいと言った……が、共犯だと……言われ……、それからは甘夫人様から、子供の出来ない糜夫人様を慰めろと……」

「自分達が不妊の薬を飲ませておきながら、よくものうのうと言えましたね!! 貴方は!! 」


 子仲が激怒する。


「では、阿斗さまは!! 貴方の子ですか!? 」


 その言葉に、雲長は黙り込む。


「どちらですか!? 」


 公祐が身を乗りだし、問い詰める。


「……兄者の子供……」


 ほっとする周囲に、ポツリと……。


「だと思う、多分……」

「な、何だと!? 」


 益徳が怒鳴り付ける。


「て、てめぇ!! 何考えてんだ!! 何が多分だ。てめぇ、自分が何やったか解って話してるのか!? 主の奥方と不倫したと、しかも、生まれた自分の子供を、主の跡取りとして育てさせてた!? 何考えてんだ!! 」

「だ、だから……多分……」

「多分とか言うな!! 馬鹿が!! おかしいだろ!? 普通でも、おかしいだろ!? 」


 益徳は雲長の襟首を掴み、揺すりあげる。

と、


「おやおや……賑やかな所に行けば、劉皇叔りゅうこうしゅくにお会いできると思っておりましたが……。へぇぇ……そんな重大な……」


 声が響き、周囲が振り返ると、細身でのんびりとした印象の……。


「げっ、魯子敬ろしけいどの」


 士元は昔の小遣い稼ぎの相手を見、顔色を変える。


「久しぶりだね。士元。で、泥沼化した不倫騒動は聞き飽きたから、劉皇叔に会わせてくれない? それと、諸葛孔明を」




 新しい戦いが幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ