統くんは長旅の疲れのために倒れてしまいました。※
変わってこちらは、統を乗せた公祐と索を乗せた子仲。
後ろの邪魔になってはと、速度を早めて民衆を守る一軍に入っていく。
だが、ずっと乗っている馬に負担になってはと、公祐と子仲は時々降りて、歩きながら進む。
「僕も降ります!! 」
「俺も。俺、お尻痛い」
統と索は口々に告げる。
「索は良いけれど、統は止めなさい」
子仲は告げる。
「公祐……統は……」
先程からフラフラしていた統の後ろに乗った公祐は、統の体を抱き締める。
「えぇ、体が熱いですね。疲労が一気に来たのでしょう。次の休憩所で少し休ませましょう。水だけしか飲まないし……長い間食事を控えていたのでしょうね……かなり痩せてます。年齢にしては小さい喬くんと一つ違いにしても、小さすぎるでしょう」
「だ、大丈夫です。僕は……お兄ちゃん……です……」
統は動こうとするもののぐらつき、公祐の胸に倒れかかる。
「止めましょう。統くん。今無理をすれば、置き去りにされてしまうかもしれません。薬を飲みましょう。そして、おじさんの体に体重をかけていいので、目を閉じましょう。良いですね? 」
公祐の声に、頷く。
馬を降りていた子仲が解熱剤を飲ませ、公祐が流し込む。
「あ、りがとうご、ざいます……。祖父が趙子竜と言いはる、嘘つきかも……知れないのに……」
「私も公祐も統のお祖父様である、子竜将軍を知っています。貴方は眼差しがそっくりです。それに、例え嘘でも、私たちは貴方たちを歓迎します」
「そうですよ。それにね? 子供は甘えるのも仕事ですよ。最初は広くんと二人、途中から索くんと三人……良く我慢しましたね……偉いですよ」
よしよしと公祐は頭を撫でると、統の瞳からボロボロと涙がこぼれる。
「……泣いていいですよ。一杯我慢しましたね。怖い目にもあった。でも、お兄ちゃんだからと頑張って歯を食いしばって広くんの手を引いて、一歩一歩歩いてきたんですね? ……もう泣いて大丈夫です。怖かったよと、言って良いんです。貴方は孔明どののように、重荷を背負い込まないで良いんです。おじさんたちもいますからね」
「……う、うぅっ……うわぁぁぁーん。お父さん、お母さん、おじいさま、皆、皆……どこにいるの? 『お兄ちゃん』は、嫌だよぉぉ。『お兄ちゃん』になりたくないよぉぉ……あぁぁーん」
「そうですよね、『お兄ちゃん』は、嫌ですね……」
「広は泣くし、ご飯は食べられない……。でも、おじいさま……おじいさまがいるって聞いたから、頑張って……来たのに……来たのに‼ おじいさま、どうしていないの……? どうして、僕たちを探してくれる、守ってくれる人がいないの!? 酷い……酷いよぉ……」
公祐は泣きじゃくる統を抱き締めあやす。
「御免なさい……統くん。……戦は大人げない、頭の悪い地位も名誉も尊敬も得ていると思い込んでいる権力者と言い張るおじさんたちが、民衆そっちのけで繰り広げる遊戯のようなもの……。巻き込まれるのは、統くんのような賢く優しい子供や、民衆……。ごく普通に生きたいと思っているのに……どうしてそれが許されないんでしょう……?私たちは戦を終わらせたいと願って……それでも、生み出してしまう人に着くしか出来ない……。弱い人間なのでしょうね……」
しばらく歩くと、休憩所が準備されていた。
せかせかと動き回るのは、子仲の弟の子方である。
「兄上。お疲れさまです。……? この子たちは? 」
公祐の腕から、ゼイゼイと荒い息を吐き真っ赤な顔でぐったりとしている統を抱き取った子仲は、
「趙子竜将軍の孫だ。休ませる所はあるか? 」
「趙子竜……って、は、琉璃の? 」
「違う!! ぼやっとするな!! 休ませる場所に案内しろ!! 」
弟を叱りつけ、案内させる。
公祐は、手綱を持ちぼんやりしている索を見る。
「どうしましたか? 索くん? 」
「……アイツ、ずっと、ずっと……にこにこ笑ってたんだ。ハキハキしてて、俺にまでこんなことしちゃダメとか、びしばし言いながら広の手をぎゅっと握って……」
子仲が去った方向を見つめ、呟く。
「俺……アイツが考えていたこと解ってたのかな? ……あれだけ泣きじゃくる程我慢させてたのかな……? それじゃぁ、俺、兄貴分だなんて言えない……」
「それは違いますよ」
公祐は、ぽんぽんと頭を叩く。
「統くんにとって、索くんは大切ですよ。まぁ、索くんは統くんほどしっかりとはしてないでしょうが、それでも索くんがいたからこそ、途中からでも会えたからこそ、ここまで頑張って来れたんですよ。あなたは統くんのお兄ちゃんであり、同士であり仲間、親友ですよ。そう言う大事な人たちに巡り会えるのはそうありません。それを喜ぶべきことですよ」
「そ、そうなのかなぁ……俺、兄貴やれてたのかなぁ」
「まぁ、索くんは統くんほどしっかりとはしてない、少しだけ頼りないけれど……一応お兄ちゃんですね」
あっさりと、そしてぐっさりと言い放つ公祐に、
「公祐おじさんってさぁ……笑顔だし言葉は丁寧だけど、時々毒吐くよなぁ……解らないように」
「仕事ですから。でも、索くんは使えませんよ。索くんは顔に出ますから。そうですねぇ……統くんは真っ直ぐ……喬くんは私たち向きですかね。まぁ、あれだけ賢いと参謀も……」
「喬……くん? 」
首を傾げる索に、公祐は、
「孔明どのの息子ですよ。年は6才です」
「えっ? 孔明兄ちゃんたち、そんな年の子供いるのか!? 」
「賢い子ですよ? もう一人、赤ちゃんの滄珠がいますね」
「か、賢いって!? 6才でしょ? 」
公祐は、にっこりと、
「読み書きは申し分ないですし、馬も自分で乗れますし、お父さんの孔明どのの友人方から色々と『孫子』など習っていますよ。将来はお父さんの跡を継ぐのでしょうね」
「戦うってことか? 孔明兄ちゃん戦ってた……」
「孔明どのは、元々参謀ですよ。付加価値として付いているのが武将としての戦闘能力です」
「えっ? そうなの!? 」
「えぇ、そう言っていたら来ましたね。喬くん、均どの。お疲れ様です」
近づいて来た馬からひらっと降りたのは、青年と統より僅かに大きな少年。
「お疲れ様です。公祐どの」
「公祐叔父上。お疲れさまです。どうでしたか? 」
首を傾げ問いかける。
「憲和叔父上には、子仲叔父上と一緒だと聞いてましたが……? 」
「えぇ。先まで一緒だよ。統くんが……えと、聞いてる? 」
「はい、趙子竜将軍のお孫さんですよね? 統くんがどうかしたのですか? 」
ハキハキと、幼い頃から大人に囲まれて育ったのだと分かる物言いをする。
「高い熱をだしてね……休ませに行ったよ。で、あぁ、この子が索くん」
「そうでしたか。初めまして。僕は諸葛孔明の息子、諸葛喬と申します。年は6才です。よろしくお願いします」
「えっと……は、初めまして!! 俺はか、……承索。9才です。よろしくな」
「はーい、減点。索くんは礼儀作法からやり直さないといけませんね。喬くんは均どのと一緒に休憩を」
公祐は喬の頭を撫でる。
「お疲れさまでした。少しでも休みましょうね」
「でも……」
「少しでも何かを口にして、休むんですよ。良いですね? 喬くんは余り無理をしてはダメですよ。疲れをためては明日が進めないでしょう? 」
「はい、じゃぁ、叔父さん。索くんも又後で……」
礼儀正しく挨拶をした喬は、叔父と共に去っていく。
しかし、索は首を傾げる。
「どうしましたか? 」
「う~ん。あの喬って奴。何か俺のこと気に入らない……? 俺、悪いことしてないけどなぁ!? どうしたんだろう……」
「喬くんは好き嫌いは余り見せませんし、多分疲れているんでしょう。気にしないで、まずは休めるだけ休みましょう。良いですね? 」
「はい、叔父さん」
ハキハキと返事をし、公祐の後を馬の手綱を引いて着いていくのだった。




