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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
三世紀だよ。全員集合?
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16/428

諸葛家の次男坊は、この地に骨を埋めるつもりらしいです。※

 孔明(こうめい)は、下の姉、晶瑩(しょうえい)の部屋だった扉を片手で軽々と開ける。

 子供が余りにも軽い上に、孔明が日々明け暮れる畑仕事の賜物(たまもの)だろう。

 姉たちの嫁いだ後、紅瑩(こうえい)の部屋は月英(げつえい)の寝室となり、こちらは時々やってくる元直(げんちょく)や士元(しげん)、季常(きじょう)と幼常(ようじょう)が宿泊する部屋となっている。

 元直はしばらく実家に戻り、女手一つで育ててくれた母親や結婚したという弟夫婦に会う予定で、季常と幼常も実家に戻るとここにしばらく寄り付かない。

 そして、士元は龐家(ほうけ)の御曹司でありながら、


「よーし、孔明をからかって遊ぶのも飽きてきたし、ちょっくらいってくらぁ」


と、袋一つと元直に選んで貰ったという小振りな刀を下げ、放浪の旅に出ていった。


 昔、苦労して様々な場所を転々としてきた孔明は、遠出などもう懲り懲りで外に出る気もないが、士元が気軽に放浪できるのは実際のところ羨ましい。

 士元はこの荊州(けいしゅう)という故郷があり、待っていてくれる家族がいるが、孔明が同じように放浪したとしても、故郷はもうなく、姉たちには新しい家族ができ、もう少しすれば均も成人し、孔明の手から離れる。

 兄の子瑜(しゆ)はこの間、


『仕官しなくていいから、江東においで』


と言う優しい手紙をくれたが、同じ文面に、


『主君の命令と、義母上の熱心な勧めもあって、結婚することになりそうです』


と言うものもあったので、遠慮する便りをしたためていた。


 自分は、多分一生ここで畑を耕して生きるのだ。

 時々友人や、兄弟の家族がやって来てわいわいと騒ぐのを、笑いながら見て過ごす。

 戦も何も無い、平穏な時間を……。


 想像に浸りかけた孔明だが、手はてきぱきと動いていた。

 汚れないように牀(しょう)に掛けていた布を剥がし子供を寝かせると、丁度先ずは水をと桶に汲んで持ってきた月英が、


「なぁ、医者呼ぶか? 」

「様子を見てからにします。体を拭いてあげたいので……」

「解った。熱湯じゃなくて、ぬるめにだな? 」

「お願いします」


 先ずは一応均の古着と、手拭いに、捨ててもいいようなぼろを部屋の隅の箱から取り出す。

 牀に戻り、赤黒い……どう見ても血に染まり固くなった布を、濡らした手拭いで少しずつ剥がしていく。

 何度もぬるま湯に浸し、手拭い自体も変色していくものの、表情も変えず小さな体が姿を現すのを手助けする。


「おい、持ってきた……うおぉ!? 」


 再びぬるま湯を手に再度やって来た月英は、牀に横たわる小さな体を見、慌てて顔を背ける。


「こ、孔明……そいつ……」

「膿んではいませんが、幾つか深い傷があります。髪も血に染まっていますから、医者に見て貰った方がいいかもしれません。あぁ、骨折はしてません。多分」


 淡々と症状を告げながら続いて新しい手拭いで、ぬるま湯を使って体を清め、最後にゴワゴワとした髪を、恥ずかしげに目をそらす月英に手伝って貰いながら、ぬるま湯に浸し、丁寧に洗い流していく。


「……あっ!? 」


 チラチラっと様子を窺っていた月英は息を飲む。

 赤黒い血を浴びた髪からみるみる色が落ち、明るい茶色の月英よりもキラキラとした金色の長い長いそれが現れる。

 そして、顔が歪むのは……、


「頭に傷があります……ですが……」


 珍しく躊躇う孔明に、月英はばしんっと親友の背中を叩く。


「解った。すぐに医者呼ぶ!! 俺の主治医だ、安心しろ!! 」

「お願いします」


 濡れた髪を丁寧に拭いながら、頭を下げる。


「解ってる、が……孔明、いくら子供とはいえ、女人を裸のままにしておくのは失礼じゃないか? 傷の手当てがあるから脱いどいた方がいいが……」


 口ごもる月英に、あぁと思い至った孔明は首をすくめる。


「すみません。暑いと素っ裸で恥ずかしげもなく水遊びをして、水を掛け合って庭を駆け回るような二人の姉がいたもので……」


 孔明は古着で簡単に体をくるみ、布団がわりの衣をかける。


「……あの姉達は、何でもやらかしてるな」


 呆れた口調で呟いた月英は、


「ま、すぐいってくる。待ってろ」


と言い置き、三度部屋を飛び出していった。

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