諸葛家の次男坊は余り変わっていないようです。※
199年の、官渡の戦い……北東の豪族、袁本初(紹)と、近年、献帝を迎え入れ勢力を伸ばしつつある曹孟徳との両者の戦いは、圧倒的な兵力の差を参謀たちの献策と、曹孟徳本人の判断力によって予想を覆し勝利した。
曹孟徳は過去の因縁の相手ではあるものの、彼の元で行われる政策には孔明すら驚かされることも多く、日々塾で議論をしたり、書庫で珍しい書を見つけては水鏡老師に借り、書き写しては返していた。
姉たちやいつの間にか居候と化していた月英が、時々お金を渡してくれるものの、それは全て4年後に結婚する予定の均の費用の為に貯め、生活は水鏡老師から回ってくる子供たちの塾の講師や、塾の後輩に講義をしたり、書物の模写、複写と畑仕事でやりくりをしていた。
「兄様も、結婚すればいいのに……」
背が余り伸びず、ギスギス感の無い均はいまだに女装を続けている。
孔明程学問が好きではない均は、孔明がある程度まで叩き込んだ勉強のみで満足し、今は家で月英と共に様々なものを作ったり、手先の器用さを生かして女性用の細工や、小物を作って売っている。
そんなことで将来は大丈夫かと聞いてみると、恋人の習家の玉音は男装の麗人であり、似た者同志らしい。
しかも趣味が毒薬収集と毒草育て、毒虫を捕まえ飼育するのが好きで、将来結婚後は不老不死の研究をしたいという物騒なというより、かなりヤバイ女性である。
自分も将来的に結婚するだろうが、兄弟たちやその伴侶程ぶっ飛んだ人が来たらどうしようかと今から心配しているのだが……。
「……よし、できた! 」
孔明は竹簡に文章の最後の一文字を書き込み、ほっと息を吐いた。
戦乱の為散文していた『孫子』の兵法書の完全版だという書簡を、知人から譲って貰ったという老師に頼み込み、写させて貰ったのである。
かくかくとしていて堅苦しい、けして美しい文字ではないが自分で読めるのなら満足だ。
「よし、時間は少し遅いけれど、老師の元に、返しにいってこなければ。明日でもいいけれど、星は……今日の方がいいと示しているし……」
空を見つめポツリ呟いた孔明は、墨だらけの模写の時に着る衣から普段着に着替え、借りていた竹簡を布に巻き、母屋兼月英の研究室に、顔を覗かせる。
中では月英と均が二人して設計図を覗き込み、何やら話し込んでいる。
「水鏡老師のところに行ってきますね。二人とも。食事は用意しておきましたから食べて下さい。いいですね? 」
「おぉ行ってこい……これは、こうだ、解るか? 」
「解ります。では、こちらの作業は……あぁ、兄様、気を付けて」
発明に熱中している二人の何とも気の抜けた返事に、首をすくめながら、
「じゃあ、行ってきますね? 爆発や怪我に注意して下さいね」
「おー」
その声を聞きながら扉を閉め、外に出ると空を見上げる。
今日は青空、快晴……。
そしてその空の向こうの星は、孔明の運命を変えるなにかが起こると出ていた。
「……まぁ、兄上が江東で暴走したり、姉上方が子供を投げ飛ばしたとか、拳術や投擲武器を与えたとか……無いから大丈夫……のはず。それともあの季常と幼常が暴走するとか、それに便乗して士元が何かを仕出かしたり……な、無いよな~うん、ない‼ 」
孔明は何とか悪い予感を振り払って、老師の館まで歩いていくのであった。




