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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
戦場に竜、鳳が飛び回ります。
139/428

昔から琉璃ちゃんの戦い方はこんな感じだったようです。※

 南門をようよう破り、火の海から逃げ出した軍を待ち受けていたのは、


「よーぉ。お早いお出ましだなぁ? ようこそって、頭下げてやろうか? 」


 ポンポンと愛用の蛇矛だぼうの柄で肩を叩いた益徳えきとくがにっこり笑う。


「久しぶりだなぁ? 曹子廉そうしれん将軍どの……ケチで有名だから、城内の酒やつまみを、全く気にもせずに飲み食いすると思ってたぜぇ? 旨かっただろ? 俺が厳選した酒に、もぐらが厳選した遅効性……と言っても、ある程度効き目のある眠り薬、探すのも大変だったんだぜぇ? 感謝してくれよな」

「なっ!? お、お前は張益徳ちょうえきとく!! お前たちが!? 」

「そうだっと威張りたいが、殆ど決めたのはもぐらと、鳳雛ほうすうたちだ。俺は、折角の名酒を手放すのが惜しくて泣けて来たぜ……」


 わざとらしく泣き真似をした益徳は真顔になり、蛇矛を構える。


「と言うこったぁ!! 皆、行くぜ!! 」

「はっ! 」

元直げんちょく公祐こうゆう、後は頼んだ!! 」


 後ろを向かず言い放つ。


「解りました。皆!! 益徳どのに続け!! 」


 元直は、扇を振る。

 戦が始まる。




 北で待機している孔明こうめいは、遠くから響く剣戟けんげきの音に、西にいるきょうと東にいるさくとうが心配になる。


「大丈夫です。多分、南ですよ」


 琉璃りゅうりは聞き耳を立て、囁く。


「どうして……解るの? 」

「喬ちゃんと一緒にいるのはきんお兄様と、憲和けんわどのです。連弩れんどの音がしません。そして、子仲しちゅうどのの方角は静かです。子仲どのは投擲武器とうてきぶき匕首ひしゅの使い手です。多分準備していますよ? 」

「と、投擲って……」


 孔明は問いかける。


「弓です。憲和どのよりも強い、強弓ごうきゅうも扱えるんです。他に腰に巻き付けている縄を解くと近くの石を結んで投げたり……普通の石投げでも的中率は他の誰よりも、遥かに的確なんですよ」

「そ、そうなんだ……」

「はい。公祐どのや憲和どのも強いんですよ。私も頑張って強弓とか、扱いたいです」

「いや!! いや!! ……良いよ、琉璃はそのままで、大丈夫!! 強弓なんか扱える程、強くならないで!! 」


 孔明は必死に首を振る。


 自分も強弓を扱うが、かなりの膂力りょりょくが必要である。

 華奢で小さな体では、扱える筈はなく、扱う為には鍛え上げなければならない。

 可愛い妻が今鍛えているのを見るのですら、泣きたい程なのに、これ以上鍛えられては泣くに泣けない。


「お願いします!! 琉璃は今で十分だから、これ以上良いから、お願い!! 」

「そ、そうですか? 私は今、ぼうが重くて……力が無くなったのかなぁとか……」

「いやいや……琉璃。それ、重いから!! 十分重いから!! あぁぁぁ……やっぱり、姉上たちに感化されてる……」


 嘆く孔明だが、見守っていた門が揺れた音を聞き、振り返る。


「琉璃……いえ、子竜しりゅうどの。準備は? 」

「出来ています。孔明さまは? 」

「こちらも大丈夫。安心して下さい。皆も落ち着いて事に当たって下さい!! 大丈夫です」


 言いきると共に、がこんと門扉が外れ、敵兵が溢れ出す。




 門を取り囲むように待機していた軍に、子孝しこうは呻く。


「やはりここにも伏兵が……」

曹子孝そうしこう将軍ですね? 私は、趙子竜ちょうしりゅうと申します」


 白馬に乗って近づいてきたのは、金髪青い瞳の美貌の華奢な少女……。

 元譲げんじょうが言っていた趙子竜とは、似ても似つかぬ姿である。


「曹子孝将軍、一騎討ちを申し込みます。受けて戴けますか? 」

「女子供が、私を誰だと……」

「ですから、この私趙子竜と一騎討ちをして欲しいのですが、とお願いしていますが? 曹子孝将軍」


 聞こえなかったのか?

と言いたげにキョトンと首を傾げ、隣を見る。


「あの……だ、『臥竜がりゅう』どの。私の言葉に誤りがありますか? 解らない言葉でしょうか? それとも、聞こえなかったのでしょうか? 」

「十分聞こえていると思いますよ。子竜将軍」

「それならどうして……えと、お年のせいで、お耳が遠くなってしまったのでしょうか? 大変ですね!! 軍医に相談なさって下さいね? 」


 真面目に心配する琉璃に、孔明とその後ろの部隊は、肩を震わせて笑いを堪える。


「な、何を!? 私は、まだ41だ!! 年寄り扱いするな!! 」

「あ、お話聞こえていたのですね。良かったです。お耳が遠くなると戦えませんから。では、一騎討ちお願いしますね? 」


 丁寧な……と言うより久々の戦闘に緊張して、カチカチになっている為に、丁寧な言葉になってしまうのだが、それを知る筈もない子孝は、かぁぁ……っと怒りに顔を紅潮させる。


「そなた……私を馬鹿にしているのか!! この小娘ぇぇ!! 」


 駆けながら、げきを振り上げた子孝の視界から琉璃は消えた。

 琉璃は愛馬に動きを全面的に任せ、するりとすり抜け、子孝の背後を斬るのではなくで叩きつける。

 華奢な手足では、落馬に追い込めなかったものの、平衡を崩した子孝は馬にしがみつき、ぎりっと琉璃を睨む。


「……やっぱり無理です。だ、『臥竜』どの。私には力が足りません。もう少し膂力を……」

「いりません!! 琉……子竜将軍は、その素早さがないと困りますよ!! 」

「そうですか……残念です。だって……」


 琉璃は怒りに我を忘れ、突進してくる子孝を見て、光華の背を蹴り飛び上がると、子孝の首と肩の間を矛の柄で再び叩きつける。

 今回は、体重をそのまま乗せた一撃。

 その衝撃に気絶し落馬した子孝の様子を見ることなく、くるんと一回転すると光華の背に戻る。


「こう言う方法でしか、一騎討ち勝てないんです。『臥竜』どの」

「あ、あははは……」


 子供を抱いているというのに、どれだけ危険な事をしでかすのだろう……。

 顔を引きつらせる孔明の後ろでは、やんややんやの大騒ぎである。


「と言う訳で、皆さん。曹子孝将軍は倒れましたが、戦いますか? 」


 小首を傾げ敵兵を見回した琉璃は、にっこりと微笑む。


「私たちと戦いましょうか? 」


 その微笑みは見ようによっては蠱惑的こわくてきである。

 しかし、それは敵兵から見れば、恐ろしい微笑みにしか見えず、じりじりと下がっていく。


「あの……? 」

「ひ、ひぃぃ……」


 後ずさり、逃げ出した兵の背中を見つめ、呟く。


「どうしたのでしょうか?子孝将軍を置いて帰られるなんて、余程焦ってたんでしょうか? どうします? 」

「捕まえておきましょう。誰か、頼んだ。じゃあ、子竜将軍。大丈夫ですか? 」


 孔明は妻を抱き下ろす。


「琉璃? 無茶はしないようにね? 」

「はい、大丈夫ですよ。無茶はしません」


 孔明はよしよしと背中を撫でる。


「それならいい……。私の奥さんで、滄珠と喬、統に広や索のお母さんでいてくれれば良いよ」


囁く。




 戦いは始まったばかり……。

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