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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
荊州襄陽の動きが、孔明と琉璃の運命を変えていくようです。
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孔明さんは、自分の肌を見せることを極端に嫌がります。※

 孔明こうめいは、自分や琉璃りゅうりにベタベタ触り、衣を脱がせようとする女官を頑なに拒否し、弟のきん元直げんちょく士元しげん益徳えきとくと琉璃の友人となった益徳の妻、美玲みれいを採寸に指名する。


 ちなみに均は、琉璃の採寸である。


 武将の中でも長身の部類に入る孔明は、ほぼ同身長の益徳と友人二人に頼るしかない。

 しかし、不本意である。

 本当は自分が琉璃の採寸をしたかったのに、出来なかったのだ。


 その上……。


「あぁ、どうして、この人たちに囲まれているんでしょうかねぇ。暑苦しい……それに、脱がそうとするな!! 士元!! 」

「うっせー。いい加減、無駄な抵抗はよせっての、はいよっと」


 衣に手を掛けていた士元は、一気に剥がす。


と、孔明の肌がさらされ、3人が絶句する。

 孔明の身体中にある切り傷、刺し傷、火傷の跡……。


「こ、これは……何だよ、何で……こんなに……」


 益徳は頭を押さえ呻く。


「ど、どんな戦場にいたんだよ……お前」

「……だから見せたくなかったんだ。この肌を……」


 表情を消し、呟く。


「そりゃ見せたくねぇだろ。……それ、戦闘の傷だけじゃねぇ‼ ……拷問ごうもんや、虐待ぎゃくたい……折檻せっかんの跡だ」

「……もっと頭の良い、士元のように頭がきれたり、元直兄のように熟考して口にする……子供に生まれれば良かった。……もう、遅いですがね」


 士元から衣を奪い返し、着直した孔明は、


「では、後で私の普段使いの衣を届けます。寸法は益徳どのと同じ長さで、お願いします……私は、琉璃の採寸を手伝ってきます」


 すたすたと隣室に消えていく孔明の背中を見つめ、士元は唇を噛む。


「俺じゃ、敵わねぇって、こういうことか……!? 俺はボンボンだ……荊州で、のんびり生きてきた。孔明はその間、地獄の中で生きてきたってのかよ!! あんなヘラヘラしてて、嫁がいねぇと生きていけねぇとか、何て馬鹿かって思ってた!! 」

「冗談だと思うよ。普通」


 元直は顔を覆い、漏らす。


「あんなに……あんな生き方をしてきたとは思わない。普通にのんびりと生きたい……そう望むのは……どうして許されないんだろう……。自分が、ここにいるのは納得しているつもりだけれど……どうして、孔明まで巻き込んでしまったんだろう……」

「……あいつには、さっさと一般の生活に戻してやりたいな」


 益徳は呟く。


「あいつは、戦場に生きるには割りきることが出来ねぇ。……無理だ」

「15年……いてやると言ってたぞ。あいつ。15年で何をするか……それはそれで楽しみだけどな」


 士元は首を竦める。


「あいつは宣言したことは、必ず守る。15年で、何か成し遂げるだろうさ」




と言う訳で、琉璃の衣の寸法を測っている場所に移動した孔明は、不安そうに寸法を測らされている琉璃に近づく。


「琉璃? 」

「旦那様!! 」

「どうしたの? 不安そうな顔をして……? 」


 妻に近づき顔を覗き込む。


よろいと言うのは……急ぐのは……何かあるのでしょうか。それに……ぴったりとした鎧では、滄珠そうしゅを抱っこ出来ないですし、お乳をあげることが出来ません」

「そうだね……もう少しそういうのを考えて貰おうか……」

「旦那様はどういう物にされますか? 」


 妻の嬉しそうな声に、苦笑で返す。


「琉璃の鎧姿よりも地味にして貰おうかなぁと思ってるんだ。お揃いも良いけど」

「そうなのですか……」

「だって武将より参謀が派手なんて言語道断。でしょ? 私は琉璃の補佐だよ? 補佐だから補佐なりに立ち回りますよ? ねぇ? 子竜将軍しりゅうしょうぐん? 」


 琉璃は、ニッコリ笑う夫にぷぅぅと頬を膨らませる。


「子竜は仕事中のお名前です。琉璃で良いのです」


 珍しい琉璃の拗ね顔に吹き出しそうになるのを堪えながら、頬をつつく。


「そうだね。今は琉璃の顔だ。ぷぅぅって膨れて、可愛い」

「にゃ!? 」

「凄く可愛い。このまま連れ去っちゃおうかなぁ……」

「兄様。済みませんが遊ばないように。寸法測ってるんだから、邪魔しないで」


 均が口を挟む。


「でも、琉璃が可愛いから。ねぇ? 琉璃」

「琉璃に返事を求めない、琉璃も兄様の言葉に流されない。早く寸法測らないと、きょうと滄珠が待ってる家に帰りたいんじゃないの? 」

「そうでした!! 」


 琉璃は、目の色を変える。


「喬ちゃんや滄珠ちゃんが待ってます。早く帰らないと!! 」

「そうだねぇ……手伝うね」


と口では言うのだが、孔明はあれこれ琉璃にちょっかいを出して、時間がかかったのだった。


「もう、次から兄様は、琉璃の採寸手伝い禁止!! 琉璃も、もっときちんと拒否すること!! 良いね!? 」


 均は言い放つ。




 しかし、このような笑顔のある日々は消え去り、少しずつ、戦への道が近づいて行くのだった。

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