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破鏡の世に……  作者: 刹那玻璃
始まりの始まりはいつからか解らない、とある一日から。
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ひょろひょろしているので、唯のウドの大木と思われています。※

 そんなこんなで結婚の儀式「六礼りくれい」も滞りなく終わらせ、二人はそれぞれの家に嫁いでいった。

 今まで当たり前のようにいて、日々騒動を巻き起こしていた三分の二が、消えると途端に居心地が悪いと言うか、変な感じである。

 まぁ、その間に月英げつえいを師匠と仰ぎ、本格的な女装家としての道を歩きだしてしまった弟をちらっと見つめ溜め息をこぼす。


「どうしたの? 兄様」


 月英のお古とはいえ、十分豪華な衣と装飾に身を包み、完璧な化粧技術を取得したきんは、昔よりもますます女性らしく育っている。


「ため息なんかついて。あぁ、姉様たち、送り出すの大変だったものね。お疲れなんでしょう? 少しお休みなさいな」

「それに疲れている訳じゃない……」

「じゃぁなあに? あぁ、師匠の昼夜問わずの大音量のせい? 仕方ないわよ。兄様契約したんでしょ? 」

「違う。あれくらいのことで、今更文句もない。それより……」


 外見上は女性だが、生物学上男性である弟を見つめる。


「お前に嫁が来るかどうか、それに、徳公とくこう様や承彦しょうげん様のご厚意で徳操とくそう様の私塾に入らせて戴けるようになったのに、その姿で行く気なのかと……」


 項垂れる兄に、均は、


「何言ってるの?徳操様の私塾に入れるのは、それなりの知識を習得した人だけなのよ? 私な訳ないじゃない。兄様でしょ。行ってらっしゃいよ。どうせ、兄様のことだから、すぐに上級の年上の人たちと机を並べるに決まっているんだから」

「えっ? ……嫌だ」


 顔をしかめる孔明に、均はキョトンと、


「何が嫌なのよ? 」

「目立つのも、上級者って言うのも……そんなの行くくらいなら、畑にいく」

「そうはいくか! 」


 ばったーん、扉が大きく開かれ、月英が現れる。

 ちなみに今日は女装ではなく、孔明の為に持ってきたものの規格外に伸び続けている彼には長さが合わず、着ないままだった新品同様の衣を着ている。


「お前の水鏡すいきょう塾への入塾も契約済みだ!! 入って頭でっかちのインテリぶった馬鹿軍団を、その無駄に多い知識と実践に基づいた話で次々論破してこい!! ついでに、狸親父と徳公叔父とを見返してこい」

「は? 」

「二人、特に徳公叔父は、お前をとらえ損ねているらしい。オレはこれでも何人か友人がいるが、その中でもお前は知識もあるし、実戦力になるはずだ。それに、女子供の道楽と言われるオレの研究を理解し、新しい知識などを教えてくれた。お前は、塾で様々な知識や論戦、情報の交換等々学ぶべきだ」


 その言葉に、ますます嫌そうな顔になる孔明。


「遠慮していいですか? 私は面倒嫌いなんです。口先だけの論客なんて問題外です。自分が見た、確認したものじゃなく、他者から得た噂にすぎない曖昧な情報だけで、それが真実だと信じ込み、意気揚々と口を開く。そして、後日誤りだったとしても謝罪ひとつない。人民を守ると口では言いながら、城を捨て逃亡するのが今の州牧しゅうぼく刺史ししですよ。私はそういう責任感のない人間大嫌いなんです。それに参謀育成所ですか? そこは。変な嘘つきや野心家養成所なんて、信用しませんよ」


 珍しく不信感と嫌悪感を現わしている孔明に、月英は改めて孔明を見る。

 同性であり、女装していても何の遠慮もなく月英は、衣を脱ぎ着替える。

 均も同様である。

 恥ずかしいも何もない。

 しかし、孔明は余り衣を寛がせたり、半裸でも動き回ることはない。

 畑ですら邪魔な袖を紐で縛る程度で脱ぐ事はない。

 均は一度だけ、ぽつりと……、


「私は余り覚えていないけれど、徐州じょしゅうは地獄だったのよ。師匠」


と、呟いた事があった。


「大兄様は、義母様と異母妹と逃げたんだけれど、兄様はたった一人で、無駄に正義感が強くて、喧嘩早くって気性の激しい姉様二人と小さい、何かあったら……今だったら泣くのこらえて逃げれば良いのに、臆病で泣くしかしない足手まといの私でしょう? そんな足手まとい見捨てれば良いのに、見捨てられない。優しい人なの。だから暴力を振るわれて大怪我をしたり、捕虜とか、何度か私たち人身売買で売られかけたりしたのを……ボロボロになりながら助け出してくれたの」


 淡々とだが、重い話に言葉を無くす。


「兄様は、師匠の見抜いた通り馬鹿ではないの。でも、昔が昔だから……」


 首をすくめる。


「兄様も近い将来、戦争が起こるって解っているのよ。でも、今この時を責任感放棄でのんびり過ごしたいんだと思うわ」

「それじゃ、遅くなったら困るだろう。逃げるにしても止まるにしても……」


 月英の言葉の意味を理解している均は、何か諦めたような笑みを浮かべる。


「大丈夫。兄様は、手枷足枷てかせあしかせになる私たちさえいなければ、自由に動き回るから」

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