表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

最終話

「ところで君はマッサージという行為をどう思う?」


二日後。土曜日ということもあり、朝から来た優花と仲直りをし、僕の部屋で談笑をしていると、唐突に優花が言った。

彼女のこういう突発的な台詞はいつものことだし、僕の椅子に座っているのもいつものことだ。

精々違うのは、僕がまだ風邪が治りきってなくて、ベッドの上で寝ていることくらいだろう。

だけど、なんだか落ち着かない気がするのは、あの出来事が起こって目に見えない変化があったからだろうか?

「さあ?いい行為だと思うけど?」

「全く。不思議には思わないのか?

あれは人に触れて、力を意図的に加えているのだぞ?

そう考えると少し怖くはないのか?」

「そうかな?僕はそうは思わないけど」


他人に髪を任せるのは怖い、と昔誰かが言っていた気がする。それと同じような物だろうか?

「じゃあ、類似でマゾヒストでもいい。

彼らは普通他人にされたら嫌がるようなことを、喜んでするだろう?」

「うん。一気にわかりやすくなった

だけどな、マッサージ師さんに謝ろうか」

「マッサージ師さん。ごめんなさい。

……話を続けるぞ?つまりは、痛がるようなことでも気持ちがいい、といいたいのだ」

「つまりはマゾ告白か?」


衝撃の真実。初めての彼女はマゾでした。

うん。……そそられるな。

「馬鹿か。まあ、一般的に快楽とされる行為、た、例えば、せーこうも互いに傷付けあって快楽を産み出す」

「あー……確かに、そうらしいな?

で、この話はどこに着地する予定なんだ?」


そう問うと、彼女は吹っ切れた顔で僕を見る。そして、歩いて来て、赤くなった僕を見て笑うと言った。

「私は傷付くのが怖かった。けれど、今回のことで君に教えられた」

「聞いたことのあるような台詞を言うと、

傷付くのを恐れては前に進めない、とかか?」

「それもある。

だが、私が教えられたのは、傷付け、傷ついてこそ幸福は産み出せる、ということだ」

「もう少し詳しく」

「ああ、じゃあ、今、私は傷ついている。

女の方から誘ったのに君は鈍いフリをして避けてしまう。


私には魅力がないのだろうか?」

「ゴホッ!」


傷付いた!確かに今、傷付いた!僕、友達が信じられなくなったよ。

中村が漏らしやがったのか、その情報。

恐る恐る彼女を見ると、別に気にしてないかのように笑った。少し、ホッとした。

「そんなことないよ。

心情としては今すぐ食べたいくらいだって」

「ふふっ。ありがと。

私は今その言葉に幸せを感じる。何故なら、不安に思っていたからな」

「つまり、最低限を知ってしまえば、基準値以上は幸せに感じるってこと?」

「少し違うかな。

日常にはありふれた幸せが沢山ある。

けれど、それは気付かなければ、傷ついてまで知ろう、としなければ幸せには感じない。

幸せは自分だけが感じられるものであり、幸せだと感じなければ、幸せではないのだからな」


僕のベッドに座ると、優花はしなだれかかってくる。近づく顔に心臓が高なり、触れた肢体が掛け布団越しにお互いの熱を伝え合う。

「な、何だよ?」


多少動揺しながら、身を固くする。すると、クスッ、と笑われ、

「好きだよ」


と告げられた。僕の顔は、大いに赤くなっていたに違いない。

「あ、当たり前だろ、こ、恋人なんだから」


とはいうものの、実は気がついている。

階段があったとして、一番上が結婚だったとすると、また一段僕らは上に登ったのだ。

これは、浅い自我から来る好きではなく、しっかりと見据え、選んだ末の“好き”だ。

「さーて、私も疲れたから、一眠りするか。お邪魔する」

「いや、待て。どうしてここで僕のベッドに入ってくる!」

「いいだろ?それに私は今、本気の“好き”をかわされて、心が寒い」

「……うぐっ!」


お互い、お互いの顔を見る勇気はない。真っ赤になって反らしながら適当な会話を続ける。

「……これで一緒に寝た、と言えるな」

「ああ、一応の初体験にしとくか。

一緒に寝ているのは嘘じゃないしな」

「なら、毎晩にするか」

「脈絡もなく無茶ぶりをするな。……正直理性が持ちそうにないから、勘弁」

「じゃあ、襲うのか?」


何故だろう。彼女の顔の全容が急に脳裏に浮かんだ。目を不敵に輝かせ、イタズラっぽい笑みをして僕を見ている。


答えはわかっているけどね、とでも言いたげだ。

ああ、残念ながらその通りだ。


「襲わないよ」


だって、


「僕はプラトニックに恋をする」


これが、僕の恋、なのだから。


                        今






                      僕はとても





                      幸せである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ