第6話
ポツポツ、と。
夜中の公園には雨が降り始めていた。
あの出来事から既に7時間、経っている。
僕は凍え、ともすれば自分に戻したくなる手を必死に伸ばし、ベンチを雨から守っていた。
そこには、下半身に僕の学ランをかけられ、泣きつかれて、夜、帰れる所もなかったからベンチで寝始めた、無用心な幼なじみがいた。
時折、雨のためか、ぶれる視界を気合いで持ち直し、少なくとも1時間、僕は秋雨にうたれている。
寒さと怪しさで逃げ出したい。けれど、それを耐えられるのは彼女がいるからだ。
別にか高尚な説明をするつもりはない。
けれど、肉体関係なしに恋愛はできる。
僕はプラトニックに恋をしている。
面倒臭い、肉が混じり合う大人の恋ではなくとも、幼い自我の混ざり合う好きだとしても。
子供、っぽくて仕方ない理由だが、それが僕の信念のすべてだ。
その信念を曲げなかったために、彼女はここでこうしているのだから、せめて雨から守ってあげるくらいが、僕の仕事だろう。
「……ん」
ようやく何かしらの異変に気付いたのか、彼女が起き上がる。そして、下半身にかけられた学ランと僕を見比べて、驚いている。
「君……まさか……」
「全く。あの程度で撒けた、とか諦めた、とか思わないでほしいな。
ずっと陰から見ていたよ」
「バカか!
しかも、何分、いや何時間こうやっていた!」
「はは……ま、大した時間じゃ……いや、それより……」
よかった。普通に話してくれて。この分だと、多少頭は冷えているだろう。
そして、僕の意見を聞いて、親父さんと話してくれるはずだ。それから、きっとみんなが幸せになる結論を導いてくれるはずだ。
本当によかった。
もう、僕は限界だったから。
頭が痛い。喉がかさかさする。湯気が、雨粒が蒸発した湯気が体から立ち上ぼり、立っていることすら辛い。
最後の気力を使い傘を優花に押しつけ、言う。
「親父さんのところに帰れ」
踏みとどまっていた足が力を失い、僕の体が傾く。頭を押しつけるように、地面に倒れ込む。
一言を発すれば、それだけ僕の生命力が抜け出すような気がした。けれど、言う。
「親父さんと一度しっかり話し合え」
もう一度立ち上がれよ、この体。
そうして、彼女を連れていけ。畜生。許さないぞ。
この言葉が届かなければ、もう一度、伝えなきゃいけないんだ。
恐らく伝えられたことに安堵したのだろう、そんな想いとは裏腹に僕の意識は沈んでいく。
「わかった。……って……!
……君!って、あつっ!
高熱じゃないか!君はまた、無茶を……!」
本当によかった。