第3話
放課後、優花は少し用があると言って先に帰った。仕方ないので、夕暮れの教室で暫く男友達と駄弁る。
「でさ、昨日の女子バレーだけど」
「ああ、見た見た。やっぱいいよな。躍動感が違う」
「100番だろ?あれは上物だぜ。跳ねたところも最高だ」
「「「あのおっぱいは!」」」
「失礼。帰らせてもらっていいだろうか」
訂正。僕は一人寂しく真っ直ぐに帰ろうとしていた。彼らは僕とあまりかかわり合いのない知人である。
さて、YOU TUBEで昨日のバレーの試合の100番を探しに帰るか。
「あー。悪かった、そんなに怒るなよ」
「別に興味津々の話題だから構わない」
「……本当にすまん。だから、そのピュアな視線は止めてください」
彼は、何を勘違いしているのだろうか。僕は本当にエロに興味津々だというのに。
とりあえず、教室の隅で輪になって4人で話す。
「あー、でも、男4人で話すことって3割方、性の方向にならない?」
「まあ、それ以外といえば……」
「スポーツ」
「漫画・ゲーム」
「Aから始まる女子団の押しメン?」
「最後のはともかく、そんな感じだわな……」
確かに。何かパターン化された会話を男同士だとしている気がする。
例えばスポーツだったら、なるたけ相手の応援球団を尊重するように話すし、漫画・ゲームでも共通のことしか喋らない。
Aから始まる女子団とかは“あの歌唱団、って幼稚園のお遊戯会にしか見えないんだが……”とか思っても、言ったら喧嘩になる可能性がある。
だから、下手な事を言わないようにそうなるのだろう。
「じゃ、無難に恋ばなでもいくか?」
「……この面子でそれは盛り上がるのか?」
「まあ、やってみなきゃわかんないだろ?」
「それもそうか。僕は優花と付き合っているが、みんなは?」
「「「…………なし」」」
これを素でやれる女子は凄いと思う。
とにかく、やりだした以上は続ける義務がある気がするので、無理矢理続ける。
「じゃ、じゃあ、好きな人は?」
「いないけど、B組の佐藤とヤりたい」
「アイドルという名の偶像を俺は求めている」
「女子という生き物に映像以外に興味なし」
「うん。最低だな、お前ら」
ちょっとでも真面目に進行しようとしたら、このおふざけ。からかってんのか?
そうしたら、この空気を変えようとでもしたのか、まとめ役的ポジションの子が言う。
「じゃあ、お前の初体験を聞かせろ」
「……え?」
「田村さんと中学から付き合ってんだろ?
いくらお前だって、キスぐらいは……」
ブーッ、ブーッ、とその時、僕の携帯が鳴った。優花からのメールだった。
上川公園に来て。
シンプルなメールには写真が貼り付けてあった。それを見た瞬間、僕は勢いよく立ち上がる。
「あ、おいっ」
「すまん、ちょっとデートに行く!」
「「「はぁ?」」」
出来るだけ友達を心配させないよう、作った微笑みはぎこちなかっただろう。
僕は走る。脳内を混乱させながらも懸命に。
このメールは、このメールだけは無視するわけにはいかない。
だって、
彼女から送られてきた写真は
裸でポーズを決めていた