第2話
僕らが通う学校は割りと近くにある。
別にそういう理由で高校を選んだりはしておらず、たまたま近かっただけのことではある。
朝、昨日はうちに泊まっていった優花と一緒に登校して、クラスに入る。割り振られた席につき、勉強用具を机にしまっていると、声をかけられた。
「おっはー」
「よっ!」
「うぃーす」
位置は前と左の席。中村愛と高橋陽太だ。
中学の頃からの友達もどきであり、今のところ優花の次に親しい人物である。
「今日は同伴登校?ラブラブカップルは違うわね?」
「一緒に泊まったんだろ?で、どうだった?桃色初体験は」
「……お前ら」
勘違いしないで欲しいが、こいつ等はそういう行為に興味があって聞いているわけではない。中学の時からずっと、こんな感じで問いかけ、僕をからかい続けているのだけである。
なお、なんでこいつらが知っているか、と言えば、中村と優花は大親友でいつも僕の事を相談してくるからだそうだ。
自然と顔の筋肉が緊張し、顔が変になるのを自覚する。
「ぷっ……で、実際の所お泊まりはしたんでしょ?」
「ああ」
「くくっ……田村さんの手料理か?」
「いや、若い男女が一つ屋根の下で寝るのには不安があるから、うちに泊まってもらった」
「「あー、やっぱり優花ちゃん(田村さん)今回も駄目だったかー」」
「おいっ!声がでかいっ!」
優花に聞かれていないか心配になり、そちらを覗く。廊下側に位置した席から遠い、窓側の席に座っていたため、優花は何も気付かず、時折ため息をついていた。
でも、これでいい。優花には僕が気付いていることを悟らせたくない。
「でもさー。私が口出すことじゃないけど
優花ちゃんが両親のいない家に誘った意味、気付いてるんでしょ?」
「……まあ」
「それなのに鈍感な演技してスルーするって
俺らが言うのもなんだが、優花ちゃん可哀想じゃねえか?」
敢えて二人とも言葉に出さなかったが、暗に僕を批難していた。当然、誘いを拒否したことにではなく、優花に説明もなく、毎回鈍い振りをして誘いを断るからだろう。
「まあ、空回りしている優花をみるのは楽しいからね」
「……サイテー。それでも白い恋人?」
「いや、(腹)黒い恋人だろ。甘くて、だけどほろ苦い」
「お前らなぁ……ともかく、優花と僕にそういうことはしばらくないから」
「相変わらず、潔癖症だねぇ。
ま、お前らしいと言えば、お前らしいけどな」
僕の言葉に高橋が言う。だが、この言葉には反論しなくてはなるまい。
「言っとくが、僕ほどエロに興味のある男はいないぜ?」
「嘘つけ」
「いや、無茶苦茶意識している。
更にいうなら、別に子供ができても、その時考えればいいさ、程度に開きなおってエロに徹する自信もある」
「ほほぅ。お主……ダメ男じゃな」
「まあ、束縛、目隠し、三角木馬とかを考えている時点で自覚はしている」
「まて、裸ニーソ、メイド、スクミズも重要アイテムではないか?」
「おーい。私のこと忘れないでー
別に男の信念とか聞きたくないから二人の時にやってー」
中村が真っ赤になって、なんか言っているが、ここは無視一択だろう。
「ああ、ダメ男さ。女に恥をかかせた上、その理由を知っても、取り繕おうともしないからな」
「……俺達にもその理由を教えられないのか?」
「別にないからな」
急に真剣な目をした親友に、肩をくすめてアピールをする。前の席に座る中村も、咎めるような視線を僕におくった。
気の置けない友達としては、洗いざらい納得のいくような説明が欲しいのだろう。
でも――
「そんなものはないよ」
「友達に見栄を張る必要はないわよ?
……って、お節介だったわね」
「そんなことはないけど……」
丁度、鐘が鳴り、ホームルームティーチャーが教室に入ってくる。
律儀に黒板に目を向ける二人を尻目に優花を見る。
(何をそんなに焦っているんだよ……)
最近、優花はとみに誘惑してくる。中学の時も、こういったことはあった。
が、どちらかと言うとその時は興味本意、というか、そこまで本気で無かった気がするのだ。
少なくとも、今みたいに何かに急かされたような感じでは無かった。
(最近親父さんも、家を留守にしがちみたいだし)
ぐるぐる回り始めた思考は、結局放課後まで止まることなく僕を悩ませた。