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この美しくも過酷な世界の中で  作者: た~りぃ
第一章 幼年編
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006話 領主の苦悩

主人公の前回登場時より1年時が進んでいます。

打ち間違いではありません。

私には悩みがある―――。


それは今目の前で我が最愛の娘、シルフィーナ=エリデ=ファーナムと戯れている、彼女と同い歳の少年のことだ。




友人夫婦の息子ウォルフ=ライガルド。




彼を初めて見た者は誰もが口を揃えて言うだろう。


―――美しい、と。


それ自体が光を放っているのではと見紛う白銀の髪。


力強く、それでいて智性を感じさせる、母親譲りのサファイアブルーの瞳。


誰も足を踏み入れたことのない、原初の雪原の様に、汚れのない白く透き通るような肌。


まるで神の造りし芸術品の様な容姿を持つ彼は、その外見だけではなく、中身も只人ではなかった。




ウォルフは普通の子どもに比べ、何もかもが早かった。


息子のラディスが1歳で何かに掴まらずに歩いた時は、この子は体術の才に恵まれたか!と喜んだものだ。

だがウォルフは、同じ歳で既に走り回ることが出来た。


ラディスが1歳で単語のみとは言え、文章をしゃべり始めた時、文武の才に恵まれた子だ!と感動したものだが、

ウォルフは初めてこの屋敷に預けられた時、自ら淀みなく挨拶をしたのだ。




しかしそれだけならまだ納得は出来る。いや、常軌を逸してるとは思うが、そもそも両親が“竜殺し”を成し遂げる者達なのだ。


その才を余すことなく受け継ぎ、それが早々と開花したのだと考えれば、まだ納得できないこともないのだ。




だが、この家に来てからのウォルフの行動は、才能という言葉では説明がつかない。


我が家では代々、自分の意思をはっきりと言葉で伝えられるようになり、かつ自分の意志通りに体を動かせるようになるか、

2歳半になった時から貴族の子息としての教育を行うことにしている。


友人の子とはいえ、この家で育つ者として、ウォルフにも同等の教育を行うことにした。




彼は瞬く間に教えられたことを吸収し、成長していった。


礼儀作法は勿論のこと、魔導術の基礎や、剣術の基礎等、普通は3年はかけてみっちりと教え込むことを、ウォルフはたったの半年で身につけてしまった。


あまりの習得の早さに、次は何を教えるべきか我々が悩んでいる間にも、

私の書物庫で戦術書から魔導書、果ては税収管理書まで読み漁っていたり、

そこで覚えたのであろう魔導術を使えるよう自ら鍛錬し、実際に使えるようになっていたりと、

最早我々が手を差し伸べるまでもなく、自らに必要な知識をその小さな体の内にため込んでいってるのだ。


まだウォルフは3歳になったばかり。


まるで生き急いでいるかの様なその姿に、私は年相応の子どもらしさを見出す事が出来なかった。






そして今私の頭を最も悩ませているのが、先日護衛として彼らにつけていた侍女の一人から上がってきたとんでもない報告だ。




ウォルフとシルフィーナが魔導術を使っていた。




いや、厳密には「魔導術のような何か」を使っていたと言うのだ。


侍女曰く、


「その術は一見するとただの火球ファイヤーボールに見えた。しかしそこには本来あるべき詠唱も陣もなかった。」


これは異常である。


魔導術とは「詠唱」により「陣」を紡ぐ。


正しい「陣」が紡がれたとき、初めて魔導術が発動するのだ。


これが熟練の魔導術師になれば、「詠唱」を行わずとも「陣」を正しく紡ぐことで魔導術を発現することもできる。


しかしそれでも、魔導術の発現時には必ず「陣」が浮かぶのだ。




ウォルフとシルフィーナの魔導術には「陣」がない。


つまり彼らは、陣を紡ぐという工程を省き、ただ念ずるままに魔導術の効果を発動できるという、

未だかつて誰一人として出来なかった、いや、やろうともしなかったことを成し遂げているのだ。




百歩譲ってウォルフはもう魔導術の基礎を習得し終えているし、ひょっとしたらその類稀なる才でその方法を見つけたのかもしれない。


しかしシルフィーナにその才があるとは、親の贔屓目を以てしても思えない。


シルフィーナは尋常ならざる魔導力を持っているが、それを魔導術として発現することに関しては不得手の様で、

魔導術の基礎を教え始めてから半年が経つが、未だにどの術も発現したことがない。


それなのに、未知なる方法で魔導術を発現したという。




恐らくだが、この様子だと、今後我らが常識としている方法でシルフィーナが魔導術を発現する可能性は低いだろう。


そうなると彼女は傍から見ると、陣を一切紡げないが、魔導術を使うことができるという歪な魔導術師になってしまう。


ウォルフは陣を紡ぐことも出来るので、人前では問題ないであろうが…。




このままウォルフをシルフィーナの傍に置いていていいのだろうか。


私の娘が、彼の傍にいることで、何か特異な存在に変わってしまうのではないかという不安に私の心は染められていく。


私は、いや私たち夫婦は、娘にはただ幸せでいてくれればいい。


何か特別なことを成し遂げる必要はない。その笑顔を絶やさないでいてくれればそれでいいのだ。




その思いを壊してしまうかもしれないウォルフの存在は恐ろしい。


だが、かもしれない、という曖昧な根拠だけで友人の息子である彼を遠ざけるのも偲びない。


何よりも彼がシルフィーナを大切に想ってくれていること、シルフィーナが彼を好いていることは、普段の二人の様子を見ていても明らかなのだ。


その想いを踏みにじってまで、二人を遠ざけるなんてことは私にはとても出来ない。




そんな親の悩みを余所に仲睦まじく戯れる二人を見つめて、私は一人嘆息を漏らすのであった。

あまりにも自重しない主人公に領主様ビビってます。


ちなみに“竜殺し”とは、「1匹いれば五大国クラスの国を一晩で滅ぼせる竜を討伐した」ことを称える称号です。

それを主人公の両親ともう1人のたった3人のパーティで成し遂げました。

化け物ですね。


そろそろ次あたりから話に動きを持たせたいですね…。




読んで下さってありがとうございます。



2012/09/17修正

×あるべき詠唱も陣がなかった → ○あるべき詠唱も陣もなかった

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