005話 ファーナム家当主
語り:領主様。延々と説明話。
五大国と導脈について軽く触れるだけのはずが…
なかなか本編が進みません。
グレン=ロジェ=ファーナム。
それが私の名だ。
治めている領地は平穏かつ豊潤。美しく貞淑な妻を持ち、2人の子どもたちは目に入れても痛くない。
私は今、とても充実している。
この世界、メルガリウムには五大と呼ばれる国々と、その他数多の中小国がひしめき合っている。
剣の国 クレディフ
魔導の国 ヤードゥ
商いの国 バハーバラ
芸術の国 アルヴェスト
水の国 タニール
これら五大国は永きに渡りその力を維持し、多少の小競り合いはあるものの、現在では互いに共存し合いながら、それぞれの国土を治めている。
我らが国クレディフは、その二つ名からわかるように剣によって成り立つ国である。
絶対的な武力を持つシュバルト王家によって統治されているこの国では、何よりも武力による名誉が優先される。
どれだけ身分が低くても、国の開く武術大会で優勝すれば、即近衛騎士待遇が待っている。
どれだけ家が貧しくとも、戦いで功績を挙げれば、金に困ることなどまずなくなる。
力さえあれば、すべての民に平等に認められる機会があるのはこの国の良いところである。
その為、他国から力ある者が移り住み、更に国力が増してゆく。
だが半面、例えどんなに他に優れた能力があれど、力無き者は評価されないのがこの国だ。
魔導術の力が優れていても、商売の才に溢れていても、武力が劣ると軽んじられてしまうのがこの国の悪い点だ。
我がファーナム家はクレディフにおいて、魔導術により爵位を得た数少ない貴族である。
初代当主ホラント=リクハルト=ファーナムは圧倒的な魔導力と四属性による多彩な魔導術をシュバルト王家に評価された。
しかし、その圧倒的な魔導力にも係わらず、男爵位という地位に留まっているのはやはり、剣の国ということだろうか。
私で12代目になるが、今までの当主で剣による武勲を打ち立てた当主はいない。
生まれつき高い魔導力を持つファーナム家では、その力を誇りに思っている為、魔導術よりも剣の腕を優先して磨くという者はいないのだ。
これで魔導力が乏しければ、魔導術よりも剣に目を向けることもあろうが、生憎ファーナム家では“落ちこぼれ”と称される人間でも、この国では平均以上の魔導力を持っているのだ。
かく言う私も、歴代当主としては平均的な魔導力を持っている為、魔導術では騎士大隊相手に互角の勝負を挑める自信があるが、剣の腕は一般兵相当にしかない。
その為、他の大多数の貴族からは軟弱者や臆病者などという誹りを受けることも多々あるが、私としてはそんなことはどうでもいい。
実際に戦いとなれば、一流の騎士ならいざ知らず、貴族が束になったところで私には勝てぬのだから、精々味方の間は吠えているがいい。
ファーナム家は男爵位の為、いくつかの村を治める事が出来る。
爵位が上がれば、街や都市を治めることができるが、ファーナム家は初代から400年間、男爵位から上がったことは一度としてない。
普通なら不平不満が募り、国外に出奔し地位を得るか、反逆でも起こしそうなものだが、ファーナム家がこの地位に甘んじているのには訳がある。
それは治めている村の一つが魔導力の高い地、「導脈」の上にある為だ。
我々が生きるこの大地も人と同じく魔導力を有している。
大地の魔導力は川の様に流れ、広がっている。
その川の中でも本流に当たるのが「導脈」だ。
導脈が通る土地は作物の実りもよく、そこに生きる動物も活発である。
何より、その地から溢れる魔導力は魔導術師にとっては無限に湧く力の泉であり、その地にいる限り通常より魔導力が高まったり、回復が早くなるのだ。
他国にも当然導脈はあるが、当然のことながらその土地は他国の魔導術師が自らの縄張りとして確保している。
そこに後からのこのこ現れたところで、その地を得られる保証はどこにもない。
また導脈上の土地には概ね都市や砦が建っている。村が発展して都市になった場合、そこを治めるのは伯爵位より上の者の仕事だ。
村が発展したところで、男爵位が上がるなんてことはまずあり得ない。
すると万年男爵位のファーナム家としては村を必要以上に発展させないように、うまく管理する必要が出てくる。
村が村である限り、一度下賜された土地をなんの落ち度もない貴族から取り上げることなど、王家であっても出来ない。
それを許してしまえば家臣の信を失い、国として成り立たなくなってしまう。
その為、王から認められて導脈を治めているこの現状が続く限り、魔導術師の家としてはこの地位に満足こそすれど、不満を言う道理なぞないのである。
そしてこれは私の個人的な理由になるが、私はこの土地とそこに住む人々を気に入っている。
私は男爵であるが、この土地に住む一人の人間でもある。
歴代当主は憤慨するかもしれないが、私から言わせてもらえば、たかが男爵位。
この土地に住む同じ人間として、領民たちと笑い、泣き、苦労を分かち合う。
それが私、グレン=ロジェ=ファーナムの日々の楽しみであり、
それを楽しむためには、領民との距離が遠くなる上の爵位など私には必要ないのである。
もう一度言おう。
私は今充実している。
恐らくこの世に生まれ落ちてからの28年間で最も満たされているだろう。
ただ一つの悩みを除けば…
ひたすらファーナム家について語ってました。
こんなに長くなったのは完全に勢いです。
次話も領主様視点です。主人公について語ります。
読んで頂き有難うございます。
2012/09/17修正
×勝負を挑める自身があるが → ○勝負を挑める自信があるが