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この美しくも過酷な世界の中で  作者: た~りぃ
第二章 学術院編
21/22

020話 振り分け試験がありました

今まで固有名詞以外のカタカナはなるべく使わないようにしてましたが、ちょっとしんどくなってきたんで、諦める事にしました。


今後は会話の中にもちょいちょい出てくると思います。

「ふあ~あ…」


「ウォルフ、だらしないよ?」


「んなこと言ったって眠すぎでしょ。こんなこと5日もやったって、どうせみんな忘れるって。」



入学してからの5日間、オリエンテーションが行われていた。学術院の校則や、講義体系、生活上での注意点などを延々と座学にて行われているのである。


「まぁでもウォルフくんの言うこともわかるわ~。いい加減私も体動かす講義を受けたいわ。」


「マリアまで?というかラナ、あんたは起きなさい!」


「ふぇ?」


「まったく、緊張感のないやつらだぜ。」


「話の間ずっと目を閉じていた人間がそれを言う?」


ウォルフやマリアたけではなく、他の生徒達も概ね似たような感想を抱いていた。


気だるい雰囲気の漂う教室の中で、その一角だけやたらと姦しい。




「まぁでもこの眠気とも今日でおさらば。午後の魔導術、体術振り分け試験さえ終わってしまえば、明日は休み!」


「休みイエーッ!」


「イエーッ!」


ウォルフの言葉に、ユリアンとマリアが続く。


「王都に繰り出して遊ぶもよし、寮で1日ゴロゴロするもよし。」


「ウォルフはどうするの?」


「僕?僕は市場に行ってくるよ。欲しい物もあるし、何があるか知っときたいしね。」


「私も行く!」


「朝一で行くから寝坊しないようにね?」


ウォルフの予定に、一寸の躊躇もなく動向の意を示すシルフィーナであった。







―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――







魔導術の試験はだだっ広い校庭で行われていた。


ここで標的に設定された人型に魔導術を放つことで、その能力を測るものだ。


その結果により、7段階のクラスにわけられる。上位から順にオーエンナンス、キャプセラ、ブラシカ、ラファナス、グナファリウム、ステラリア、ラプサーナと名がついている。


同様に、体術についても7段階に分けられ、上位からレスピディーザ、ミスカンタス、プエラリア、ディアンタス、パトリニア、エウパトリウム、プラティコドンとなる。


ここでの結果により、最低半年の講義内容決まる為、生徒達には気合が入っている。


既に大半の生徒が試験を終え、残すはウォルフたち5人のみとなっていた。






「次!マリア=シレリー=チャンドラ!」


「はい!」


呼ばれたマリアが前に出て、詠唱を始める。


「『汝、我が呼声に応え、凍てつく切っ先で敵を貫け』氷槍アイスランサー!」


マリアの呼声に応えて、白く輝く陣と共に氷の槍が3本現れる。


氷の槍は狙い違わず標的と定められた人型へと突き刺さる。


「おぉ~、やるじゃん!」


「さすが、マリア!」


「きれいな術式ですぅ」


「あぁ、速度も威力も申し分ない。何よりも魔導力の無駄がない。完璧だね。」


友たちの賞賛の言葉に照れながら、マリアは意気揚々と戻ってくる。


「あぁ!上手くいってよかった!緊張しちゃった!」


幾分か頬を上気させたマリアを、ウォルフ達は温かく迎えるのであった。






「次!ラナキュリア=アネモス」


「はいっ」


「ラナ、気楽にね。」


「が、頑張りますぅ。」


ウォルフの応援に気が入っているのか、抜けているのかわからない返事をする。




しかしラナキュリアが人型に向かうと、雰囲気が変わる。


いつものぽやぽやとした彼女ではなく、荘厳で、見る者に畏敬の念すら覚えさせるその姿に、誰もが見惚れていた。


「『汝、我が呼声に応え、風を巻き起こせ。刃と成りて我が敵を切り刻め』


『斬、斬、斬。一は二に、二は四に、四は八に。』


『刹那の内に塵芥と為せ。疾れ千の刃よ。』


《ウインドミンス》!」


ラナキュリアの魔導術により、無数の陣と、それに続いて風の刃が現れる。


その刃が人型に襲いかかると、詠唱文の通り、あっと言う間に細切れになりその場に散らばった。



その光景を見て、観客と化していたウォルフたちは我に返る。


「すげぇ…あれがエルフか…」


「見ろよ、人型がバラバラだぜ…」


目の前のことが信じられないと騒ぐ他の生徒達と同じく、ウォルフたちもあまりの事に呆然とする。


「ラナってホントに凄かったのね…。」


「えぇ、私にもあれは無理だわ…」


「あんなのと比べること自体間違ってるだろ…」


(ていうか、ラナってエゲつない魔導術覚えてるな。なるべく怒らせないようにしよう)


あの程度なら防ぐことは可能だが、万一防ぎ損ねた時の事を考え身震いしたウォルフは、そう心に誓ったのであった。






「次!シルフィーナ=エリデ=ファーナム!」


「いよいよ私ね!」


「フィーナ。」


意気込んで前に出るシエルフィーナをウォルフは呼びとめた。


「何?」


「別にやる気なのは構わないんだけどさ。詠唱は誤魔化していいけど陣は出しなよ?」


「わかってるわよ。でもあのやり方ってまどろっこしいのよねぇ。」


「文句を言わない。ほとんどフィーナの為に考えたんだからね?」


「ちぇっ。わかったわよ。」


どうしても陣を紡ぐのが苦手なシルフィーナの為に、ウォルフは陣を出す魔導術を考え出していた。


予め暗記しておいた陣を、任意の場所に浮かび上がらせるだけで、陣自体には何の効力もない。




「ごにょごにょごにょごにょ……火炎旋風フレイムストーム!」


シルフィーナが詠唱を誤魔化し、魔導術の名前を唱えると陣が現れ、そこから4本の巨大な紅蓮の竜巻が現れる。


術者の髪と同じ色をしたそれは、標的の人型目掛けて集まり、1本に重なる。


熱風が吹き荒れ、多くの生徒が顔を顰めた。圧倒的熱量を風と共に撒き散らしながら、段々と竜巻は小さくなっていった。


そして竜巻が消えた後、そこには焼け焦げた地面が残るのみで、標的は跡形もなかった。




「マジかよ…」


「おい、俺たち、こんなのと同級生なのか…?」


「あの子たちと比べられるなんて冗談でしょ…?」


最早悲鳴にも近いクラスメイトの言葉を余所に、シルフィーナはさも当然といった態度でウォルフたちの元へ帰る。


「ま、こんなものね。」


「こんなものねって、あんた…」


「ふあぁ、フィーナさん凄いです…」


「………。」


賞賛を通り越して呆然とする友人達に笑みを返すと、シルフィーナは振り返ってウォルフの顔を覗き込む。


「どうだった、ウォルフ?」


「ん、よくできました。ただ陣の発現タイミングがちょっと危なかったかな。以後気を付けるように。」


そう言ってウォルフがシルフィーナの頭を撫でると、シルフィーナは猫のように目を細めてされるがままになるのであった。






「次!ウォルフ=ライガルド!」


「はい。」


返事をしたウォルフが前に出ると、それだけで場がざわめく。


「おい、あいつだよな?入学式前に王女殿下とやりあってたのって。」


「あぁ詠唱なしで術を発現したらしいぜ。」


「それ私も見たわ!風と火の魔導術を使ってたわ!」


「しかもあいつ、魔導力がさっきの女子よりも上らしいぜ?」


「ば、化け物か…!」


俄かに騒がしくなるクラスメイト達の様子にウォルフは苦笑する。


「ま、そこまで知れ渡ってるなら、わざわざ隠す必要はないか。」




「雷のサンダーケイジ!」


ウォルフが術の名前を叫ぶと同時に人型を囲むように1辺が4m程の立方体の雷の檻が現れる。


尤も、立方体の下半分は地面に隠れて見えなかったが。


やがて檻の頂点から人型に向けて小さな雷が走り、その度に人型が爆ぜ、小さくなっていく。


その光景に生徒は勿論、教師たちでさえ息を飲み、言葉を発せないでいる。


それもその筈。雷のサンダーケイジとは大型の魔獣を捕え、足を止める為の魔導術で、術者単独で行える規模のものではない。


それを単独で、しかも初等部に入ったばかりの子どもがやってのけたのだ。


「仕上げだな。」


ウォルフが手を天に向け、振り下ろす。


その瞬間、檻の内部が直視できない程に輝き、轟音が鳴り響く。


光が収まり、静寂が戻ると、人型があった場所には立方体の下半分に当たる穴が開いていた。


ウォルフはその穴を覗き込み、満足そうに頷いている。





その光景に生徒も教師もあんぐりと口を開け、微動だにできない。


ウォルフとしては実力の1割も出していないのだが、他人から見ると異常の一言だった。


学術院に入学してくる生徒には、魔導術や体術に自信を持っている者は少なくない。


その様な生徒達は多かれ少なかれ自らの実力に誇りを抱いている。


だがウォルフの魔導術は彼らの誇りを打ち砕くのに十二分な衝撃を持っていた。


その圧倒的な力を目にして、彼に敵対しようという気力を持ちえている者はほとんどいなかった。


それは牽制という意味で、ウォルフの思惑通りであった。


中には魔導術はともかく、体術ならばと一縷の望みを持つ者もいたが、彼らの希望もすぐに打ち砕かれることとなる。







―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――








体術試験では試験開始前に準備運動の時間が用意されている。


ウォルフはシルフィーナと組み、剣を用いて準備運動に励んでいた。




単純な剣術の腕前で言うと、実はウォルフの腕前はそれほど高くはない。


セバスチャンや他の剣の使い手から多少の手ほどきは受けているものの、素手と魔導術が主体の戦闘スタイルの為に、あまり熱心に剣術の腕は磨いてこなかった為だ。


恐らく純粋に技術的な意味では新入生の中でも平均か、それ以下かも知れない。


その点では細剣を主武器として立ち回るシルフィーナの方が、剣術の腕は高いといえる。


しかし、あくまでもそれは剣術としての腕であり、戦闘においての剣での戦闘力でいえば、やはりウォルフの方が高かった。


それは一重に魔導術による身体強化の恩恵であり、その驚異的な力によって技術を上回る戦闘力を得ているのであった。




二人の、いやウォルフの準備運動に注目していた生徒達は、その剣筋が人間の範疇にいたことに安堵した。


しかし時間が経つにつれ、二人の動きは加速し、ついにはシルフィーナの細剣の軌跡は多くの生徒達の目では追い切れないまでになっていた。


その怒涛の剣戟を涼しい顔で一歩も動かずにいなしていたウォルフも、自分が体を動かすためだろう、襲い来る刃の雨に対して長剣でカウンターを決め、更には蹴りまで入る。


最早冗談としか思えぬその光景に、他の生徒達は悟る。


―――あぁ、これは自分たちが干渉してはいけない世界なのだ。


―――彼らの機嫌を損ねるだけで、自分の命に関わる。


―――自分と比べるだけ無駄。自分に出来ることをしていこう。


と。


敵意や恐怖だけでなく、興味や羨望という感情でさえ通り越して、達観したような雰囲気がその場に流れたのであった。






ちなみに。


準備運動後に体術試験官との試合が行われたが、ウォルフとシルフィーナは試験官を秒殺し、結果を待つことなく最上位クラスであるレスピディーザへ入る事が確定した。






こうして、5日間にわたるオリエンテーションは、生徒と教師の常識や価値観をぶち壊して終了したのであった。

~幕間~


フィーナ「ところでユリアンは何の魔導術使ったの?」


ユリアン「おい!岩の墓標ロックグレイブを見事に決めただろうが!」


フィーナ「そうだったの?ごめん、覚えてないわ。」


ラナ「すいません、ウォルフさんのが凄すぎて…。」


ユリアン「………あの順番を決めた人間を俺は恨むぜ…。」


マリア「………。」


ユリアン「………おい、何で肩に手をおいて、ちょっと嬉しそうな顔をするんだ?」


マリア「………いや、何となくね。」


――――――――――――――――――――


マリア は なかまを みつけた!


マリアもユリアンも例年であれば相当に優秀な生徒です。例年であれば。


ウォルフは全属性、フィーナは火、風、マリアは水、ユリアンは土と火、ラナは風・水・火が使えます。




ウォルフたちのクラス振り分けは


ウォルフ…魔導術:オーエンナンス(1) 体術:レスピディーザ(1)

フィーナ…魔導術:オーエンナンス(1) 体術:レスピディーザ(1)

マリア…魔導術:オーエンナンス(1) 体術:レスピディーザ(1)

ラナ…魔導術:オーエンナンス(1) 体術:ディアンタス(4)

ユリアン…魔導術:オーエンナンス(1) 体術:ミスカンタス(2)


となっています。(括弧内は上からの順番)




次回、初めての休日編です。






読んで下さってありがとうございます。

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