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この美しくも過酷な世界の中で  作者: た~りぃ
第二章 学術院編
20/22

019話 友となりました

忙しすぎて力尽きそうです。


結局しばらく週1更新になりそうな予感がします。


学術院の寮生は食事を寮の食堂か、学術院の大食堂で摂ることになる。


寮の食堂は各寮生しか食事を摂れないが、大食堂は全生徒が食事を摂ることができるのだ。


ウォルフ達は初めての寮生活での食事を共に摂る為、揃って大食堂に来ていた。


大食堂では複数の窓口で、様々な種類のメニューや郷土料理を選べる。


ウォルフとシルフィーナは比較的列の短かった魚料理を早々に受取り、他の面々を待っていた。






「えっ?同室の子に陣なしの魔導術教えちゃうの?」


フィーナが驚いた声を上げる。


「入学式前のことを見られてたみたいでね。どうも彼、ちょっと特別な目を持ってるみたいで、誤魔化すのが難しそうだったんだ。」


「特別な目?」


「うん。あの目は多分『精霊の目』ってやつだね。グレン様の書庫で読んだことがある。あれの前じゃ魔導術の事は誤魔化せそうにないよ。」




『精霊の目』とは通常目に見えない魔導力を見る事が出来るもので、百万人に一人と言われ確率で先天的に現れる。


魔導力の流れを読み、果ては魔導術を読むことの出来るその持ち主は、その手段は様々であったが、様々な国や機関から引く手数多であった。


ユリアンが掛けていた眼鏡は度が入っていなく、微弱な魔導力が感じられる物だった。


このメルガリウムでも視力が衰えた者の為に眼鏡はあった。


それは地球にあった物と同じでガラスのレンズを金属や木製のフレームに嵌めた物で、違う点と言えば魔導術が籠められているという事だろう。


籠められる魔導術にはいくつか種類があるが、ユリアンのような子どもが常時かける必要のある眼鏡に籠められる魔導術というのはかなり限られている。


そしてウォルフはその魔導術を大まかではあるが、見分ける事が出来た。


その事がユリアンが『精霊の目』を持っていると、ウォルフに確信させていた。




「それに、黙らせるのは簡単だけどさ、せっかくこれから3年間一緒に生活するんだ。あんまり最初からギスギスしたくなかったんだ。」


「うーん、でもそんなに簡単に教えちゃっていいのかなぁ…?」


「ん?」


「だって出立前にお父様から色々言われたじゃない?」


確かにグレンからは、陣なしの魔導術を軽々しく人目に晒さない様注意されていた。


それはその異質な魔導術を欲する人間から、ウォルフやシルフィーナの身を守る為の忠告であり、ウォルフ自身もそれを理解していた。


「確かに、グレン様の仰ることも御尤もだよ。フィーナは人前で使っちゃダメだ。だけど僕はもう人前で使っちゃってるし、今更隠すのもね。」


「じゃあ、どうして広めちゃうの?」


「そもそも僕は陣なしの魔導術を一生隠すつもりはないんだよ?」


その発言にシルフィーナは怪訝そうな顔をする。


「あれは魔導力が高い人間ならば誰でも使える物なんだよ。自分のイメージ次第で新しい魔導術を創り出すことが出来る。言ってみれば魔導術の進歩に繋がる物なんだ。」


「でもそれって悪い事に使われたら結構大事じゃない?」


「まぁね。でもそれを上回る良い方向への発展があると思うよ。」


「んー、ウォルフに考えがあるなら、それについて私は何も言わないけどさ…」


納得したようなしないような、複雑な表情をしつつも、シルフィーナは言葉では納得の意を示した。




「でも同室の子に陣なしを教えて大丈夫なの?」


「あれはあくまでも強大な魔導力を持って初めて意味を持つ方法だよ。やり方を知ったからといって、彼にはまだそれを使えるだけの実力がない。」


「でも魔導力が伸びたら使えるようになるでしょ?悪さに使われたら?」


「それまでにそうならないよう『お話し』しておくし、万一悪さしたらその時は責任を持って僕が『おしおき』するよ。」


ニヤリと笑って、宣言をするウォルフ。その目に楽しそうな感情が浮かぶのをフィーナは見逃さなかった。


「ふぅん。で、その子を鍛える意味は?」


「ペルサハン商会の人と仲良くできることの利点は大きいよ?国内外に広がる情報網を持つ彼らと、魔導術の特別講義くらいで仲良くなれるなら儲けもんだよ。」


(ま、何よりも、あの目を敵に回すのは面倒臭すぎるしな。)


「ふーん…まぁそこまで考えてるんだったら大丈夫なんだろうけど…」


「ま、この話はこんなところにしておこう。皆も来たみたいだしね。」








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――








ルームメイトの紹介と、夕飯のひと時を終えたウォルフは、ユリアンと共にとある林の中にいた。


学術院の敷地の最外部に辺り、高い壁に囲まれ、特に何がある訳でもないそこには、他の生徒の影もなく、秘密事を行うにはうってつけの場所であった。




「さてと、魔導術講義の前にユリアンには聞きたい事があるんだ。」


「ん?」


「ユリアン、君、精霊の目を持ってるでしょ?」


「えっ?い、いや、なんで?」


ウォルフの言葉に動揺するユリアン。


自分からそれを臭わせておいて、それかよ!とウォルフは内心ツッコミを入れてしまう。


「その眼鏡の帯びてる魔導力は、何かの指向性を持ってるようには見えないし、その場で留まっているのなら、何か幕の様な役割を持ってると想像できるよ。」


「で、でもそれだと遠目テレスコープの魔導術かもしれないぜ?」


「残念。あれは魔導力の分布に偏りが出る。君の眼鏡の魔導力は均一に広がっているだろ?」


「………ウォルフにも魔導力が見えているのか?」


最早諦めたのか、ユリアンは否定をせず、逆にウォルフに問いかけてくる。


「いや、詳しくはわかんないよ。なんとなく濃いか薄いかが分かるだけだ。」


「それでも十分異常だと思うけど…」


魔導力の全てを読み取る精霊の目と違い、ウォルフに見えるのは文字通り魔導力の濃淡だけである。


魔導力の濃淡が見えるという事は、魔導術が発現する予兆が見えるということでもある。


つまり精霊の目ほどではないが、ウォルフの目も世の魔導術師にとって天敵と呼べる存在なのだ。


「そんな訳なんだけど。僕の推理は当たっているかな?」


「当たっているかな?って、ウォルフの中で答えはもう出てるじゃないか!」


「ま、確認ってことさ。自分の確信だけで万事全てが上手くいくなんと思えるほど、僕は自惚れてないんでね。」


「絶対嘘だ!」


「ホントだってば。で、どうなの?」


「ああ、ちくしょう!そうだよ!当たってるよ!まさか初日でバレるなんて…親父にボコされる…」


何やら頭を抱えてしゃがみこんでしまったユリアン。


余程父親が恐ろしいのか「もう蹴らないで下さい」だの「そこはらめぇ…」とか何とか呟き、震えている。


その様子に同情を禁じえず、ウォルフは早々に助け船を出す。


「そんなの僕やフィーナが黙ってれば親父さんにもわかんないって。」


「えっ!?黙っててくれるのか!?」


ガバッという音が聞こえそうなほどの勢いで顔を上げるユリアンを、また詰め寄られたらたまらんと、手で制するウォルフ。


「落ち着きのない奴だなぁ。当然タダでってわけにはいかないよ?」


「え…俺、今全然金持ってないんだけど…」


「ユリアン…君、本当に大商人の息子かい…?今僕が求めているのが何なのか本当にわからないのか?」


ウォルフの冷めた目に冷静になったユリアンは、ずれた眼鏡を直して思案する。


「商会が持つ情報…?」


「30点」


「……陣なし魔導術の存在を黙ってること…?」


「及第点かな。他にも理由はあるけど、大体そんなところだよ。ちゃんと答えを出せるじゃないか。」


にんまりと笑うウォルフに褒められ、ユリアンは照れを隠すかのようにそっぽを向き、頭を搔く。


「まぁ、陣なしについては、僕が良いと言ったらどうしてくれても構わないよ?むしろ商会を通じて広めてほしいくらいだ。」


「でも今は黙っておかなきゃいけないんだろ?」


「ユリアン。こういうことには時期ってものがあるんだ。今はまだその時じゃない。」


「時期って…?」


「それを公表して僕らが狙われても、守りたい者を守れるくらいに力をつけた頃、かな。」


「でもウォルフもシルフィーナも十分強いんじゃ…?」


「僕はともかく、フィーナは武術になるとまだ未熟だよ。それに、陣なしを使える人間だけじゃない。その周囲の安全も確保されなきゃ意味がないでしょ?流石の僕も自分の大切な人たち全てを僕一人で守りきれるとは思ってない。守る為には信頼できる仲間が必要なんだよ。」


「それがシルフィーナであり、俺…?」


「そう。あとはマリアやラナにも期待してるよ。」


マリアやラナキュリアにも陣なしを教えることを隠さずに話すウォルフ。


その事にユリアンは驚きを隠せなかった。しかし彼にとって、それよりも気になっていたことがあった。


「でも、何で俺なんだ?精霊の目を持ってるからか?」


「ま、ぶっちゃけるとそうだね。正直精霊の目を敵には回したくない。もし敵に回ったら真っ先に倒さなきゃいけないだろうね。」


ウォルフの言葉に表情を暗くするユリアン。


「でもあくまでも敵に回れば、だよ。そうなってほしくないから、こうして僕はユリアンと話しているわけだし。それに僕たちは運がいい。こうして入学早々に同じ寮で、しかも同じ部屋で過ごすことになるんだ。なんの先入観もなく、他の誰の意思が入り込む前に、僕たちは今後の身の振り方を自分の意思によって決めることができる。これはもう運命としか言えないと思わないか?」


ウォルフの言葉を聞くうちに暗くなったユリアンの表情も明るくなっていく。


「はっきりと言うよ、ユリアン。僕の仲間になれ。仲間と言葉に抵抗があるなら、友と言ってもいい。僕は君の力を必要としているし、将来君と戦って殺し合いをするつもりはない。友として僕の傍にいろよ。」


ウォルフはそう言い切ると、ユリアンに手を差し伸べる。


ユリアンは暫し逡巡し、やがて瞳に決意を宿し、その手を取った。






こうして学術院入学式の日の夜、生涯の友となる二人は出会い、手を結んだ。


この時出会わなければ、ウォルフの予言通り、二人は将来殺し合いを演じていただろう。


二人が知る由もないが、それは遠くない未来に起きるある事件にて証明されることとなる。

~幕間~

フィーナ「で、お話は終わり?」


ウォルフ「うん、お待たせしたね。」


フィーナ「別にいいわよ。それより、あんな熱烈な言葉、私ももらったことがないんだけど?」


ユリアン「え?睨まれるの俺?」


フィーナ「じーっ」


ユリアン「ちょ、ちょっと!ウォルフ、助けてくれよ!」


ウォルフ「女の子にあんな事軽々しく言えるか!僕はこの年で求婚するつもりはないぞ!」


ユリアン「そりゃそうだろうけど…」


フィーナ「じーっ」


ユリアン「あぁ、もう!誰か助けてくれー!」


――――――――――――――――――――


ウォルフくんに男の子の友達ができました。

実はメルガリウムにおける初の同い年の男友達でした。


二人の会話中のフィーナの空気っぷりと言ったら…




読んで下さってありがとうございます。

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