018話 入寮しました
先週の日曜ぶりの更新になります。
前話のラストを修正してますので、戦闘シーンはありません。
フラミティス学術院は基本的に全寮制である。
寮の部屋は生徒数より多く建てられており、空き部屋は中等部や高等部の生徒が必要に応じて別室として使用を申請している。
各寮は3階建ての建物で60部屋が入っていて、それが学術院内に20棟建っている。
正5角形の学術院の敷地の各頂点に近い位置に、男子棟と女子棟がそれぞれ2棟ずつ、4棟が1寮区としてまとめて建てられていた。
4棟は正方形の辺となる位置に立っており、正方形の内部は中庭として、生徒達の憩いの場になっている。
各寮区は北から時計回りに青赤黄白黒の五色を冠している。
そして学術院の敷地の北に位置する青寮区にウォルフたち4人の姿があった。
「ねぇ、ウォルフはどこだったの?」
「んー、僕は青1だね。」
「やったぁ!隣の棟だわ!」
「フィーナ、お隣さんだからって気軽に部屋に遊びに行けるわけではないのよ?」
「そんなことわかっているわよ。」
「まぁまぁ、シルフィーナさん、早くお部屋に行きましょう?」
脹れるシルフィーナをラナキュリアが宥めながら寮へと向かって行く。
「マリアは二人とは違う棟で残念だったね。」
「でも隣だし、一緒みたいなものよ?」
「まぁ、それもそうか。何にせよ皆同じ寮区でよかったよ。」
「そうね。それじゃ、私も部屋に行って同室さんに挨拶してくるわ。」
そう言ってマリアも自分の寮へと向かって行くのであった。
「さてと、僕も自分の部屋で一休みするかな。」
―――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
ウォルフの部屋は青-1棟3階の角部屋であった。
扉を開けると、12帖程の、板張りの床に白塗りの壁を持つ部屋に、シングルベッドと机が2つずつ用意されていた。
寮生活では初等部の3年間、この部屋での2人暮らしが規則として決まっている。
既に同室の生徒は来ていたようで、ミディアム程の長さのパーマのかかったこげ茶色の髪に、眼鏡をかけた少年がベッドに座っていた。
(ん?あの眼鏡は…)
ウォルフは違和感を覚え、それに注視しようと試みたが、相手の挨拶に阻まれた。
「おう、よく来たな!」
まるで自分の家に招いたかのような態度を取る少年は、ウォルフの様子を気にも留めず、挨拶を続ける。
「俺はユリアン=ペルサハンだ。ユリアンでいいぜ。よろしく頼む。」
「………僕はウォルフ=ライガルドです。ウォルフでいいですよ。よろしく。」
「おいおい、敬語はよそうぜ。これから長い付き合いになるんだ。」
「わかった。あんまり堅苦しいのは好きじゃないんだ。助かるよ。」
気安いユリアンに、好印象を持ったウォルフは笑顔で握手を交わす。
ウォルフは一先ず先程の違和感は置いとくと決め、ルームメイトとの自己紹介に励むことにした。
「ところで、ペルサハンってひょっとして…」
「あぁ、うちは商会をやってる。俺はそこの次男坊でね。」
ペルサハン商会はクレディフ王国内のみならず、国外にも支店を持つクレディフ王国最大の商会である。
取り扱っている商品は食料日用品から魔導具まで、客層は平民から国そのものまでと大変手広く商売を行っている。
「ま、なんか入用なら俺に言ってくれればちょっとは融通するぜ」
「その時はよろしく頼むよ。」
「ま、俺の自己紹介はおいといて、だ。」
そこまで言うとユリアンは友好的な笑顔の中に、悪戯小僧の様な感情を混ぜる。
「お前、入学式前にひと悶着起こしてただろ?」
「んー、まぁ大した事じゃなかったけど。」
「お前さ、あん時陣紡がずに魔導術使ったろ?」
「ん?いや、僕、魔導術の発現速度には自信があるからさ。見逃したんじゃない?」
「隠すなって!俺は目には自信があってな。どんなに発現速度が速いからって陣を見逃すことはありえないんだって!なぁ、あれってどうやってるんだ?俺にも出来るのか!?」
「ちょっと落ち着けって。汚い!汚い!」
興奮気味のユリアンは、ウォルフの肩を掴み、唾を飛ばしながら顔を近づけてくる。
流石に堪らないと、ウォルフはユリアンを押しのけ落ち着かせる。
同時にウォルフは、ユリアンの言葉から先程の違和感の正体に思い当たる。
「まったく…結論から言うと、あれはユリアンにも使えるよ。当然それなりに条件があるけどな。」
「マジか!すっげぇ!」
ひゃっほう!と飛び上がって喜ぶユリアンにウォルフは思わず苦笑を漏らす。
しかし陣なしの魔導術には、色々と問題が多い。
「だから、条件があるって言ったろ?ちなみに魔導力はどれくらいだった?」
「俺か?」
ふふん、と鼻をならして得意げな顔をするユリアン。
「聞いて驚け!なんと魔導力500だぜ!」
ドドーンと効果音が聞こえてきそうな勢いだ。
「私の魔導力は100万以上です。」
「は?」
「いや、なんでもない。」
(つい言いたくなってしまったんだ。53万じゃなかったのが残念だけどな!)
「まぁそれはいいとして、500か…。」
(たしかアニーさんが魔導力120くらいだったはず。でも火球1発が限界だったなぁ。)
「んー、陣なしだと火球4,5発撃ったらガス欠かな…」
「はああ?火球なんて火属性の初歩の魔導術だろ!?」
「まぁ落ち着けって、今説明するから」
鼻息荒くして再び詰め寄って来かねないユリアンを落ち着かせ、ウォルフは説明を始める。
「いいか?陣なしの魔導術は陣ありの魔導術に比べて魔導力の消費が激しい。それは本来魔導力に特性や方向性を与える陣の役割を、魔導力自体にやらせているからだ。つまり力技なんだよ。」
実際にはもっと効率良く少ない魔導力で術を発現できる方法があるのだが、この方法は異世界から転生してきたウォルフ以外は使えないでいた。
それにウォルフの独自のやり方は、単純に現象を起こすという意味では非常に優秀な方法であったが、例えば火に形を持たせる等の応用を行おうとすると、時間がかかってしまうという欠点があった。
「詠唱を省略して、陣の形成も省略してるんだ。魔力の消耗が増えるだけで済むなら儲け物じゃないか?」
「そりゃあそうだけどさぁ…」
「まぁ魔導力なんて鍛えれば伸びるんだ。もしユリアンが本気で陣なしの魔導術を使いたいと言うなら、僕が鍛えてあげるけど?」
「うーん…ちなみに君の周りの麗しい女性たちは、それを使えるのか?」
「いや、実際に使えるのはシルフィーナ…赤い髪の子だけだよ。他の子はまだこのことは話してすらいないよ。」
それを聞くと、ユリアンは何か考え込むように黙り込む。
「どうした?」
「………いや、ちなみにその子の魔導力は?」
「8000って言ってたよ。」
「はっ…!?えっ…?」
絶句するユリアン。どうやら彼は測定は別班だったようだ。
「まぁ彼女は僕と物心ついた頃から一緒に鍛錬してるからね。ちょっと人より魔導力が高いみたいだ。」
肩を竦めて軽く言うウォルフに、ユリアンは探るような、それでいて何かを期待する様な視線を向けてくる。
「ちょっとってもんじゃないだろ…ちなみにウォルフの言う通り鍛錬を積めば、俺も
そこまで魔導力が高くなるか…?」
「ん?まぁ普通にしてるよりは高くなると思うよ。」
「そうか…よし!ウォルフ、俺のことも鍛えてくれ!やっぱり詠唱も陣もないのは魅力的だよ!」
決意の籠った瞳をキラキラさせるルームメイトに、好意を覚え、ウォルフは本心からの笑顔でその願いに応えた。
「それじゃ今夜から始めようか。その前に部屋を片付けて夕飯にしよう。その時に皆にも紹介するよ。」
窓の外を見ると、ちょうど荷物が届いたようで、寮内へと次々に運び込まれているのであった。
~幕間~
フィーナ「そう言えば同室はどうだった?」
マリア「んー、まぁ良い子そうよ。」
ラナ「それは良かったです。」
マリア「あんた達も仲良くしなさいよ?」
フィーナ「取り敢えずラナが荷物を片付けてくれれば仲良くできそうよ?」
ラナ「うう~、頑張りますぅ…」
――――――――――――――――――――
ラナは片付けが苦手な子です。
マリアのルームメイトはいずれ、出てくる…かも。
読んで下さってありがとうございます。