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この美しくも過酷な世界の中で  作者: た~りぃ
第二章 学術院編
17/22

016話 エルフ娘に出会いました

サブタイトル考えるのって難しいですね…。


さぁ入学式です。


入学式って暇でしたよね。

私も校歌斉唱以外は大抵寝てました。

入学式会場の中に入ると、そこには新入生が溢れ返っていた。


ウォルフとシルフィーナは自分の座る席を探すために視線を巡らす。


すると自分たちに向けて手を振る生徒がいることに気づいた。


「お~い!フィーナ!ウォルフ君!こっちこっち~!」


「あっ、マリアだ!お~い!」


「フィーナ、そんなに急いで転ぶなよ?」


マリアという女生徒に手を振り返して、そちらに駆け寄るフィーナと、歩み寄るウォルフ。




ショートボブの桃色の髪に、くりくりしたこげ茶色の瞳、そばかすがチャームポイントのその娘はマリア=シレリー=チャンドラという。


黒狼騎士団団長、アントニオ=レミ=チャンドラの一人娘である。


入学準備の為にひと月前に王都にやってきたウォルフとシルフィーナの二人はアントニオ団長の家にお世話になっていた。


さばさばした性格のマリアは二人ともすぐに意気投合し、特にシルフィーナとは親友と言って差し支えない程仲良くなっていた。





「もう、二人ともどこ行ってたの?門まで一緒だったのに。」


「ウォルフがはしゃいで色んなところに行っちゃうんだもん。」


「ごめんごめん。でも面白そうな物が沢山あると思ったら居ても立っても居られなくなっちゃってさ。」


「今日からここの生徒なんだから、いつでも見に行けるのに。」


「まぁウォルフ君らしいけどね。」




このひと月でマリアもウォルフの性格を多少理解していた。


ウォルフという少年は自分が興味を持った物に関して、それを知る事に一切躊躇することがなかった。


まるでの水を吸い込む乾いた砂地の様に、貪欲に知識を吸収しようとする。


知らないという事が彼には許せないのだろう。


ちょっとその姿勢に圧倒されてしまうことはあるが、基本的には聡明で人当たりの良い少年だった。




「あ、そうそう。さっき王女様と愉快な仲間たちを見かけたよ。」


「え?リリーを?」


「なんか喧嘩売ってきたから、ウォルフがおしおきしといたわ。」


「お、おしおきって…?」


何やら汗をかきながらウォルフを見つめるマリア。


「いや、ちょっと脅かしただけだよ。愉快な仲間たちの方はちょっと撫でといたけど。」


「あれにはすっきりしたわ~。」


「生徒同士とはいえ、王族に手を出しちゃ不味いんじゃ…」


「んー、まぁそん時はそん時だよ。」


(国がファーナム家を潰そうするなら、こっちもそれなりの対応を取らしてもらうしな。)


相手が国だろうとファーナム家に敵対するのなら容赦はしない。


全力を以て相手をしてやろうと、ウォルフは不遜な考えに黒い笑みを浮かべるのであった。


「ま、まぁリリーが御無事ならそれでいいわ。取り巻きの連中も生きてるなら問題ないでしょ。」


「何だ、マリア。呼び捨てなんかして、随分と王女様と親しそうじゃないか?」


「あぁ、ウォルフ君にはまだ話してなかったっけ。実はね…」


「あー、これより双陽暦482年、王立フラミティス学術院入学式を開会します。」


マリアが何かを言いかけた時、壇上に教師が上り、式の開会を宣言した。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――








(どこの世界でも、こういう式での教師の話というのは退屈なんだなぁ)


ウォルフは欠伸を噛み殺しながら、目だけで周囲を見回す。


自分の右隣にはシルフィーナ、その更に隣にはマリアが、何とも真面目な顔つきで教師の話を聞いている。


左を見てみると、(ひわ)色の長い髪の少女が俯き、船を漕いでいる。


まぁ退屈な式だし、居眠りも仕方ないだろう。かく言うウォルフも前世ではこういった式では大抵寝ていた。


と、そこでウォルフはその少女の耳が尖っていることに気がついた。


(こ、こ、これは………まさかエルフ!?)


元オタク青年としては、その存在を実際に見ることが出来ただけでも、この世界に転生してきて良かったと思う。


エルフと言えば、人間離れした美貌である。これは絶対に見ておかなければ!


(御顔を拝見、っと……髪に隠れてよく見えないな。)


ウォルフは顔を覗こうとするが、長い髪が垂れていてその御尊顔を見る事が出来ない。


(くっ、どうする…!考えろ、ウォルフ=ライガルド…!今この場での最善の策は何だ…!


指で髪をかき上げる?論外だ!絶対周囲に気づかれて目立ってしまう!それにフィーナに見つかったら厄介な事になりかねん!


いっそ彼女を起こしてこちらを向いてもらうか?いやっ、こっそり見るからこそ楽しいのではないか!)


いつの間にやら目的が若干変わってきていることにウォルフは気付かない。


(何か手を触れず、それでいて彼女を起こさずに顔を見る手段はないのか…!くそっ、そんな魔法みたいな…魔法…)


そこまで考え、ウォルフは自分の力に思い当たる。


(そうだ!魔導術があるじゃないか!髪を靡かせるだけの風量の魔導術が!よし、それくらいなら発現時の魔導力をフィーナに感づかれることもあるまい!)


「……微風ブリーズ


周囲に気づかれないよう、小声で慎重に魔導術を発現する。勿論陣など紡がない。


ウォルフの意思に従い、魔導力はそよ風を巻き起こし、少女の髪を靡かせた。


「これは………!」


その顔にウォルフの顔に驚愕の表情が浮かぶ。




顕わになった少女の顔は確かに美しかった。


幼くしてファンタジー小説の王道を行く美貌に、キラキラと輝く神秘的な雰囲気を持つ彼女に、普通の人間は圧倒されることだろう。


しかし、にやけた口から垂れる涎がその全てを台無しにしていた。


なまじ整った容姿をしていると、だらしない表情をした時の残念さが増すのだ。




「だがそれもよし!」


「なーにが、よし!なのかしら?」


小さなガッツポーズをしたウォルフに、逆隣から声がかかる。


とても不吉な響きだ。


冷や汗をかきながら声の方向に目を向けると、そこには半眼でこちらを睨みつけているシルフィーナがいた。


「いや、ちょっと考え事しててさ…」


「ふぅーん、それってその女の子のことかしら?」


「いやっ、そんなことは…」


「じゃあ何を考えていたのかしら?」


「えっ、ほっ、ほら、今日はいい天気だなぁと…」


「そうねぇ、何故かその子の所だけそよ風が吹いてたわねぇ。窓は閉め切ってあるのにどこから風が入って来たのかしらねぇ。」


「うぐっ…」


(くそっ、策士策に溺れたか…!)


「まぁいいわ。その辺りはあとでしっかりと話を聞かせてもらうからね。」


「………はい。」


小声でそんなやり取りをし終えると、フィーナは教師の話を聞く為に前を向き、ウォルフは不貞寝を決め込み目を閉じるのであった。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――








「こらっ!ウォルフ!起きなさい!」


「あたっ」


ウォルフは、頭に衝撃を受けて強制的に覚醒させられた。


「まったく、一生で一度しかない初等部の入学式なのに、ずっと寝ているなんて!」


「まぁまぁ、フィーナもその辺で。」


怒り狂うシルフィーナと、それを宥めるマリア。


周囲を見回すと、既に式が終わってから時が経ったようで、会場となった大講堂には2割程しか生徒は残っていなかった。


「ふあ~あ…いやー、でもあれは眠すぎでしょ。それに、どうせ僕が寝ている間に言われたことなんて、これからの学生生活浮かれず気を引き締めていきましょうとか、そんなとこでしょ?」


「何で寝てたのにわかるのよ…」


ウォルフは前世の経験から、大体の話の内容を推測しただけなのだが、シルフィーナはそんな事情など知らない。


「勘、かな。」


納得しないシルフィーナに笑顔を向けてごまかし、周囲を見回す。




隣を見るとエルフの少女はまだ寝ていた。


「おーい、もう入学式は終わりましたよ~?」


「ウォルフ君がそれを言う?」


少女を起こすウォルフに、マリアが笑いながらつっこむ。


「ん、んん~…」


「お、起きたな。」


少女が目を開ける。その瞳はセルリアンブルー。まだ眠気が抜けきらないその瞳を覗きこんで、ウォルフは少女に声をかける。


「おはよう。目が覚めたかい?」


「ふぇ?あ、あのっ、お、おはようございます!」


それに驚きながらも、律儀に挨拶を返してくる。


「僕はウォルフ=ライガルド、君と同じ新入生だよ。よろしく。」


「あっ、私はラナキュリア=アネモスと言います。ラナって呼んで下さい。よろしくお願いします。」


ウォルフは手を差し出し、ラナキュリアはその手を取り立ち上がる。


それを見てシルフィーナが慌てたように会話に入ってくる。


「ちょっ!何手ぇつないでるのよ!」


「いや、立たせてあげただけじゃない…?」


突然割って入ってきたシルフィーナにラナキュリアは怯えたような目を向ける。


流石にマリアがフィーナを止め、叱責する。


「フィーナ、一体どうしたの?いつもの貴女らしくない!ごめんなさいね、私はマリア=シレリー=チャンドラ。よろしくね。」


「よ、よろしくお願いします。」


友好的な態度のマリアに安心したのか、ラナキュリアは幾分目に安堵の感情を浮かべ、握手を交わす。


「あと、涎、拭いた方がいいわよ?」


マリアに小声で囁かれ、ラナキュリアは顔を真っ赤にして口周りを拭う。


「で、こっちの理由はわからないけど怒り狂っているのが…」


「……シルフィーナ=エリデ=ファーナムよ。」


未だ不機嫌なシルフィーナだったが、何とか挨拶を交わす程度には落ち着いたらしい。




自己紹介も終わったところで、ウォルフは兼ねてから疑問だったことを聞く。


「ラナは、エルフなの?」


「はい。正確にはエルフと人間の混血ですけど。」


「えっ、まさかハーフエルフなの?」


その答えにマリアが驚き、シルフィーナも目を丸くしている。


「いえ、母がエルフで、父がハーフエルフなので、ほとんどエルフみたいなものです。」






エルフとは精霊を祖に持つ一族のことだ。


双陽暦が始まる遥か以前に発祥したその一族は、精霊の持つ力を受け継いでいる。


高い魔導力と寿命を持つ彼らは、その力を狙われる事が多く、それを避ける為人里から離れて暮らしていた。


稀に人間と交わり子孫を残す者がいるが、亜人と人間との間に子は出来にくく、ハーフとなると一生に一人お目にかかれるかどうか、というくらい希少な存在だった。






「そういや、エルフって実年齢と見た目年齢って合わないんだろ?」


「まぁ、大体そうね。実年齢に比べて見た目年齢が遙かに若いわ。」


「じゃあさ、ラナも…その…」


「あ、私はちゃんと9歳ですよ。」


ウォルフの疑問にラナキュリアは笑顔で答える。


「エルフは大体16,7くらいまでは、人間と同じくらいの速さで成長するんです。そこからは体の成長が緩やかになります。」


(二次性徴が終わるくらいまでは成長スピードは変わらないってことか。)


ウォルフはラナキュリアをじっと見つめて、彼女の将来像を思い浮かべる。


(うん、今も9歳という年齢にしては破格のスタイルだし、これは大人になったら凄いことになりそうだ。)


そんなウォルフの視線に気づいたのかラナキュリアは自分の体を抱え、マリアの陰に隠れる。


「あの…?」


「こらっ!ウォルフ!いやらしい目で見ないの!」


それを見てシルフィーナがウォルフに食ってかかる。


「い、いや、そんなつもりは…」


「そういや、さっきもその子の事を…」


「あーっと、そうだマリア!今日はあと何をしなきゃいけなかったんだっけ!?」


「えっ?んーと、あとは教室発表と身体測定、魔導力測定、寮の部屋発表かな。」


「よし!急いで行こう!すぐに行こう!」


「あっ!こら、ウォルフ!逃げるなっ!」


危険を察知して可及的速やかに撤退行動に移るウォルフと、それを追いかけるシルフィーナ。


そんな二人を見て苦笑しながら、マリアとラナキュリアは後に続くのであった。

~幕間~


ラナ「そういえば、シルフィーナさんとマリアさん、どちらがウォルフさんと付き合ってるんですか?」


マリア「へっ?い、いきなり何を!?」


ラナ「だって、ウォルフさんかっこいいし、お二人は美人ですし…」


マリア「つつつ、付き合ってなんかいないわ!そ、それに私たちはまだ子どもよ?」


ラナ「恋する乙女に子どもも大人もありませんよ!」


マリア「………それ、誰かの受け売り…?」


ラナ「お母様が言っていました!」


マリア「あ、そう…(フィーナ2号がこんなところにいたわ…)」


――――――――――――――――――――


エルフ娘のラナちゃんもよく訓練された乙女でした。


マリアは騎士団団長の娘として、かなり教育が行き届いた良い子です。


常識人なのでシルフィーナとウォルフに振り回される運命にあります。




人物が増えてきてどれが誰のセリフかわかりにくくなってきました。


呼び方でわけようとはしていますが、書き方が下手で申し訳ありません。


ウォルフ→「フィーナ」「マリア」「ラナ」


シルフィーナ→「ウォルフ」「マリア」「ラナ」


マリア→「ウォルフ君」「フィーナ」「ラナ」


ラナ→「ウォルフさん」「シルフィーナさん」「マリアさん」


こんな感じです。参考程度に。



ちなみに鶸色とは薄い黄緑色です。R184G242B140くらいの色を指します。


気になる人はペイントエディタ等で見てみて下さい。




読んで下さってありがとうございます。


10/14修正

×ケーナ → ○マリア

ケーナとはマリアの初期設定時の名前だったりします。

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