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この美しくも過酷な世界の中で  作者: た~りぃ
第二章 学術院編
16/22

015話 おしおきしました

日間ランキング1位…だと…?


もうびっくりしすぎて何が何だか状態です。


応援、評価ともにありがとうございます!






ブチ切れウォルフくん、大暴れの巻。

最初にウォルフの変化に気づいたのは王女の背後にいた体格の良い少年だった。


「貴様、何がおかしいんだ?」


笑顔の少年に対して問いかけるが、馬鹿にしたような目をしたまま嗤い、問いかけに答えない。


「おい、何とか言ったらどうなんだ!」


体格の良い少年は、無言のままのウォルフに苛立ち、その肩を掴もうと近寄る。


「おい、やめないか!」


「うるせぇ!腰抜けの息子は黙っていろ!」


手を出そうとした事に見かねたのか、割って入ってきたラディスを突き飛ばす。


その瞬間、空気が変わった。





―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――








いくらウォルフが転生ボーナスを得たチーターでも、まだ乳離れも出来ない赤子では何もできない。


前世ではオタクということで実家では肩身の狭い思いをし、今世では両親は仕事で長く家を開け、一緒に暮らした期間など最初の1年程で、転生してからのほとんどの時間をファーナム家で過ごしてきた。


自分を護り、育ててくれたファーナム家の人々は、ウォルフにとって恩人であり家族であった。


彼らがいたから今のウォルフがいる。彼らがいなければ今のウォルフはいなかった。


それ故、自分の存在を護り続けてくれた彼らに仇なす存在を、ウォルフは許さない。






「ファーナムって、あの『腰抜け』ファーナム?」




その言葉を聞いた瞬間、ウォルフは我知らず嗤っていた。


『腰抜け』だと?


王女だか何だか知らんが、よくもまぁ相手を知らぬままそんな呼び方ができるものだ。


これが相手が下級貴族なら即おしおきだ。だが相手は王家。


今、力で王家に楯突けば、ファーナム家に迷惑をかける可能性は高い。


いずれ「平和的手段」で無知な王女には思い知ってもらうとして、今は適当にやり過ごすか、とウォルフは笑顔を崩さずに決定した。






「うるせぇ!腰抜けの息子は黙っていろ!」




だが目の前でラディスが体格の良い少年に突き飛ばされる。


それを目にした瞬間、ウォルフの頭から「やり過ごす」という選択肢が消え去った。


(先に手を出したのはあっちだ。大義名分は得たよな。)


ラディスに手を出したガキは当然の事、ついでに手下の不始末はボスである王女にも責任を取ってもらうとしよう。


ウォルフは顔に凶悪な笑みを貼り付かせたまま、一歩踏み出した。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――







(な、なんなのよ…こいつ…?)


剣の国の王女、リリー=イルヴァ=シュバルトは銀髪の美少年を見て総毛立った。


目の前の少年は表情こそ先程と同じく笑顔であるが、その目が全く別の感情を湛えているのは火を見るよりも明らかだ。




伊達に王族として生まれ育ち、この学術院に3年間通っていた訳ではない。


それなりに相手を見る目はあると、彼女は自分を評価していた。


自分に媚び諂う者、反抗する者、慕ってくる者。


王族として、学術院に通う者として、多くの人間を見てきた彼女には、相手の目を見ればどういう人間であるか判断できるだけの経験があった。


その経験から言うと、銀髪の少年は「自分に興味を持たない者」であった。


他人が他人に対してその目を向けるのは幾度となく見ていた。


だがまさか自分がその目を向けられるとは。


彼にとって彼女はまさしく路傍の石程度の価値しかもっていないと理解した時、彼女は自分でも意外だったが、動揺した。


自分に興味を持たない少年に思わずむきになってしまった。


普段なら絶対に言わない事を次々と口にしていた。


金や物で人を釣るなど、高貴な身分を持つ人間として最も恥ずべき行為の一つだ。


なのに自分で自分を止められない。


目の前の少年を振り向かせたい。


自分の中の初めての感情に、彼女自身戸惑っていた。




ファーナム家の長子と名乗った中等部の少年が事態収めようと割って入って来たことは、彼女を少しだけ冷静にした。


しかし再び銀髪の少年が自分の存在を無視したことに、彼女は自分の感情を制御できなかった。


貴族らしく、礼儀正しい挨拶と謝罪に、思わず他の貴族たちが呼ぶファーナム男爵の「あだ名」を呟いてしまった。


その瞬間、銀髪の少年が自分の事を軽蔑したことは理解した。


そこで終わっていればよかったのだ。


だが現実には、公爵子息がファーナム男爵子息を突き飛ばしたことで事態は最悪になった。


今、彼女らは人生で最大の危機に曝されている。




周囲の少年少女らは相手の異様な雰囲気に気づかないのか。


公爵子息なんて、剣を抜こうとしている。


(バカ!そんなの抜いたらこっちが殺されるわ…!)


彼女は近寄ってくる「人の形をした何か」を見る。


最早「それ」が纏っているのは、圧倒的な死の気配。


彼女は自分たちが魔獣の尾を踏むどころか、竜の逆鱗に触れてしまったのだということを理解した。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――







淀みなく歩を進めるウォルフの前に、王女一行の中でも一際体格の良い少年が立ちはだかる。


「貴様っ!それ以上リリー様に近づくな!近づくと言うならば、この俺、アラン=ヤニ=ファルバウティ侯爵が長子、テレンス=ウォルト=ファルバウティが成敗してくれる!」


そう言い放つと、腰に佩いていた剣を抜く。


相手がただの新入生なら、その行為だけで敵意を挫かれてしまうだろう。


だが、不幸にも相手は「ただの」新入生ではなかった。


進路を塞いだつもりのテレンスだが、不幸にも自分がおしおきの第一目標だということには気づいていなかった。


「大気のエアハンマー


ウォルフが呟いた瞬間、テレンスは地べたに這いつくばった。




無詠唱の魔導術に、周囲が色めき立つ。


「おい、今あいつ詠唱なしで導術を使わなかったか?」


「あぁ、大気のエアハンマーってそんな簡単な導術じゃないよな?」


「今あの子の導術に陣あった?」


「速過ぎて見えなかったわ!」


そんな中、周囲とは違う意味で興奮している二人がいた。


「やったぁ!さっすが私のウォルフ!やっちゃえー!」


「あーもう!あんだけ大人しくしてろって言ったのに!」


勿論シルフィーナとラディスだ。


シルフィーナは這いつくばったテレンスの姿に溜飲を下げ、ラディスは髪を掻き毟って天を仰ぐ。




「ぐ、ぐぐぐ…」


剣を杖代わりにテレンスはなんとか立ち上がり、仲間の少年少女に声をかける。


「おいっ!お前らも見てないで手伝え!」


しかし、ウォルフの一撃に完全に腰が引けてしまっている。


「お前らっ!リリー様の御前で無様な真似を晒すのか!?」


その言葉に、及び腰であった彼らの目に闘志が宿る。


「『汝、我が呼声に応え、我が敵を斬り裂け』!風刃ウインドカッター!」


「『汝、我が呼声に応え、我が敵を燃やし尽くせ』!火球ファイヤーボール!」


二人の少女が詠唱を唱え、陣を紡ぐ。


初級魔導術とはいえ、その発現速度は驚嘆に値する。


だが、相手が悪かった。


「邪魔だ」


ウォルフは魔導力を体に纏うだけでその導術を弾く。


「うそでしょ!?」


「……は?」


術者の二人が呆ける。


立ち尽くすその二人を一瞥して、更に歩を進めるウォルフ。




「はあああぁぁっ!」


「てえええぇいっ!」


槍を両手で構えた少年と短剣を両手に構えた少女が同時に飛び掛かる。


両者とも十分に疾く、それでいて連携の取れた攻撃だった。


その攻撃は見習い騎士程度なら十分に倒せる物だった。


だが(以下略。


「だから邪魔だと言っているだろう?」


ウォルフは面倒臭そうに言うと、再び無詠唱で魔導術を発動する。


「炎のファイヤーストーム


立ち昇る2本の炎の竜巻に、二人の少年少女は飲み込まれる。


竜巻が消えると煤けて黒くなった二人が気絶していた。


どうやら十分に手加減はされていたようだ。




あっという間に4人の仲間を突破され、テレンスは再びウォルフと相見える。


「くっ、何なんだお前はああああ!?」


テレンスは剣を振りかぶり、横薙ぎに振るう。


ウォルフは胴を両断せんと襲いかかるその剣を無造作に掴むと、手首を回すだけでへし折る。


折れた剣を泣き笑いの様な表情で見つめたテレンスは、腹に強烈な衝撃を受け、意識を彼方へと飛ばしかける。


だが同年代の中でも飛びぬけた体格と、鍛えられたその体のお陰で、辛うじて意識が繋ぎ止められてしまっていた。


そして華麗なアッパーカットを喰らい、顎を砕かれた痛みと衝撃をしっかりと感じ、今度こそ意識を失った。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――








糸の切れた操り人形のように崩れ落ちるテレンスを呆然と見つめて、リリーは青ざめる。


まさか公爵子息――テレンスほど痛めつけられることはないだろう。


それでも「無事」とは言えないくらいまで叩きのめされる可能性は捨てきれない。。


「わっ、私をどうするつもり!?」


「なぁに、ちょっと先程の御自身の発言がどういった事態を引き起こすのか、理解して頂こうかと思いまして。」


「ひっ!」


にこやかに不吉な事を言うウォルフに、悲鳴を上げるリリー。


「さて、と。どうしてくれようか…」


「あ…ああ……」


「ウォルフ、その辺にしておきな。」


今にもリリーに手を掛けようとしたウォルフは、その声に手を止める。


「もう十分だ。それ以上はやりすぎだよ。第一王女の言葉は皆が知っているし、我が家としても表立って否定はしていないしね。」


「ラディス兄さん…」


「ですが姫様も、今後は先程の様な発言はお控え頂きたいと思います。否定こそしていませんが、面白くないのも事実ですので。」


ラディスの言葉に、壊れた様に首を縦に振るリリー。


「それに、もう入学式が始まるよ。せっかくの晴れの舞台をふいにすると、父様も母様も悲しむ。」


「……それもそうですね。」


伸ばしていた手を下ろし、ウォルフはリリーを見下ろす。


先程までの激情は鳴りを潜め、再び路傍の石を見つめるような視線を向ける。


「さて、姫様もそんなところでゆっくりされていては、式に出損ないますよ?」


「………。」


その視線から目を逸らすことが出来ず、リリーはウォルフを見上げたまま微動だにしない。


そんなリリーの様子に、ウォルフは肩を竦め、シルフィーナと共に入学式会場へ向かうのであった。

~幕間~


シルフィーナ「あー!すっきりした!さすが私のウォルフ!」


ウォルフ「いつから僕はフィーナの物になったんだ?」


シルフィーナ「そんなの私に出会った瞬間からよ!ウォルフは私の物!私はあなたの物よ!」


ウォルフ「はぁ…(これじゃ王女と大差ないなぁ)」


ラディス「母様、あなたはフィーナに何を教えているんですか…」


――――――――――――――――――――


暴走フィーナちゃん。もちろん仕込みはメヒティルトさんです。


可愛くて自分にぞっこんな幼馴染がいるというのに女の子に、モテたい願望が捨てられないウォルフくんでした。




王女の取り巻きの出自は侯爵家が2人(テレンスと火球ファイヤーボール)、公爵家が1人(短剣)、伯爵家が2人(風刃ウインドカッターと槍)。


全員幼年部から学術院に通ってます。身分ではなく純粋にリリーの人柄に惹かれて集まっています。


幼年部では最強の名を欲しい侭にした5人ですが、ウォルフくんの前には赤子も同然でしたとさ。




読んで下さってありがとうございます。


2012/09/15修正

×アラン=ヤニ=ファルバウティ公爵が長子 → ○アラン=ヤニ=ファルバウティ侯爵が長子


×テレンスは髪を掻き毟って天を仰ぐ。 → ○ラディスは髪を掻き毟って天を仰ぐ。

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