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この美しくも過酷な世界の中で  作者: た~りぃ
第一章 幼年編
11/22

010話 対面しました

登場人物が増えてきましたが、人物紹介やら設定等は1章が終わった段階でまとめようと思います。

視線が痛い―――。


それらは様々な感情を含んでいた。


好奇。畏怖。敬意。嫉妬。疑惑。etc...




正直他人の視線と言うのには慣れていない。


前世では目立たないただの一般人だったし、今世でも貴族の家に御厄介になってるとはいえ、身分は平民である。


だから自分が周囲から注目されているという経験は、前世24年+今世5年合わせても皆無だった。




(どうしてこうなった…!)




ウォルフはファーナム家屋敷の広間中央で、自分の置かれた状況に嘆息を漏らすのであった。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――







事は3日前に遡る。


ファーナム領に《貫くもの》パルラーク現る―――


その報せは即座に王都へと送られ、王都は即座に騎士団の派遣を決定した。




《貫くもの》パルラーク。


彼の魔獣には、魔導力の籠められていない剣では毛一本斬ることもできず、魔導術師が束になって放つ戦略級魔導術を以てしても、一撃で倒すことは敵わない。


剣の国クレディフ御自慢の、200人からなる騎士中隊と、50人からなる魔導術師小隊を派遣して、初めて確実に仕留められるという正真正銘の化け物である。




そんな魔獣が国土を闊歩し、暴虐の限りを尽くしたらどうなるか。


貴族領が一つ二つ消えるのは仕方がない。最悪の場合国が滅ぶ。


それを避ける為に、クレディフでは何時如何なる時も即座に派遣できるよう、対魔獣戦闘を得手とする騎士団が待機している。




黒狼騎士団。

クレディフ全騎士の中から選出された200人は個々の戦闘力の高さは勿論のこと、統率力も高く集団での戦闘力も王国一。

中隊規模で二つ名付きの魔獣を数多く倒して来たその実績は、他国にも広く知れ渡っている。




そしてこの度、ファーナム領にも黒狼騎士団の派遣が決定したのである。








―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――







黒狼騎士団団長、アントニオ=レミ=チャンドラは不機嫌だった。


二つ名付きの魔獣が出現したとの報せを持った使者が転移テレポートによって王都に辿り着いたのが3日前。


それから転移テレポートの魔導術を用いてこの村に着いたのが、その2時間後。


今までの経験から見てもかなりの早さでここまで来れている。


2時間という時間は村の1つが壊滅するのには十分な時間だ。


だがその村の近くにはファーナム男爵が居を構えていた。


ファーナム男爵は優れた魔導術師である。


クレディフの貴族の大半は剣の腕に劣るファーナム男爵を軽んじていた。


だがアントニオは彼の実力を正しく理解している。


彼がいるならば倒すことは無理でも、2時間持ちこたえさせることも可能だろう。


ならば一刻も早く彼と合流し、魔獣を殲滅するのが我らが黒狼騎士団に与えられた責務である。






「一体なんの冗談だっ!!」




若い騎士が怒声と共に椅子を蹴りあげる。


彼は若手騎士の中でも能力が高く、次期幹部候補として様々な場所に連れて来ている。


今この場、ファーナム屋敷の一室にいるのは騎士団団長であるアントニオ、騎士団副団長、黒狼騎士団各小隊長、そして先ほど怒声を挙げた若騎士の7人がいた。


声にこそ出していないが、他の騎士たちも老若男女関わらず表情や雰囲気で同意を表わしている。




「我々はからかわれたのか!?誇り高き黒狼騎士団がっ!」


頭に血が上りすぎているのか、今にも貴族に対する暴言を声高に叫びだしそうな若い騎士をアントニオは諌めた。


「その辺にしておけ。それにファーナム男爵がそんなことをして何の益がある?」


「しかし団長!いくらなんでも5歳児一人でっていうのは冗談が過ぎます!」


「そんなことは、私もわかっている。」




アントニオだって面白くないのだ。


勇み馳せ参じて見てみれば、既に魔獣は倒された後。


肩透かしを食ってしまったのは癪に障るが、男爵が倒したというのであれば何も問題はない。




だが、男爵が黒狼騎士団幹部に言った言葉にアントニオは自分の耳を疑った。




「5歳の少年が一人でパルラークを倒した。」




思わずその場で聞き返してしまった。


たしかにファーナム男爵は気さくな方だという評判だが、わざわざ人払いをしてまで冗談を言う必要はない。




しかしそれが真実であったとして、我々に伝えた意図は何だ。


少年の身の安全を考えるならば、その情報は隠しておくべきだが…。


何にせよ情報が足りなさすぎる。ここで悩んでもしょうがないことだ。




「明日、件の少年を紹介して下さるそうだ。すべての判断はそれが済んでからでもいいだろう?」


「どんな判断になるかわかりませんがね」


いきり立つ団員に苦笑を洩らしつつ、アントニオは自室に戻るのであった。






―――――――――――――――


―――――――――――


―――――――






「さて、本日集まって頂いたのは此度のパルラーク襲撃に関して話しておきたい事があってな。」


グレン様がそう言うと、全員の目がウォルフに集まる。


(うう…視線が痛い…)


グレン様からは好奇の視線、セバスさんからは好奇と敬意、アリーさんからも好奇と敬意と…あとよくわからん視線。


そっちはまぁ、いい。だが他の面子からの視線は頂けない。


好奇の視線はまだいい。畏怖されるのも、あの魔獣――パルラークと言ったか――の事を知った今では理解できる。


だが、敵意の視線はどうにも慣れそうにない。特に一番若そうな騎士からは「殺す」と言わんばかりの視線を頂いてる。


(どうしてこうなった…!)


いや、原因はわかっている。やり過ぎたのだ。

ちょっと自分の力に浮かれてはしゃぎ過ぎたツケが今の状況に違いない。


(あー、やだやだ。今度からもっと自重しよう、そうしよう。)




「さて、ところでウォルフ?」


「は、はい!」


グレン様から名前を呼ばれ、意識を外に向ける。


「緊張しなくても、いつも通りで良い。此度の事は私も興味があってな。ウォルフの口からどうやってパルラークを退治したか教えてもらえるかい?」


「はい、えーと…」


(治癒の事はセバスさんから黙っておくように言われてるし、戦闘に関してはどこまで話すか…)


黙って考え込んでいるウォルフに対し、騎士団団長と名乗ったアントニオ団長が声をかけてくる。


「ウォルフ=ライガルド君、我々も大体のところは聞き及んでいる。何でも、『殴って燃やして、また殴って』倒したそうじゃないか。」


「はぁ…まぁ…」


「その辺り、私も聞かせてもらいたいね」


「えぇと…」


「貴様っ!団長が話せとおっしゃっているのだ!はっきりと話さんかっ!」


「エリック!!」


「「ひぃ!」」


エリックと呼ばれた若騎士がウォルフに怒鳴りつけると、それを更に超える大音量でアントニオ団長がエリックさんを叱り飛ばす。


その迫力が凄すぎてウォルフもエリックも悲鳴を上げてしまった。


「エリック!貴様、まだ幼い子どもに対して何たる態度か!」


「え、あの、たいちょ…」


「我等は騎士だぞ!弱き者を助ける存在である我らが幼子に怒鳴りつけるなど言語道断!」


「し、しかし…」


「もう良い、貴様は外へ出ておれ!」


「了解しました…」


アントニオ団長に叱られ、エリックさんはすごすごと広間から出て行く。


肩を落として、一回り小さくなったように見えるエリックさんに、ウォルフはちょっと同情してしまった。





「……ウォルフ君、うちの若いのが大変失礼をした。申し訳ない。」


「いえ、僕がはっきりとしなかったせいですし…」


互いに恐縮し合う大人と(見た目は)子ども。


それを見てグレン様が場を仕切りなおす。


「さて、静かになったことだし、説明を頂けるかな?」


「ええと、基本的にはさっきアントニオ団長が話した通りなんですが。」


「『殴って燃やして、また殴って』か。それをどうやったのかを知りたいのだが…」


「あぁ、まず拳に魔導力を籠めて『殴って』、爆炎球エクスフレアボールで『燃やして』、脚に魔導力を籠めて音速超えるまで加速して『殴った』んです。」


事も無げに言うウォルフに、騎士団の面々は信じられないという目でこちらを見てくる。


「ええと、今爆炎球エクスフレアボールって言った?」


「えぇ、牽制に100発ほど」


「けっ、ひゃっ、ええっ!?」


騎士団小隊長の女性がウォルフの答えに目を白黒させる。


「信じられん…!」


「まぁ、僕まだ5歳ですからねぇ…」


「君がまだ5歳という事実を、私はまだ信じられんよ…」


「「「「「「「「「「ははは……」」」」」」」」」」


アントニオの言葉に乾いた笑いが広間に響く。




「しかし、いくらここで言葉にしても、中々信じられない者も多いだろう。」


グレン様の言葉に、ウォルフは凄く嫌な予感がした。


「そこで、だ」


続くいい笑顔に、ウォルフはすべてを諦めた。


「ウォルフには実際にここにいる騎士の方々と手合わせをしてもらう、というのはどうだろう?」


その提案に騎士達は望むところと、ウォルフはもう好きにしてくださいと、首肯するのであった。

次回、対人戦でチート能力発揮します。




読んで下さってありがとうございます。

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