愛してやまん
悠斗くんへ
お元気ですか?
私は元気です。
今日は、かみの毛を引っ張ってごめんなさい。
昨日は、頭をたたいてごめんなさい。
おとついは、消しごむに落書きしてごめんなさい。
その前は、エンピツを折ってごめんなさい。
その前の前は、おぼえとらんけどごめんなさい。
いつもいじわるして、ごめんなさい。
でもわたしは、悠斗くんのことが好きです。
果穂より
家で何度も何度も書き直したラブレターは、無事に悠斗くんの手に渡った。
その後、顔をあわせるのが恥ずかしくて逃げまわっていた私をとっ捕まえ、
「俺ら友達やん」
と彼は言い放った。
卒業直前の小6の冬だった。
下校時間の30分前、パソコンを切り図書室を出た。
職員室に鍵を返しに行き、下駄箱に向かう。
帰宅部の生徒はとっくに帰っていて、大抵の生徒はまだ部活中。
この時間帯の下駄箱はひっそりとしていた。
靴を履いていると、ふと人の気配を感じて顔を上げる。
思わず漏れそうになった声を慌てて閉じ込めた。
そんな私に、悠斗くんは白い歯をちょこんと見せる。
「今帰りなん? 」
まさか話しかけられると思っていなかった私は、慌てて咳払いをする。
「図書委員の仕事、今終わったから」
「そうなんや。俺はちょっと用事あるし、抜けてきてん」
そう言ってトントンと足を打ち付け、靴を履く。
「そういやさ、噂になってんで。香坂に告られたって?」
胸が大きく鳴る。
いつか耳に入るとは思ったが、まさかその日のうちに伝わるとは思わなかった。
私はひっそりと息を吐き、小さくうなづく。
悠斗くんはそう、と呟くように言った。
そうして歩き出す。
彼の広い背中を黙って見送ると、少し行ったところでくるっと振り返り、
「俺、果穂は今でも俺のこと好きなんやと思っとった」
と言い残し、スタスタと帰って行った。
握った手の平に爪が食い込む。
さらにぎゅっと力を入れるが、いくら待っても痛みは伝わってこない。
そんなわけ、ないやん。
喋ったんも2年ぶりやし。
彼の瞳が頭から離れない。
明日、香坂くんに返事つもりやったのに。
鳴り止まない心臓の音に、苛立ちが募る。
顔が熱くなるのを感じて、慌てて両手で冷やす。
悠斗くんのアホ。
そんな見透かすような目で果穂なんて……呼ばんでよ。
1000文字小説です。
ハルはる(http://ameblo.jp/hayamirai/)の「失恋の台詞で5のお題」を使用しました。