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名機TDR250

〈人生の一日と云へ春曇り 涙次〉



【ⅰ】


* 枝垂哲平、云はずと知れた輸入バイク商である。とは云へ、髙市政権の經濟政策の拙さに諸外國は敏感に叛應し、その結果輸入業には絶對不利な圓安に齒止めが掛からない。「さて、だうしたもんかね」-枝垂、中古バイク・ディーラーを兼業する事にした。大手中古マシン商の間にあつて、だう業績を伸ばすか- 其処で枝垂、中古バイク各社の苦手とする、80〜90年代の隠れた名機を發掘する、それ専門で行かうと決め、美麗なカタログを作成、着々と準備を進めてゐた。



* 當該シリーズ第2話參照。



【ⅱ】


時軸麻之介、現在ではカンテラ一味にあつて、「番軍」監査役と云ふ、謂はゞ閑職にある。彼は、その術、*「和合空間」をカンテラに髙く評価され、「遊軍」扱ひで、嘗ての**「猫nekoふれ愛ハウス」マスター(ほんの短期間のお勤めではあつたが、多忙を極めた)職から、「番軍」監査へ移つて來たのである。有り余る時間、だう過ごさうか、杵塚春多曰く、「バイクにでも乘つたら」。丁度、カンテラ一味と近い枝垂が中古バイク販賣に踏み切つたところだつたので、杵塚、「舊車でもいぢつてゐれば、時間なんて幾らあつても足りないんぢやないか?」と云ふ。時軸、段々その氣になつて來た。



* 前シリーズ第165話參照。

** 當該シリーズ第32話參照。



【ⅲ】


時軸、枝垂のカタログの中から、ヤマハ TDR250と云ふバイクを見付け出して來た。オン/オフ兩用のマシン、著名なラリーにも出場したそのバイクは、走り屋全盛の時代にあつて、異彩を放つてゐた。枝垂が、「お目が髙い」と云ふのも、まんざらおべんちやらのみではないのである。で、時軸、そのTDR250を即購入した。とは云へ、舊車である。發賣開始から40年間もの時が過ぎてゐる。2スト(これは當時としても、ヤマハ獨自のものだつた)だけあつて、なかなかのじやじや馬で、時軸のやうなビギナーには、本來お薦め出来ないブツである。パーツもあちこち古びてゐる。杵塚の指導宜しきを得なければ、到底乘りこなす事は無理だつたらう。



※※※※


〈曇り空ちよつと惜しいなトマジューを飲みて思へりチョコ届きし日 平手みき〉



【ⅳ】


それでも、何とかライディングを樂しむ事が出來たのには、或る契機があつたのである。TDR250に跨がつた時軸の視界に、横断歩道ではないところを横断してゐる、老婆が入つて來た。慌てゝ急ブレーキを掛けたのだが、間一髪と云つたところであつた。ABSではないブレーキシステムが、スリップを引き起こしたのだ。これでは、老婆ばかりでなく時軸自身も生命が危ふい。その事をルシフェル(墓に戻つて來てゐた)に報告すると、「麻、お前らしくないの。何故『和合空間』を使はない?」-「はあ? 一體何のお話ですか-」-「儂が云ひたいのは、『和合空間』を使へば、そんな事故など未然に防ぐ事は、容易い筈だ、と云ふ事ぢや」



【ⅴ】


ルシフェルは續けた-「『和合空間』には、全ての攻撃を止めると云ふ特質がある。バイク對歩行者と云ふ関係にあつて、人身事故と云ふのは、要するにバイクが歩行者を攻撃する、と云ふ事だらう? で、『和合空間』の登場となる-」こゝ迄聴けば、時軸にも合點が行つた。「なる程! バイクに乘る前に豫め『和合空間』を發動させれば...」-「全て丸く収まる、と云ふ譯ぢや」。



【ⅵ】


以來、時軸はTDRに跨がる前、必ず呪文を唱へ、『和合空間』を展開させるよう努めた。クラッチ操作の煩はしい中、術を保持するのは骨だつたが、なるべくなら無事故でゐたい時軸には、己れの術が有難かつた。先だつても、車道に飛び出して來た猫の前で、自然にTDRは動きを止めた。「これだ!!」と時軸、思つたとか。



【ⅶ】


時軸ならぬ凡人である我々は、精々歩行者の安全の爲に、安全運轉を心掛けるしかない。また歩行者も、嘗て『笑点』の大喜利で、坐蒲團配りの松崎まことさんが云つてゐたやうに、「手を挙げて、横断歩道を渡りませう」、である。時軸は* ルシフェルへのプレゼント、金無垢の懐中時計を、お禮として墓に埋めて置いた。そんなところ。今回はバイクの話に終始したが、興味ない方にも樂しく讀めるやう、工夫を凝らした積もりである。ご笑讀頂けたゞらうか。ぢやまた。



* 前シリーズ第34話參照。



※※※※


〈寒さゆゑ二月の戀人結ぼれし 涙次〉



PS: バイクは乘る者次第で、凶器にもなる。だが、それはクルマとて同じ。このモータリゼイション社會に於いて、クルマの方が断然普及してゐるのだから、バイクの事ばかり云ふのは不自然である。バイクでは「舊車會」が槍玉に挙げられてゐるが、クルマでも「ドリフト族」と云ふのがゐるらしいではないか。世人の一考を待ちたいところだ。


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