07 新たな一歩
昼の食事を終えた後は、同じ作業の繰り返しであった。
森に入った男衆は手斧で木を伐り倒し、根を掘り起こす。十三歳未満の若衆がそれを荒野に運び込み、見習い狩人が手斧で枝葉を落とす。女衆や幼子は、その枝葉を集める役割だ。
ただし、かまどを組み上げる作業は完了したため、そのぶん女衆や幼子は手が空いている。
そこで一部の女衆には、手頃な枝と蔓草で弓を作る作業も割り振られた。
これは兵士からの指示ではなく、自分たちの考えに基づく仕事である。
その姿に、兵士たちから非難の声があげられた。
「お前たちが狩るのは鳥ではなく、ギバだ。弓など、役に立たなかろう」
「森辺の狩人は、黒猿を狩る際にも弓を使っていました。王国の民は、狩りで弓を使わないのでしょうか?」
族長の伴侶が毅然とした態度で応じると、兵士は忌々しげに顔をしかめた。
「ジェノスに、狩人など存在しない。鳥などを狩るのは、せいぜい自由開拓民ぐらいであろうよ」
「では、これまではどのようにギバを狩っていたのでしょうか?」
「……ギバが森からあふれかえったのは、この数年の話であるのだ。我々は、落とし穴や塀などで畑を守っていた」
どうもギバの話題になると、兵士たちは不機嫌になるようである。
そしてそれは、ギバに対する恐怖の裏返しであるのだろう。これまで二度にわたってギバが出現した折も、彼らは絶大な恐怖をあらわにしていたのだった。
そして――三度目の恐怖が訪れたのは、中天から二刻ほどが過ぎた頃である。
丸太を運ぶ子供たちとともに、ギバを抱えた狩人たちが森から下りてきたのだ。その姿に、兵士の何名かが悲鳴をあげていた。
「な、なんだそれは! こんな森の端で、もうギバが現れたのか?」
「うむ。こやつは、ずいぶん飢えていたようだ。狂暴さに変わりはなかったが、さしたる大きさでもなかったため、俺たちでも仕留めることができた」
男衆はそのように語っていたが、それでも森辺の若衆ぐらいの図体をしたギバである。その大きな頭が粉々に砕かれて、顔や背中が真っ赤に染まっていた。
「ただし、こちらもこのざまだ」
と、別なる男衆が兵士のほうに手を差し出す。そこには、柄の部分が真っ二つにへし折られた手斧が握られていた。
「刃の頑丈さは申し分ないが、この柄では頼りない。もっと頑丈な柄にするか、あるいはやはり鋼の刀が必要になろう」
「うむ。俺たちが使う石の刀では、このていどのギバを仕留めるにも難渋するだろうからな」
その場に居並んだ三名の男衆は、いずれも落ち着いた顔をしている。
しかし兵士たちのほうは、顔面蒼白になっていた。
「族長からの伝言だ。確かな武器さえあれば、ギバを狩ることはできる。くれぐれも、よろしく願いたいとのことだ」
「わ、わかった。わかったから、そやつを何とかしろ」
ギバの亡骸から目を背けて、兵士のひとりが言い捨てる。
男衆は「うむ」とうなずき、働く女衆らの姿を見回した。
「この中に、スンの女衆はいようか?」
「はい」と、ひとりの女衆が進み出る。黒い瞳と髪をした、まだ若い女衆であった。
「このギバを仕留めたのはスンの狩人なので、牙と角と毛皮はスンのものだ。ただし、肉は皆で分かち合うようにと族長が言っている」
「承知しました」とうなずきながら、女衆は別の狩人を振り返る。折れた手斧を携えていたのが、スンの男衆であったのだ。どうやら二人は夫婦であるらしく、温かな眼差しを交わしていた。
そうして、また作業が再開されたが――その後も、同じ騒ぎが繰り返された。日没までの数刻で、新たに四頭ものギバが捕獲されることになったのだ。
もっとも大きなギバなどは、昨晩と同じぐらいの図体をしている。それを仕留めたのはドムの狩人で、やはり手斧が壊されることになった。
さらにそのギバは魂を返す前に、ひとりの狩人を道連れにしていた。レェンという氏族の狩人が牙で腿を貫かれて、多くの血を失い命を落としてしまったのだ。
一昨日の夜から数えて、これで三名の狩人が魂を返し、七頭のギバを仕留めたことになる。
また、本日の一頭を仕留めたのは族長の鋼の刀であり、残りは別の男衆による手斧であった。
「ギ、ギバは日も暮れる前から、こんな森の端まで出てきていたのだ。これは、由々しき事態だぞ」
「あ、ああ。このままでは、昼間から町や畑に現れるかもしれん。領主様に、報告だ」
兵士たちは死人のような顔色で、そんな言葉を交わしていた。
ともあれ、その夜には五頭ものギバの肉が鉄鍋で煮込まれることになり――それで森辺の民は、またどうしようもないほど獣くさい煮汁を口にすることになった。
しかし、それで不満を覚えている人間はいないように見受けられる。
よって、ジバ=ルウもひたすら力をつけるために獣くさい煮汁を呑み下したのだった。
そして、翌日――
朝方の仕事を三刻ばかりも果たしたところで、新たな兵士の一団が道の南側からやってきた。
その一団が携えていた品に、狩人たちが歓声をあげる。それは、三十本にも及ぶ鋼の刀であったのだ。
「急増するギバに備えて、こちらの品が支給されることになった。本来であれば、ギバ数百頭分に値する価値であるが……ジェノス侯は貴様たちの力を見込んで、こちらの品を準備したのだ。その期待を裏切ったならば、大いなる報いを受けることになるぞ」
ひときわ居丈高な兵士が、そのように言いたてていた。
頭の飾りが立派なので、きっと立場のある人間であるのだろう。しかし、族長の粛然たる立ち居振る舞いに変わりはなかった。
「俺たちが森で暮らすには、ギバを狩る他ない。俺たちが家族を守るために振るう刀が、町を守ることにもなろう。俺たちは、生命をかけて仕事を果たすと約束する」
族長の白銀の瞳で見つめられた兵士は、たちまち心を乱して後ずさった。
「で、では、今日も仕事に励むがいい。くれぐれも、町の人間に無用の不安を与えるのではないぞ」
それは、南北に広がる道を通る人間に対しての通告であった。森と荒野の間にはその南北の道が存在し、昨日から時おりトトスの車が通っていたのである。
しかしその際には兵士が道の左右を固めるため、ジバ=ルウたちは遠目に眺めるばかりであり、車も逃げるようにしてすぐさま駆け抜けていたものであった。
よって、森辺の民が間近から目にしているのは、王国の兵士のみである。
王国の兵士はみんな甲冑姿であり、黄色みがかった白い肌をしている。髪や瞳はおおよそ茶色で、森辺の民に比べるとのっぺりとした面立ちが多かった。
それにやっぱり、心身の力というものが感じられない。たいていの兵士は威張りくさっていたが、目の奥には恐怖や困惑の色が透けているのだ。見習い狩人でも負けることはないだろうという評価も、納得の話であった。
作業の二日目にも何頭かのギバが捕獲され、兵士たちはそのたびに悲鳴をあげていた。
捕獲されたギバはすでに魂を返しているのに、いったい何が恐ろしいのか。また、ギバをさばく女衆の手際にも、兵士たちは恐怖を覚えるようであった。
そして、さらに翌日――
最初の夜に捕獲されたギバの毛皮で族長に新たな狩人の衣が与えられると、多くの同胞が歓声を張り上げた。
黒猿の毛皮は真っ黒であるが、ギバの毛皮は黒褐色をしている。それを纏った族長は、これまで以上に勇壮に見えた。
「しばらくは食事を与えられるという話であったので、すべての毛皮を差し出す必要はなかろう。その手でギバを仕留めた狩人は新たな狩人の衣を纏い、いっそうの誇りと覚悟をもって狩人の仕事に励むのだ」
毛皮をなめすのに必要な樹皮や果実は森の中に存在し、そちらはギバの食料にもならなかったため、自由に使うことが許されたのだ。それで、これまで仕留めたギバの毛皮はすべて女衆の手でなめされることになったのだった。
そうして日を重ねるごとに、狩人たちの纏う狩人の衣はどんどん黒猿からギバの毛皮に切り替えられていった。
三十本に及ぶ鋼の刀と数百本に及ぶ手斧のおかげで、ギバの収獲はどんどんあがっていったのだ。また、狩人たちも経験を重ねることでギバ狩りの手腕が錬磨されたようであった。
「木の上に逃げれば、ギバは追ってくることもできん。鋼の刀と弓矢がそろえば、いっそう手堅く仕留めることがかなうだろう」
「うむ。危ういのは、刀を振るう隙間のない場所で襲われたときだな。今日もそれで、ランの男衆が危うい目にあったようだ」
「しかし、一命を取りとめたのは何よりであった。生きてさえいれば、どうとでもなる」
晩餐を囲む男衆も、日に日に活力を増していった。
やはりそちらも狩人としての仕事を果たせるようになったことで、心が満たされたのだろう。ギバを狩るのは命懸けであるが、それこそが狩人としての本懐であるのだ。そうして男衆が気合をみなぎらせれば、女衆や幼子も満たされた心地になるのが必定であった。
飢えや病魔で魂を返す人間はいなくなり、二日目以降はギバによって命を落とした狩人もいない。そうして十日も過ぎた頃には、痩せ細った身体にじわじわと肉がついていった。
「今この場に集まっているのは、四ヶ月半にも及ぶ過酷な旅を乗り越えた人間であるのだ。森辺の民の中でも、ひときわ力のある人間が生き残ったということなのだろう」
そのように語る父は誇らしそうに家族の姿を見回しながら、瞳の奥に無念の光をちらつかせていた。
母と弟と妹は、この地にまで辿り着くことができなかったのだ。ひとつの苦難を乗り越えたことで、生き残った人間はまたその悲しみを噛みしめることになったのだった。
そうして、ひと月が過ぎた頃――
ついに、すべての同胞が森に足を踏み入れることになった。
森には、細い道が切り開かれている。
大人が三人ほど横に並んだらもういっぱいになってしまうていどの幅であるが、そんな道が森の奥深くにまで延々と続いているのだ。数百人がかりで一ヶ月かかってしまうのも納得の話であった。
「それにな、上がった先でも大変だったんだ。それがなければ、半分ていどの時間で済んだはずだぞ」
いくぶん坂になっている道をのぼりながら、長兄がそのように言い出した。長兄は伐られた樹木を荒野に運び出す役割であったため、それを目にしているのだ。
「ギバが寄ってくるような場所だと、安心して身を休められないからな。寝床の周囲は、実りをつける木を取り除く必要があったんだ」
「え? 森の中で、ギバの食料になる実りをつける木だけが伐り倒されたってこと?」
次兄がびっくりまなこで問い返すと、長兄は「そうだ」とうなずいた。
「町に面している場所は、最初からそういう細工がされていたらしい。俺たちがいま歩いているこの場所も、同様なんだよ」
「ふうん……そんなことして、森は怒らないのかなぁ?」
「このモルガの森は黒き森より木が密集しているから、俺たちが暮らすには木を伐るしかないんだよ。文字通り、俺たちは生きる場所を切り開いたんだ」
男衆と間近に仕事を果たしていた長兄は、いっそうの昂揚を抱え込んでいるようである。
いっぽう次兄は不安げな表情も覗かせていたが、ジバ=ルウはあまり気にしていなかった。族長や家長が正しいと判じたならば、それが正しい道であるのだ。森辺の民は、これまでもそうして生きてきたのだった。
「……なんだか、前のほうが騒がしくなってきたね?」
と、ジバ=ルウのすぐ後ろを歩いていたラック=ドグランがそのように語りかけてくる。
その声は、期待の思いを孕んでいた。道の先から伝わってくるのは、明らかに喜悦の賑わいであったのだ。
やがてジバ=ルウたちも、その光景を目の当たりにすることになった。
ゆるやかな坂道が終わりを告げると、そこは大きく切り開かれた空間であり――そこで、何百名もの人間が歓呼の声をあげていた。
丸く切り開かれた空間で、周囲はすべて森である。
文字通り、母なる森の腕に抱えられているかのようだ。それが、森辺の民の心を打ち震えさせているのだった。
「足を止めるな! 後続の人間のために、道を進むのだ!」
族長の言葉に従って、森辺の同胞はさらに歩を進める。
そこは二百名ていどの人間が立ち並ぶことのできる空間で、右と左に道が開かれていた。左のほうはもう人の流れも止まっていたため、ジバ=ルウたちは右の道を進むことになった。
「右にも左にも道が切り開かれて、平らな場所には空き地が作られているんだ。いずれその空き地に、家が建てられるんだぞ」
長兄が、わけ知り顔で説明をしてくれる。
その間に、ジバ=ルウは太陽の位置から方角を計算した。
(このみちは、みなみにむかってるんだ。にしからもりにはいって、なんぼくのほうがくにきりひらかれたんだな)
つまりそれは、森の外に広がる南北の道と並行の道筋ということになる。
まだ幼いジバ=ルウには、その事実が示す意味を理解しきれなかったが――森辺の集落は外界の町をギバから守るために、そういった形で切り開かれていたのだった。
「ずいぶん歩くんだね。さっきの空き地から、どうしてこんなに離れてるんだろう?」
次兄が疑問を呈すると、長兄がすぐさま答えを明かした。
「集落を開くには、地面が平らで水場が近い場所が必要になるんだよ。……それに、血族でもない相手とすぐ近くで暮らすのは、落ち着かないだろう?」
「そうかなぁ。もうずっとそんな風に過ごしてきたから、俺はあんまり気にならないよ」
「それはきっと、生きることに必死だったからだ。他の氏族と絆を深めるのも悪い話ではないけど、それよりまず血族と絆を深めないとな」
そうして半刻ばかりも歩くと、ようやく次の空き地が見えてきた。
そちらは百名ほどが居座れそうな空間である。さらに進むと、また同じていどの空間が現れた。
そしてその先にも、まだいくらかの道が開かれている。
そちらのほうを指し示しながら、父が説明してくれた。
「今日までに切り開いた六つの空き地で、とりあえず千名の同胞が身を休めることはかなうだろう。しかしこれでは家を建てる隙間もないので、あくまでかりそめの寝床だ。明日からも南北に道を切り開いていき、千名の同胞が心安らかに過ごすための集落を築きあげる」
そう言って、父は自分の手首を指し示した。そこに巻きついているのは小さな赤い果実の腕飾りで、ジバ=ルウたちも森に足を踏み入れる前に同じものが配られていた。
「これは毒虫除けのグリギの実というもので作られているので、今後は決して外してはならんぞ」
「うん。みんなが同じものをつけてると、ちょっと匂いが気になるよね」
そんな風に答えてから、次兄はけげんそうに小首を傾げた。
「あと、これに似た匂いが森のほうからも漂っているように感じるんだけど……」
「広場の周囲には、熟れたグリギの実の汁をまいているのだ。若いグリギの実は毒虫除けになり、熟れたグリギの実はギーズ除けになる。お前たちも、よく覚えておけ」
父がそのように語っていると、同じ広場に到着した一団から何名かの男衆が近づいてきた。
「失礼する。今日はこの顔ぶれで夜を明かすことになりそうだな。こちらは、ルティムの血族だ」
「こちらは、レイの血族だ。そちらは、ルウの血族だったな?」
「うむ。これまではさしたる縁もなかったが、よろしく願いたい」
父が目礼すると、レイの家長と思しき男衆が「ふふん」と鼻を鳴らした。
「一夜をともにするだけで、何も気を張る必要はあるまい。しかしお前は、なかなかの手練れであるようだな。余力があれば、力比べでも挑んでみたかったところだ」
「力比べか。そんな余興を楽しめるほどの力を取り戻したいものだな」
父がそのように応じると、ルティムの家長と思しき男衆が豪快に笑った。
「俺たちはこのひと月ていどで、ずいぶん力を取り戻すことがかなった。この調子でいけば、すぐに元の力を取り戻せることだろう。さすれば、ギバなどおそるるに足りん」
「うむ。この場には、手練れの狩人も居揃っていることだしな」
と、レイの家長が父とルティムの家長の姿を見比べる。この三名はいずれもギバの毛皮を纏っており、腰には鋼の刀をさげているのだ。それはすなわち数百名に及ぶ狩人の中で、三十名の力ある狩人に認められた証であった。
「最初に切り開いた大きな広場には、ガゼやらドムやらザザやらの血族が集っているようであったぞ。いずれあやつらは、血の縁を結ぶやもしれんな」
「そうか。族長筋たるガゼも、もはや眷族はリーマとペッシのみであるからな。ドムやザザを血族とできれば、申し分なかろう」
「ふふん。しかしあの荒くれた連中が、易々と眷族に成り下がるものであろうかな。とりわけドムの連中などは、自分たちが族長筋の親筋になるなどと言い出しかねんぞ」
「うむ。森辺で一番の勇者はまぎれもなく族長であろうが、この道中でのきなみ子を失ってしまったからな。新たな子が無事に育つ前に、族長の身にもしものことがあったら……ひょっとするかもしれんぞ」
レイとルティムの家長がそんな話題で盛り上がっていると、父は沈着な面持ちでたしなめた。
「俺としてはそのように遠き行く末よりも、目の前の苦難に心を尽くしたく思う。集落を切り開く仕事は、まだ始まったばかりであるのだからな」
「ふん。ようやく森の中で眠れるというのに、ずいぶん堅苦しいことを抜かすのだな」
「うむ。族長筋の行く末も二の次にはできなかろうが、俺たちがまず目を向けるべきは家族と血族の安寧であろうからな」
父の言葉に、レイの家長はふてぶてしく笑った。
「家族の存在を持ち出されては、こちらも文句のつけようがない。では、そろそろ愛しき家族のもとに戻るとするか」
「うむ。おたがい無事に夜を明かせるように、祈るとしよう」
そうしてレイとルティムの面々が立ち去ると、長兄が詰めていた息を吐いた。
「レイとルティムの家長も、あんなに力のある狩人だったんだね。俺の目には、ドムやザザにも負けていないように見えるよ」
「それは、確かな眼力が育ったな。あの二人は、勇者の名に相応しき力量であろうよ」
父は穏やかな眼差しを浮かべながら、長兄の肩をぽんと叩く。長兄は子供扱いされることを嫌がるため、父も頭を撫でたりはしないのだ。
「お前もああいう男衆を見習って、立派な狩人に育つのだぞ」
「余所の氏族を見習う必要はないよ。俺の目標は、父さんだ」
長兄が真っ直ぐな目で見返すと、父は「そうか」と微笑んだ。
「それでは、寝支度をするとしよう。血族で集まり、男衆が周囲を固めるのだ」
父の言葉に従って、ジバ=ルウたちは広場の中央に寄り集まる。そして、かつて狩人の衣として使われていた黒猿の毛皮を地面に敷いた。
「ぼくたち、やっと森で眠れるんだね」
ジバ=ルウの隣に陣取ったラック=ドグランが、無邪気に笑いかけてくる。
ジバ=ルウも笑顔を返したが、その胸中に渦巻く覚悟はまったく変じていなかった。
(ねむるばしょがかわっただけで、まだなにもおわっていない。あたしたちがただしいせいをとりもどせるかどうかは、これからなんだ)
黄昏刻の森は、ひっそりと静まりかえっている。しかしその静寂の向こう側には、ギバやギーズやムントがひそんでいるのだ。ここは本当に安住の地になりえるのか――森辺の民は、ようやくその入り口に立ったに過ぎないのだった。
2025.12/25
・今回の更新はここまでです。1月中には更新を再開する予定ですので、少々お待ちください。
・また、明後日の12/26から新作を公開しますので、ご興味を持たれた御方はそちらもよろしくお願いいたします。




