第7話 救世主、ギルドに入る(そして即後悔する)
「はい次の方〜、ステータス測定っす〜」
ギルドの受付嬢が、気の抜けた声で呼びかけていた。
俺はその列の最後尾に並んでいる。
……いや、列っていうか、もはや地獄のサウナ。
「う、うわぁ……ここ、臭くね?」
汗、泥、酒、獣臭。
どこを嗅いでも刺激臭。
壁には油染み、床には謎の液体、カウンターには蠅が。
――俺の潔癖魂が悲鳴を上げた。
「ちょ、あの受付台、消毒したい……スプレー貸してくれ……」
バッグの中で俺の消毒スプレーが光る。
だが今ここでシュッシュッしたら、全員敵に回すのは確実。
泣く泣く我慢する。
「おう兄ちゃん、新顔か? 見ねぇ顔だな!」
横にいた筋肉ダルマが、豪快に肩を叩いてきた。
「や、やめてください。汗が飛んでます」
「ははっ! 細けぇ奴だな! そのバッグの中身、ポーションか? 酒か?」
「……消毒液です」
「……は?」
空気が凍った。
「いや、俺、これで怪我治せるんですよ」
「お、おまえ、聖職者か? ヒーラーか?」
「いや、元You—いや、ただの旅人です」
危ない。危うく“前職”バレするところだった。
列が進み、ようやく受付台の前へ。
目の前の女性は、年の頃は二十代半ば。
金髪をきっちりまとめ、淡い笑みを浮かべているが、目の奥は完全に死んでる。
「ギルド登録ね? はい、この水晶に手を置いて〜」
「えっと、名前は松下茂です」
「まつ、した……? へぇ、珍しい響きね。出身地は?」
「……遠い東の方から」
(異世界って言っても通じねぇだろうしな)
「職業欄は?」
「んー……今のところ、“消毒士”で」
「消毒士……?」
受付嬢が小首を傾げた瞬間、水晶がぼんやりと光りだした。
パネルのような光が浮かび上がり、文字が現れる。
【松下茂】
職業:消毒士
レベル:1
スキル:
・清浄噴射(対象の不浄を消す)
・抗菌バリア(汚染耐性+)
・精神安定(臭気・ストレス耐性)
「……なにこれ、めっちゃ便利そうなんだけど」
「え、いや、ただのスプレーっすよ?」
「“清浄噴射”って、下級浄化魔法の上位互換じゃない!?」
「え? あ、そうなの?」
周囲の冒険者たちがざわざわし始めた。
「消毒士だってよ!」
「初めて聞く職だな!」
「でも“清浄”系なら、汚染クエストで引っ張りだこじゃね?」
……おい、やめてくれ。
俺は静かにラーメン作るために登録に来ただけだぞ。
「はい、登録完了〜」
受付嬢がカードを差し出した。
銀色の金属プレートに名前が刻まれている。
「これがあなたのギルドカード。失くすと再発行料かかるから気をつけてね〜」
「は、はい」
――こうして俺は、異世界ギルドの正式メンバーとなった。
◆ギルドの依頼掲示板
翌日、ギルドの掲示板前。
木の板に羊皮紙がベタベタ貼られている。
「ふむ……『ゴブリン退治』、『薬草採取』、『沼地の汚染除去』……」
俺の目に止まったのは最後の一枚。
「下水路の汚染スライム駆除」
報酬:銀貨20枚
条件:衛生・浄化系スキル持ち歓迎
(……これ、俺のためにあるだろ)
しかも「衛生」って単語が異世界に存在することに驚いた。
あっちの世界でも意外と文明的なんだな。
「よし、これにしよ。どうせラーメン作るにも清潔な水が要るし」
受付へ紙を持っていくと、カウンター奥で声がした。
「その依頼、まだ誰も請けてないのよ」
振り向くと、黒髪ショートの少女が座っていた。
赤いブレスレットが光り、瞳は琥珀のように輝いている。
「リュミナ=ブラスト。魔導士よ。あなた、消毒士なんでしょ?」
「は、はい。まぁ、一応……」
「なら、組まない?」
「え、初対面ですよね!?」
「依頼内容を見れば分かるわ。汚染スライムは物理が効かない。
私の魔法は焼けるけど、残留毒素までは消せない。
あなたの消毒液があれば、完全に“清め”られる」
理詰めで誘われた。
でも、俺の中の“潔癖魂”が囁いた。
――汚染を完全に消せるチャンスだぞ。
「……いいですよ。組みましょう」
「決まりね」
リュミナは立ち上がり、軽く微笑んだ。
「明日、南の下水路前で。遅れたら許さないわ」
「いや、俺時間にはきっちりしてるんで!」
こうして俺は――
消毒液片手に、“核撃魔法”を使う魔法使いと組むことになった。
茂くん、いよいよ冒険者デビュー!
ギルドの“異臭地獄”にもめげず、ついにリュミナと出会いました。
冷静系魔導士×潔癖系消毒士――このコンビ、絶対騒がしくなる未来しか見えませんね。
次回・第8話「汚染スライムと最初の共闘」
茂とリュミナの初バトル&連携爆誕です




