第2話 不衛生すぎる街並み
「……はぁ、夢じゃないっぽいな」
スライムを一撃で葬ったあの消毒スプレー。まだ手に残る感触と、地面に残るスライムのドロドロ残骸が、それを証明している。
空を見上げても、雲ひとつない青。
風はやけに生々しく土の匂いを運んでくる。
――異世界。
YouTuber松下茂、潔癖気味のラーメン好き。
彼は今、どういうわけか異世界の荒野に立っていた。
「いや、異世界転移とか……俺、ラノベの読みすぎだろ……」
頭を抱えつつも、取りあえず歩き出す。
幸い、遠くに城壁が見える。人の街らしきものがあるのは救いだった。
だが、城門をくぐった瞬間。
「……くっさ!」
強烈な悪臭が鼻を突いた。
道の端には汚水の流れる溝。
市場には魚の腐った匂いが充満し、ハエがぶんぶん飛び回る。
肉を切る屋台のおっちゃんは、素手で血まみれの肉をぶん投げているし、洗う水もない。
「おいおい、これ食中毒不可避だろ……!」
さらに追い打ちをかけるように、路地裏では男が立ちション。
振り返ってニヤリと笑い、「兄ちゃんもどうだ?」とか言ってくる。
「いやいやいやいや! お前らトイレって概念ないのか!?」
街を歩くだけで、茂の潔癖心はバキバキに折られていく。
そんな中、ふと目に入ったのは、小さな屋台。
鍋から立ち上る湯気に思わず期待が走る。
「ラーメン……?」
屋台に近づくと、店主はにこやかに木の器を差し出した。
だが中身は――茶色い水に浮かぶ謎の肉片。
「……なんだこれ」
「スープだよ兄ちゃん! 今日のは新鮮だから腹もそんなに壊さねぇさ!」
「“そんなに”って言ったな今!!」
それでも空腹には勝てず、一口すすった茂。
――数分後。
「うわああああ腹がああああ!!」
街角でうずくまるYouTuber。
異世界の“食”が彼に洗礼を浴びせた瞬間であった。
だが、そんな彼に目を向ける子供の姿があった。
痩せ細った少年が、苦しそうに咳き込みながら茂を見ている。
その手足はただれて膿んでいた。
「な……なんだその感染症レベルの傷は……!」
茂は思わずバッグを開け、消毒スプレーを取り出す。
ためらいもなくシュッと吹きかけた。
「しゅわぁ……」
膿が引き、赤黒い腫れが目に見えて収まっていく。
少年は目を丸くして、「……いたくない」と呟いた。
その瞬間、周囲の人々がざわめいた。
「奇跡だ!」
「聖なる癒し手だ!」
「救世主が現れたぞ!」
「いやいやいやいや!? 俺、ただの消毒液シュッとしただけだから!!」
叫ぶ茂をよそに、彼の異世界での“伝説”が、勝手に始まってしまったのだった。
異世界の街、くさすぎました。
飯もやばいし、水もやばいし、トイレなんて存在してない。
潔癖主人公には地獄だけど、書いてるこっちは楽しいです。
次は救世主あつかいとかやめろです。
多分また汚い