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異世界消毒英雄譚~異世界でラーメンを夢見る冒険者~  作者: 作者KK
第1章 路地裏からの異世界転移
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第1話 なかなかこねぇな

松下茂――登録者数100万人を超える暴露系YouTuber。

芸能人の裏話、企業の不祥事、政治家の怪しい交友関係。

彼の動画はいつだって世間をざわつかせる。


だがそんな男にも、一つだけ「暴露以上に命を賭けられるもの」があった。


――それがラーメンである。


「やっぱり夜はラーメンだろ」

「いや昼でも食うけどな」

「朝ラーも悪くねぇ」


そんな独り言をつぶやきながら、今日も茂は路地裏を歩いていた。

仕事帰り、ネタ探しの帰り道。偶然目に入ったのは、

看板の明かりがやけに薄暗い、場末感漂う小さなラーメン屋だった。


古びた暖簾。油の染みこんだ木の扉。

正直、潔癖気味の茂からすれば「絶対に入っちゃダメな店」だ。

だが――腹は正直だ。


「……まぁ、味が良けりゃ汚くても許す」


そう自分に言い訳して、暖簾をくぐった。


カウンター席に腰を下ろし、メニューも見ずに声を張る。


「チャーシューメン一丁!」


これでラーメン屋としての実力がすぐわかる。チャーシューで手を抜く店は信用ならん。

茂はそう信じている。


だが、ラーメンは……来ない。


五分。十分。十五分。二十分。

――来ない。


「なかなかこねぇな……」


茂は腕を組んで天井をにらむ。

水を一口飲むが、ぬるい。

ティッシュを取ろうとしたら黄ばんでる。

カウンターは油でベトベト。

調味料の容器なんか、表面がカピカピだ。


「いや……不衛生にもほどがあるだろココ」


潔癖気味の茂にとって、この環境はラーメンを待つ時間以上に地獄だった。


「……もういい。直接言ってやる」


カウンターの奥、厨房につながるであろう戸を思いきり開け放った、その瞬間。


「……あ?」


そこに広がっていたのは――

見慣れた厨房ではなく、どこまでも広がる荒野だった。


澄み渡る青空。風に舞う土埃。

そして、ぬるりと揺れる半透明の巨大スライム。


「おいおいおいおい……ラーメンどころか、世界観が違ぇじゃねぇか!?」


混乱しながら、肩にかけたショルダーバッグを探る。

スマホ? ない。財布? ない。

かわりに入っていたのは――


・アルコール消毒液(外出時の必須アイテム)

・袋麺の王様「チキンラーメン」一袋


「……え? 俺の持ち物、これだけ!?」


スライムが、ぐにゅるり、と音を立てて迫ってくる。

茂は反射的に、消毒スプレーを構えた。


「とりあえず清めとけぇぇぇ!!」


――シュッ。


「ピギャアアアア!!」


スライムは白煙を上げながら、あっけなく蒸発した。


「……マジかよ、効いちゃったよコレ!?」


呆然とする茂。

その手には、残量たっぷりの消毒液と、

腹の足しにすらならないチキンラーメン。


「いやいやいや……チートスキルがこれって、どう考えてもバグだろ!?

てかお湯すらねぇのに、チキンラーメンどうすんだよ!!」


こうして――

ラーメンを待ちくたびれた男・松下茂の、

異世界消毒英雄譚が幕を開けた。

ラーメン待ってたら異世界でした。

いや、なんでやねん。

しかも消毒液とチキンラーメンしか持ってないって……もう絶望フラグすぎる。


とりあえずスライムが消毒で蒸発したので、この先はなんとかなるでしょう。

ならないかもしれんけど。

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