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波乱の幕開け 2

「………まど」

「お姉ちゃん?」

「……あの窓から出られないかな?」

「ええ?無理だよぉ、アイラたちじゃ届かないよ…」


紫色の瞳が印象的なこの子はアイラちゃんというらしい。隣にいる男の子はジョンくんで、二人はどうやら双子らしい。


「……わたしの肩に乗ることってできるかな?」

「っえ!?」

「………おねえちゃん、細いから無理だと思う」

「うん。ぼくたちのお姉ちゃんくらい大きくないと…」


アイラちゃんもジョンくんも小さいから大丈夫だと思ったのに、二人にそう言われてこっそりと肩を落とす。

………わたしも兄さんたちと一緒に鍛えようかな。


「だ、大丈夫だよ。おねえちゃん、こう見えても力持ちだから」

「ほんとう?」

「うん。本当本当」


頷く私を訝しげに見ていたけど二人は顔を見合せてゆっくりと頷いた。


「ありがとう、二人とも」


きっとこの子たちも怖いはずなのに。ぎゅっと抱き締めると二人は小さな手でわたしの背中に手を回した。



「───無理よ」


固く鋭い声が小さく響く。声の主は、わたしより年下の女の子でひどく暗い瞳をしていた。


「逃げられるわけないじゃない。……どうせ逃げても捕まるわよ」

「そんなことない。みんなでやればきっと、」

「無理よ!!私たち人攫いに捕まったのよ!?これから知らない奴らに売られるだけ!」


きっとみんなが不安でいっぱいだった。わたしに叫んだ彼女も小さいこの子たちも。


「っうわああん!!!」


堰を切ったように声を上げたのは、意外にもさっきまで気丈に振舞っていたアイラちゃんだった。


「アイラちゃん…!」

「あ、アイラ……」


慌てて小さなその手を掴んで名前を呼ぶけれど、大粒の涙がぽろぽろと零れるばかりで止まる様子はない。ジョンくんもおろおろと宥めようとするけど、涙の量に合わせて泣き声も大きくなっていく。


電波したように他のみんなも涙を流し始めた時だった。



「───オイ!うるせえぞ!」



わたしを攫った大男が、そう言って扉を開けて入ってきては大きな声で泣いているアイラちゃんを見て、足を踏み鳴らして近寄ってくる。

思わずアイラちゃんを強く抱き締めて、大男の挙動に息をすましていれば、大男はわたしとアイラちゃんの前で立ち止まった。

不安と緊張で背中に嫌な汗が伝う。アイラちゃんを抱く手に無意識に力が入る。


「お前か?うるせえのは。───オイ、そこの女退けろ」


鋭く低い声がそう言ってわたしを睨む。

口を開いたら恐怖で歯がカチカチと鳴ってしまいそうだった。

ぐっと唇を強く噛み締めて、大男を見たままゆっくりと首を振る。


「あ?何だ、オレの命令が聞こえないって言うのかよ!」


ドンッ、と強く壁を蹴った音にピクリと肩が跳ねた。

さすがにアイラちゃんの涙も止まっていて、部屋には誰かの浅い呼吸とこの大男の声しか響いていなかった。

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