波乱の幕開け 1
「───っ頼む!誰か助けてくれ!」
喉が枯れるまで叫んでも、こんな森の中じゃ誰にも届きやしない。
張り裂けそうな心臓を抑えながら、草木をかき分けて走る。走る。
………また間に合わなかったらどうしよう。
◇◇◇
ひたすらに歩いてやっとたどり着いたのはテオが住んでいた村よりも栄えた街だった。
往来を人が行き交い、商店街は賑わっている。
「よし。ここで俺らは武器とかの調達にしよう」
「ああ」
「じゃあ、僕は少し薬草も」
「それじゃあ、後で宿に集合ということで」
兄さんに頷いたテオがどこかの店へと入っていき、残されたわたしたち三人は武器屋へと向かっていた。
迷いなく進む兄さんに手を引かれながら、きょろきょろと周りを見渡していると半歩後ろを歩くルイスがふっと吐息だけで笑った。
「気になる店でもあったか?」
「……ううん、そういうわけではないの。わたしたちの村にはなかった雰囲気が珍しくて」
「ああ、そうだな。欲しいものがあるなら何でも言うといい。俺が買おう」
「………もうルイスったら」
兄さんやルイスが店員と話している間、手持ち無沙汰にぼんやりと店内を見渡していると、外から誰かの悲鳴のような声が聞こえてきた。
「エイダン」
「わかってる」
咄嗟に反応したルイスが兄さんを呼ぶと、兄さんはわたしの方をいた。
「ミリー危ないからここにいろよ」
「う、うん」
そう言い残して去っていった二人の背中を見送る。
外に出なければ少しぐらい見ててもいいよね。と少し外に顔を出した時だった。
「え、」
無理やり腕を引っ張られて、驚いて固まっているうちに腰に手が回り気付けば大柄な男の肩に俵抱きに抱えあげられていた。
「───ミリー!!」
追いかけてきた二人が戦おうとして、でも腰にはいつもの剣がなくて、青を通り越して真っ白い顔をして絶望に満ちた顔でこちらを見た瞬間。
周囲を白い煙が突然襲った。
「……っしまった!煙幕か!」
「撒かれるぞ!」
「ミリーっ!!」
兄さんたちの声が遠くなる。叫びたいのにわたしの口からはごほごほ、と咳しかでない。
「……っおい、うるさいぞ。黙らせておけ」
「わかった」
突然口元を何かが覆ったかと思うと、次第に意識は暗闇の底へと引きずり込まれていった。
・
「───……、お姉ちゃん大丈夫?」
舌っ足らずなまだあどけない声にハッと意識が覚醒した。
「っ!ごめんね、大丈夫だよ」
「良かったあ……」
わたしを見つめる四つの瞳に慌てて返事をすると、不安そうな瞳を抱えたまま小さく笑った。
少しでも状況を把握しようと周りを見渡せば、高い所に小さな窓がひとつあるだけの薄暗くて狭い部屋にわたしたちは数人で閉じ込められていた。
わたしより少し年下の女の子が一人と小さな子供が十人。身を寄せあって震えていた。
「……ここ、どこかわかる?」
「わからない」
ふるふると首を振って女の子は床に視線を落とす。
啜り泣く声が響く室内はやけに暗くて、気を抜けば泣いてしまいそうだった。
………だめよ、まだ泣いたらだめ。わたしが一番年上なんだからしっかりしないと。
ここには兄さんもルイスもテオもいない。
わたしが、やるしかないんだ。