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身に潜む毒 3

「………喧嘩しないで」

「……」

「いつもの二人じゃないと嫌だよ」

「ああ……悪かった」


ようやくいつもの調子に戻ったルイスがわたしの頭を撫でているのを見てテオがほっと息をついたのがわかった。


「ルイス」

「……エイダン」

「ジェシカの住む村には聖女の泉がある。そこに行けばきっと何かわかるはずだ」

「………そうだったな。悪い、頭に血が上ってた」

「ああ、知ってるよ」


ふっと笑った兄さんにやっと笑みをこぼしたルイス。

いつもの雰囲気の二人に戻ったことに安心して、テオと顔を見合せて安堵の息を吐いた。







「───さあて、じゃあ行くか」


次の目的地が決まったところで、テオの村を出発することになった。ちなみにこの村の魔物は着いて早々、倒したらしい。あまりのあっさりとした言葉に拍子抜けしつつ、身支度を整える。


「ミリー」

「なあに?兄さん」


一瞬だけぐっと唇を噛み締めた兄さんの手がわたしの頬を撫でる。


「……うん。熱もなさそうだな」

「兄さんは心配性ね」

「たった一人の大事な妹だからだよ。……ミリー。絶対治すからそれまで耐えられるか?」

「………おばかね、兄さん」


その手に頬を預けると、兄さんの瞳が僅かに柔らかくなる。


「大丈夫と言ったのは兄さんよ?たった一人の大事な兄さんを誰よりも信じてるんだから少しの体調不良くらい耐えられるわ」

「ミリー……」

「行こう?兄さん」


兄さんの手を引っ張って、教会の裏口に立つルイスとテオに手を振る。


「……なんだかルイスと教会って合わない気がする」


見慣れない組み合わせにぽつりと呟くと、兄さんが噴き出したように笑う。


「……まったく」


こつんと額を何かが当たる。それがルイスの手の甲だと気づいた時には、呆れたような顔と目が合った。


「お前はまた変なことを」

「……だって、なんか違和感があったんだもん」


思い返せば兄さんはともかく、ルイスは頑固として教会には近づかなかった気がする。


「……俺は教会にはほとんど縁がなかったからな」


今の皇帝と教会の仲はお世話にも良好とは言えない、とは市民のもっぱらの噂だ。こんな片田舎の村に住むわたしの耳にも入ってくるほどに。

ルイスの父は皇室騎士団長をやっているため、必然的に息子のルイスも教会から足を遠ざけていたんだろう。


「ミリー」

「テオ」

「僕もついて行きます。なので体に異変があった時はすぐに教えて……っわわ!」

「テオも一緒なの?嬉しい!」


感極まって抱きついたわたしをテオが慌てて受け止めてくれる。

ほとんど背丈は変わらないからわたしの顔のすぐそばにテオの顔があるから、その顔が真っ赤なのが分かった。けどそれもすぐに真っ青になって、わたしの後ろをチラチラと見ては「っ!これは、その……不可抗力というか……っ」と手をわたわたと振っている。


その様子が面白くてテオの首筋に顔を埋めてくすくすと笑っていると、兄さんに名前を呼ばれる。


「こら。おふざけはやめなさい。テオが困ってるだろ?」

「……はあい」

「っえ、ミ……ミリー?」

「んふふ。ごめんね?可愛くて」


テオから体を離して笑うと、ぱちぱちと目を瞬いてから力が抜けたように眉尻を下げて笑う。


「……しょうがないなぁ」


それは年下の子どもを見て微笑ましく思うようなそんな声音で、頭を撫でられる。

年下の子に子供扱いをされたことになんだか急に恥ずかしくなっちゃって頬が赤くなるのがわかった。


「っあ。すみません、つい……。ミリーはなんだかここにいる子供たちみたいで」

「……子供扱いは嫌よ」

「ははっ。むくれながら言われても説得力がないよなあ?ルイス」

「ああ、可愛い」

「………お前は何言ってんだよ」


がしがしとわたしの頭を撫でる兄さんとルイスに、テオが笑う。

子供たちの柔らかな讃歌に見送られて、わたしたちはこの村を後にした。

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