身に潜む毒 1
「もう一度回復魔法をかけて今晩様子を見守りましょう」と言ったテオに魔法をかけてもらって、ベッドに横になったのは昨晩のこと。
やってきたテオはわたしを診て、呆然としたように言葉を落とす。
「………どうして、」
「テオ?」
首を傾げるわたしに、テオがハッとしたように我に返る。
「……エイダンとルイスを呼んできます」
そう言って部屋を出るテオの背中を見送って、誰もいなくなった部屋でそっとため息を吐く。
わたし、そんなに悪いのかな……。
キーランさんに貰った薬だって飲んでいるのに。
まだ村を出て一つ目の村だというのに、もう足手まといになっちゃってる。……やっぱり帰ろう。帰って教会の人にお世話になろう。その方がきっと、兄さんたちの旅も早く進んでいいだろうから。
「ミリー。体調は?」
「だいぶいいよ」
テオに連れられて、というか呼びに行ったであろうテオを置いてやってきたルイスは手の甲で頬を撫でて、慣れたようにわたしの額の熱を測る。
「熱は無さそうだな」
「元気だよ?」
「前もそう言って熱があっただろう。ミリーの体調に関しては自分で確かめた方が早い」
たしかにそんなこともあったかもしれないけど、ずっと前の話なのに。むう、と頬を膨らませたわたしに、慌てて駆け込んできた兄さんがルイスの手を払ってわたしの顔を無遠慮に掴む。
「ミリー!大丈夫か!?あああ、ほっぺが赤くなって…!」
「それはお前が弄くり回すからだろう」
「……何でルイスが答えるんだよ?」
「お前が頬を掴んでいてミリーが話せる状況じゃないからだろう?」
わたしを挟んで火花が散りかけた二人に、抗議するように兄さんの腕をペチペチと叩く。
「……っもう!二人とも喧嘩しないの!」
「ごめんよ、ミリー」
「……悪かった」
バツが悪そうに視線を逸らすルイスと兄さんにため息を吐けば、少し後ろでくすくすと笑うテオが目に入って、どうしたんだろうと首を傾げると、テオもわたしの視線に気付いてにこりと微笑んだ。
「すみません。やっぱりミリーがいると二人ともすぐに大人しくなりますね」
「え?」
「僕たちじゃ止められないくらい喧嘩してたから。ミリーがここにいてくれて良かった」
「………そんなことないよ、」
帰ろうって決めたばかりなのに、そんなふうに言われたらまだ一緒にいたいって思ってしまう。帰りたくなくなっちゃう。
「いーや。兄さんたちはミリーがいないとダメだから、これからもそばにいること!」
「ああ。ミリーがいない人生なんて、くそくらえだ」
なあにそれ。と笑い飛ばそうと思ったのに意外にも真剣な瞳に見つめられて思わず口を閉じる。
………きっと、兄さんたちは気付いてる。わたしが帰ろうとしていたこと。
「………足手まといになるのに、まだ一緒にいてもいいの?」
「足手まといなんかじゃない。兄さんにはミリーがいないとダメだから」
「まだ、じゃない。これからもずっと一緒だ」
「………っうん!」
兄さんはわたしがいないとダメだとよく言うけれど、きっとわたしの方が兄さんがいない生活を耐えられないのかもしれない。