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初めてのお友達 4

彼の声が届くと同時に、激しい音を立てて扉が開く。


「っお前!!ミリーに何をした!!」


聖剣をディランに突きつけながら、威嚇するように睨む姿に普段の兄さんの姿はなく、紛れもなく勇者としての姿だった。

同じように剣を構えたルイスと、険しい顔で魔術本を開き今にも魔法を展開しそうなテオくん。


どうしよう。どうにかして止めないと……!


「……っ待って、兄さん!ルイスとテオくんも!」


このままだとディランが兄さんたちにやられちゃう。

慌てるわたしとは反対にディランは余裕たっぷりに兄さんたちを見て、なぜかわたしの視界を片手で塞いだ。


「頭に血が上りすぎだろ。コイツも怪我させる気か?そんなんで本当に大丈夫かよ?勇者サマ」

「………お前に言われなくても、ミリーには傷一つ付けない」

「おい。コイツが脅えてるのが分からないのか?」

「……っ!」

「俺は何もしてないし、する気もない。……わかったらそれ下げろよ」


ゆっくりと兄さんたちが剣を下ろしたのを見たディランが、わたしの視界を隠していた手を外す。

わたしを見て、ぎょっと兄さんたちが動揺したのが伝わってきたけど、どうすることもできなかった。


ディランが死ぬかと思った。兄さんが殺してしまうかと思った。

みんなが怪我をするかと思った。


考え出したらキリがないくらい悪い想像で埋まって、気付いたら涙が止まらなくなっていた。


「やれやれ。俺のお友達はとんだ泣き虫だな」

「……嫌いになった?」

「さあな」


指で涙を掬ったディランが、肩を竦める。

せっかくできたお友達なのに、情けないところは見せちゃうし、わたしがうまく止められなかったから兄さんたちは剣を向けるしで、きっと嫌われてしまってもおかしくない。


「───でもまあ、俺のために泣くのは案外悪くないかもな」


涙で滲んだ世界でも、ディランが僅かに微笑んだのがわかった。

ディランがゆっくりとわたしに手を伸ばしてくるのをぼんやりと見ていると、その手はわたしに触れる直前に払われて、肩を掴まれる感覚とともに気付いたらわたしは兄さんの腕の中にいた。


「………今日のお前に敵意がないのはわかったけど、さすがにミリーに触れるのは許可できないな」

「はいはい」

「ミリーに触れたいなら俺にも許可を得ることだな。一生許可を出すことはないが」

「……はあ?」

「じゃあ、僕にも許可を取りに来てもらわないとですね」

「………」


面倒くさそうにため息を吐いたディランと不意に目が合う。

爛々と輝く赤い瞳は不思議な魅力を持っているみたい。

魅入られたようにその瞳を見ていると、ディランはふっと吐息だけで笑う。


「勇者サマたちから逃げ出したくなったら俺が攫ってやるよ」


そう言い残したかと思うと、一瞬で姿を消してしまった。







ディランがいなくなったあと、兄さんはハッと我に返ったようにぺたぺたとわたしに触れて、ようやく怪我の一つもないことを確信して安堵の息を吐いた。


「ミリー大丈夫か?何もされなかったか?」

「されてないよ」

「はあ…よかった……」

「よくない。なにもよくないよ」

「へ?」


わたしの言葉に呆けたような兄さんの顔を両手で包んで、むすっと頬を膨らませる。


「聖剣を人に向けるなんてダメよ。それに、ディランは何もしていないのに」

「いや、アイツは……ミリーが思うほどいい奴じゃないよ」


桃色の瞳をゆっくりと閉じて何かを思い出すように静かにそう言った兄さんが、わたしの手の上から包み込むように触れる。


「………兄さん?」


わたしが知らないだけで兄さんはディランに会ったことがあるのだろうか。

暗い表情の兄さんはわたしの手を自身の頬に押し当てたまま、息を吐いたかと思うと。


「可愛い妹の目に入れるのがもったいないくらいのどうしようもない奴だから、今後会ってもアイツには絶対近づかないこと!いいね!?」


カッと目を大きく開いて、さっきの暗い表情は見間違いのように興奮しながら話す。


「っもう!兄さん!ディランはお友達よ?そんなふうに言わないで」

「………ミリー。兄さんは耳が悪くなったみたい。今なんて?」

「そんなふうに言わないで」

「その前」

「……ディランはお友達よ?」


頭を抑えた兄さんがルイスやテオくんを振り返る。


「……今の聞こえたか?」

「いや……どうやら俺も耳をやられたみたいだ」

「あはは」


苦笑を浮かべるテオくんは良いとして、ルイスも兄さんの悪ふざけに乗ってそんなこと言うなんて。


「っもう!兄さんもルイスもおばか!ばかばかぁ……っ!」


ディランがお友達だなんて認めない。関わるな。

───わたしにそう言いたいってことは知ってる。


………でも。初めてできたお友達だからそんなにあっさりと諦めたくない。


「ッミリー!」


勢いのまま走り出したわたしの背中を兄さんたちの声が追いかけてくる。いつもならそこで足を止めるのに今日はムキになって、走り続けた。

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