初めてのお友達 3
「なあ、アイツらが今何してるか知ってるか?」
「……アイツら?」
「勇者サマたちだよ」
兄さんたちならテオくんと一緒にいるはず。
首を傾げたわたしに、妖しく光る赤い瞳が囁く。
「───連れて行ってやろうか?」
息を呑んだわたしを見て、愉しそうに口元に笑みを浮かべた彼がさらに言葉を続ける。
「いつも一人で置いていかれているんだろ?ひとりぼっちでかわいそうなミリー」
まるで、知っているみたいに話すのね。
いつだろう。そう遠くない過去に彼の言葉と同じようなことを思ったことがある。
───兄さんにはルイスがいるけど、ミリーはいつもひとりぼっち。
体が弱くて友達にも入れてもらえなくて、本当は寂しい。
それは多分、前世の記憶を思い出したあの日、まだ"私"と混ざりあっていないミリーが心の奥底で思っていたこと。
「…………あなたも、ひとりぼっちなの?」
「……は、」
赤い瞳を見開いて驚く様子に、さっき感じた異様な雰囲気はもうなかった。ただのわたしと変わらない男の子のようだった。
「ねえ。わたし、お友達がずっと欲しかったの」
「………」
「……良かったら、なってくれると嬉しいな……」
無言の彼にだんだんと声が尻窄まりしていく。
視線を落とした手は無意識に震えていて、きっとさっきの彼の雰囲気に本能的に恐怖を感じたんだろう。……怯えるなんて友達失格ね。これじゃあなってくれなくても無理はないもの。
そっと布団の下に手を隠して、そろりと彼の顔を窺うと無表情の彼とパチリと目が合う。
「………お前、俺が怖くないのか?」
「こ、怖くないわ!お友達だもの!」
「………手、震えてんのに?」
「これは、その、脱皮よ!」
自分でも何を言っているかわからなかった。でも、きっと今しかチャンスはないと何故だかそう思って張り上げた声に、彼は赤い瞳を和らげて初めて柔らかな笑みを浮かべた。
「なに、お前脱皮って……っ」
年相応の男の子みたいな顔で笑う姿は、さっきの無表情からは考えられないほど柔らかくてほっと息を吐く。
笑われる内容がわたしの言葉なのは恥ずかしいけど、どこか寂しそうな目をしていたから、笑ってくれて良かった。
「───なあ。なってやってもいいよ」
「え?」
「お前のお友達」
「っほんと?嬉しい!」
初めてのお友達。わたしにできたお友達。
嬉しくて勢いのまま彼に抱きつけば、一瞬ピシリと固まったもののすぐにわたしにされるがまま抱きつかせておいてくれる。
「……名前も知らない男に抱きつくなんて勇者が泣くな?」
「お友達だから大丈夫よ!」
「ふうん。……じゃあ俺の名前もいらないか」
「いる!」
「………お前のことだから、お友達って呼ぶからいらないわ!とか言うと思ったけど」
途中、少し高くなった声は多分わたしの声を真似たんだろう。
くすくすと笑って少し体を離して、その人並外れた綺麗な顔を見上げる。
「お友達だけれど、あなたはあなただもの。教えて?あなたのお名前」
その頬に手を伸ばして、彼の顔を包み込む。
孤独を抱えたこの人の心が少しでも解れるように、大切に名前を呼ぼう。あなたの居場所はここにあると示すために。
ぐいっと腰を掴まれて、耳もとに唇が寄せられる。
「───ディラン」