初めてのお友達 2
「それでテオ。この子が俺の妹のミリー」
「はい。……やっと、会えた」
柔らかい声で兄さんがわたしの肩を抱く。
眩しそうに金色の目を細めたテオくんは、その後ふわりと微笑んだ。やっと会えたってどういう意味だろうと首を傾げたわたしにテオくんは、なぜか焦ったようにわたわたと手を振る。
「……えっと、ミリーさんが眠っている間に、実はエイダンやルイスから色々と聞いていて…」
「………なんだか、恥ずかしいわ」
「え!いや、そんな!二人ともミリーさんが大好きだって伝わる内容でしたから」
「もう。それでも恥ずかしいわ……」
………どこかで聞き覚えのある名前だとずっと思っていた。
さっきは思い出せなかったけど、この子は原作で勇者パーティーに加わる子だ。
兄さんやルイスが最初の村で見つけた仲間の男の子。
「助けてくれてありがとう、テオくん」
「僕は……完全にあなたを助けられたわけじゃないんです。気休め程度にしかならない。だから、お礼を言われるほどのことは……」
「ううん。そんなことないよ」
「え?」
「テオくんに診てもらってから体も軽いし、なんだか調子がいいの」
「ミリーさん……」
なんて優しくて謙虚な男の子なんだろう。その小さな手をぎゅっと握りしめると、最初は頬を染めていたテオくんだったが徐々に顔を強ばらせてあからさまに視線を泳がせる。
「………テオくん?」
「いや、これは不可抗力というか……!」
瞳を固く閉じて両手を上げたテオくんがそう言うと、急に手を離されてそのままになったわたしの手をルイスの大きな手が包み込む。
「ルイス?」
「………無闇矢鱈に男に触れない方がいい」
「ええ?テオくんは年下の男の子だよ…?」
「そうとは限らない」
「……大丈夫?ルイス」
「?ああ」
どうして心配されたかわからないと言わんばかりに首を傾げて返事をするルイスだけど、もしかしたら疲れているのかもしれない。
だってどう見ても年下の男の子にあんなこと言うんだもの。
「───エイダン、ルイスも。ちょっといいかな」
「もちろん」
「ああ」
テオくんに呼ばれて出ていく二人が行く間際にわたしの頭を撫でる。
「いい子で待ってて、ミリー」
「大人しくしていろよ」
「っもう!兄さんもルイスも子ども扱いしないで!」
「ははっ。ごめんごめん」
「許してくれ、お姫様」
よりにもよって年下の男の子の前で子ども扱いされるなんて恥ずかしすぎる。それに、テオくんの見守るような温かい視線が一番恥ずかしくなる。
────バタン、と音を立てて閉まった扉からはもう兄さんたちの話し声も消えない。
こんなにもゆったりとした時間は久しぶりに感じて、窓から入る柔らかな風の心地よさに瞳を閉じる。
仄かに香る花の匂いは多分、窓の外に見えている木からなんだろう。
「───よう」
不意に聞き慣れない低い声が耳を擽って、ハッと目を開くと木の上からこちらを見下ろす赤い瞳と目が合った。
器用に枝の上に腰を下ろしながら、夜を切りとったような黒髪を風に揺らす。まるで美しく作られた精巧な人形のように無機質な顔がこちらを見据えて初めてその表情を崩した。
「───ああ、アンタがミリーか」
「……………わたしを、知ってるの?」
「知ってるといえば知ってる。知らないといえば知らないな」
「……よく分からないわ」
誤魔化すようなその答えに、つい兄さんたちにやるように口を尖らせてしまう。この癖、子供っぽいからやめようと思っていたのにまたしちゃった。
結構な高さのある木から降りたとは思えないほど軽やかな音を立てて飛び降りた彼は、そのまま窓枠の所に片膝を立てて腰を下ろしたかと思うと、わたしを見てほんの少しだけ唇の端を釣り上げた。