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第5話 模擬戦



「模擬戦、か」


 康介は授業で行われている、チーム対抗の模擬戦を眺めていた。


 その視線の先では、2つのチームが力を競い合い、戦っている。


 ぎこちない連携をとり、仲間の長所を潰し合うようなチームワーク。


「……、あいつら、ふざけてるのか?」


「まあ……言いたくなる気持ちもわかるよ」


「なんで障壁の能力者が前衛にいるんだ……」


「普通なら、障壁の能力は後衛で、防御に専念するべきだからね」


 半ば呆れながら、康介と翔太は話しをする。


 実際、呆れるのも仕方がないほどの、ずさんな戦い方。


 戦っている2つのチームは、全員足を止めて、能力での撃ち合いを始めた。


「全員で立ち止まって撃ち合い、だと……?斬新な戦略だな」


「そんなことしたら、能力の相性とランクだけで勝負が決まっちゃうよね」


 2人は、まるで、お粗末と言わんばかりの口調で話しながら観戦を続ける。


 すると、今まで黙って観戦していた氷上が口を開く。


「なんか、よわ……強くはないわよね。両チームとも平均Cランクくらいなはずなのに」


「まあ、ランクが全てじゃないからな。要するに、戦い方が大事なんだ。ランクが低くても強い奴は強い」


 氷上の言葉に、康介が答える。


「あれなら、康介君だったら1人でも勝てるんじゃない?」


「確かに康介ならいけそうだな」


 2人は康介を見ながら、そんなことを話しだした。


「それはさすがに……無理じゃないかもな。

自分の力量に感心すべきか、その程度の同級生に落胆すべきか……」


 康介は2人にそう答えながら、複雑そうな表情を浮かべる。


「……どうだろう」

「……複雑ね」


 翔太と氷上は、苦笑いしながら模擬戦の方に視線を向ける。


「そういえば、なんで学校で模擬戦なんてやるの?」


 氷上が、ふと疑問に思ったことを口にした。


「それは、軍人の志望者が多いからだよ」


「軍属になれば、この箱庭から外に出れるからな。みんなその為になりたがるんだ」


 翔太と康介が順に話す。


 能力者は、箱庭から出れない。出れないと言われると、束縛感を感じる人が大半だろう。


 しかし、軍属になれば箱庭から出れる。


 箱庭から出れると言うことに、皆は自由を感じ、束縛感を拭う為に志願するのだ。


「じゃあ2人も軍人に?」


 説明を聞いた氷上が、2人を見る。


 すると翔太は、自分の考えを口にする。


「んー、俺は今の生活を十分楽しいと思ってるからね。軍人には、ならないと思うよ」


 それに続いて、康介も話し出す。


「軍人に?まさか。

仮に、そうして箱庭から出たとしても、軍務に縛られるに決まってる。

それに、軍属になれば箱庭から出れるってのは、政府が能力者を軍事力として確保したいだけなんじゃないか?なんか、きな臭いんだよ」


 確かにそんな考え方が出来るだろう。


 能力者を強制的に、軍に組み込まないのは、政府の体裁を悪くしない為。

 能力者を確保していたい政府は、箱庭に能力者を閉じ込めた。

 そして、軍属になれば箱庭から出れる、という政策を行う。

 そうすると、能力者は外に出る為に、自発的に軍に志願する。


 そう考えると、すべて辻妻が合うのだ。


 すると次の問題。


 政府は何故、そんな回りくどい事をしてまで、能力者が欲しいのか。


 能力者は今の所、日本にしか存在していない。 その能力者を、多数確保すれば、他国に対して絶大な戦力になるだろう。


 答えは、戦争。

 確かに、きな臭い話しだ。



「ほー、良く考えてるな」


「そうね、普通はそんなに深く考えないもの」


 翔太と氷上が、感心したような表情を浮かべる。


「そうでもないさ。っと、俺らの順番が廻ってきたみたいだ」


 そう言いながら康介が立ち上がる。


 話し込んでいる間に他のチームの模擬戦は終わったようだ。


「そうみたいだな!さて、やりますか!」


「そうね!がんばろう!」


 翔太と氷上も、気合いを入れて立ち上がる。


「氷上は、とりあえず後衛で。氷を使った防御を頼む。今日のところは、能力を使った戦いの感覚を掴むだけでいいだろう。」


 康介が、能力に目覚めて日の浅い氷上を気遣った作戦を話す。


 確かに、能力に目覚めて日が浅いのに前衛に出すのは、少し酷だろう。


「了解!」


 氷上が元気良く返事し、それに続いて翔太も口を開く。


「康介、俺はどうすれば?」


「まあ、適当に」


「俺の扱い、ぞんざいだな……」


「翔太なら、的確な動きをしてくれると思ってるからな」


「なるほど!」


「いやいや、翔太君、騙されてるよ?」


「なんですと!?」




 3人は、緊張感のかけらもない会話をしながら、前に歩いていく。


 担任の所まで進むと、相手チームと対峙する。


 相手チームは4人構成。3人の康介達は、客観的に見ると不利に見えるだろう。


 すると、担任が両チームの間に入る。


「準備はいいか?」


 それに、皆が頷くと、担任は少し離れてから合図をする。


「始め!」


 その声と同時に、相手チームが動きだす。

 全員バラバラに……。


 散開して、撹乱するでもなく、ただ単に、バラバラに動いているだけなのだ。


 そして、その内の2人が康介目掛けて能力を放つ。


 放たれたのは火と水。その2つが康介に届く前に空中でぶつかり、火が打ち消される。


「……馬鹿だ」


 康介は、なんとも言えない表情でそれを見て、小さく呟く。


 そのまま進んで来た水も、康介に当たる前に、氷上が作り出した氷によって防がれる。


 すると翔太が口を開く。


「なあ康介、試したい技があるんだけど、いい?」


「別にいいけど、時間稼ぎでもすればいいのか?」


「よろしく!」


 康介の許可をとると、翔太は風を集めだす。


 康介は、時間稼ぎをしようと相手チームを見る。


「……」


 そして、声を失った。

 何故なら相手チームは、分厚い氷の壁に囲われて、閉じ込められていたからだ。


 必死に炎で溶かそうとしているが、なかなか氷の壁を破る事が出来ないでいる。


「……氷上、いつの間にやったんだ?」


「康介君と翔太君が話してる間にね!」


 康介の問いに、氷上は笑顔で答える。

 まるで悪戯に成功した子供のようだ。


 するとそこに、準備が終わった様子の翔太が声を掛けてくる。


「いつでも行けるぜ!って……あれどうしたの?」


「私がやったんだよ!」


 相手チームを見て、唖然とする翔太に、氷上が元気良く答える。


「凄いじゃん!けど、俺も負けてないよ!」


 翔太は、そう言いながら、手を前に伸ばす。


 その先にあるのは、風が球体になった様な物。

 縦、横、斜め。その球体は、様々な向きで、吹き荒れる風を圧縮したものだ。


「へぇ」


 それを見た康介は、感心したような声を漏らす。


「それじゃあ、さっさと終わらせよう!いつまでもあれじゃ可哀相だし」


 翔太は言いながら、氷の壁に閉じ込められたままの相手チームに、その風の塊を放つ。


 そのまま一直線に相手に向かって行き、氷の壁にぶつかる。


 すると、相手チームを閉じ込めていた強固な壁は、一瞬で削られ、粉砕される。


 まるで、削岩機の様な破壊力。


 そして威力を失うことなく、相手チームの中心に着弾する。

 その瞬間、相手チームは轟音と共に吹き飛ばされた。


「「「……」」」


 それを見た3人は、無言で顔を引き攣らせる。


 想像以上の威力に、びっくりしているのだろう。


「い、生きてるかな…」


 そう言いながら、翔太が2人の方を見る。


 すると康介と氷上は、サッと、目を反らす。


「……何か言って下さい」


 何故か敬語で懇願する。


「「俺は(私は)知らない」」


「そ、そんな……」


 翔太はだんだんと、涙目になっていく。


 するとそこに、怒りの形相の担任が近づいいてきた。


「やり過ぎだ!馬鹿!

直撃しなかったから良かったものの、あんなのが当たったらただじゃ済まないぞ!」


 怒鳴りつける。


「「「すいません……」」」


 だが、相手チームは一応無事らしい。康介達は少し、ほっとした表情になる。


「全く!何を考えてるんだ!あんなのを模擬戦で使うなんて!」


「「「すいません」」」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「とんだとばっちりだったわね」


「まったくだ」


「ごめん……」


 担任の説教が終わり3人は、げんなりとした様子で話し出す。


 あれだけの威力の能力を模擬戦で使ってしまったのだ。

 説教されるのは、当然の事だろう。


「にしても、ホント凄まじい威力だったな」


 康介が感想を漏らす。


「だろ?あれでも手加減したんだぜ!風は偉大だ!こんなことも出来るからな!」


 翔太は声高に言うと、その場で風を起こした。

 すると、氷上のスカートがめくれ上がる。


「今日は薄いみずい「こんの、変態!」グホァッ!!」


 翔太は、氷上に殴り飛ばされ、地面をゴロゴロと転がっていく。


「翔太君、覚悟は出来てる?」


 氷上は凄まじい怒気を放ちながら問い掛け、近づいていく。1歩踏み出す度に、その地面は凍りつき、周りの温度は下がっていく。




「う、ぅあ……あ、あぁ」


 翔太は、その雰囲気に圧倒され、尻餅をついた状態で後ずさっている。


「私ね、思うのよ。翔太君みたいな人に、人権はいらないって。ねぇ、康介君、どうすれば良いと思う?」


「え……」


 いきなり話しを振られ、康介は焦り、言葉に詰まる。


「え?」


「え、永久凍土に……埋めればいいんじゃないか?」


「そう、さすが康介君ね。名案よ」


 氷上はそれを実行しようとする。


「あ、彩香?本気じゃないよね?」


 翔太は顔面蒼白になり、もはや怯えきった表情だ。


「なに?命乞いなら聞かないわよ?けど安心して、永久凍土は出来ないから」


 そう言いながら氷上は、翔太の頭上に大量の氷を落とした。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくして復活した翔太が、話題をすり替える様に話し出す。


「そ、そういえば、あの噂知ってる?」

 本当に無理矢理な話題の変え方だ。


 しかし氷上は、ジトっとした目で翔太を見ながらも、律儀に答える。


「知ってるわよ。夜な夜な街に、バケモノが出るって都市伝説でしょ?」


 噂の内容は、夜の街をバケモノが徘徊していて、人を襲うというもの。


「なんだそりゃ」


 康介は怪訝そうに、眉をひそめる。


 普通に考えたら、そんな事は有り得ないだろう。

 康介の反応は、当たり前のことだ。


「なんでも、実際に襲われた人がいるらしいよ!」


 翔太が、気になるだろ?といった風に言う。


「へぇ……」


 康介は、少し興味を持ったような反応をする。


 火のない所に煙はたたず。

 噂には、元となる話しがあるのだ。

 バケモノかどうかは置いといて、獰猛な犬くらいは、いるのかもしれない。


「ねえ!3人で探してみようよ!」

 氷上が目をキラキラさせながら提案する。


「おっ、名案だな!」


 翔太がその話しに乗っかる。


 しかし、康介は乗らなかった。


「俺はパス。勝手にやってくれ」


 ある程度、話す様にはなったが、やはりプライベートの付き合いは避けたいのだろう。


 話しはするが、遊ばない。


 康介は、そんな線引きをしていた。


「それじゃあ、俺は帰るから」


 そう言うと、康介は1人で歩いていってしまった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「あらら、話す様になったけど、プライベートの付き合いはしてくれないみたいだね」


「そうね。まあ、その内してくれる様になるわよ」


「そうだね!」


 残った2人は、しばらくそんな会話をしていた。



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