第4話 チーム決め
「おら席着けー!」
朝の騒がしい教室に、担任が入って来る。
生徒達は各自、自分の席に戻っていく。
全員が着席したのを確認してから、担任が口を開く。
「今日は能力学で行う模擬戦のチームを決めてもらう。3~5人でチームを組んでくれ。
チームが決まったら俺に報告しに来てくれ。その後は、自主練するもよし、喋ってるもよし、自由にしていいからな」
説明が終わると同時に、皆が一斉に動き出す。
すると、翔太が康介の所に走っていく。
「康介!一緒に組もうぜ!」
「ああ」
「そこを何とか!……ってあれ?いいの!?」
二つ返事で了承した康介に、翔太は驚きながら聞く。
「別にいいよ」
康介は短く答える。
「いい……だと?康介が拒まないなんて……、まさか偽物か?」
有り得ない物を見た様な反応をしながら翔太は言う。
「俺が拒むのが普通、みたいな口ぶりだな。まぁ否定はしないが……。他の人と組むより、話した事のある翔太と組んだ方がいいと思っただけだ」
康介はそう答える。
「てっきり嫌がられるかと思ってたよ!そうかそうか!俺と組みたいのか!」
翔太は嬉しそうに、笑顔で言う。
「調子に乗るな。消去法でそうなっただけだ」
ぶっきらぼうに話す康介。
「消去法でも、俺を選んでくれたのは嬉しいよ!」
翔太は本当に嬉しそうな笑顔になる。
「……幸せな奴」
康介はフッ、と笑いながら呟く。
「あれ?今笑った?」
驚き、目を擦りながら、翔太が聞く。
「なんだその珍獣を目の当たりにしたような反応は」
少し、むっとしたように康介が言う。
「そんな笑顔、初めて見た。康介、お前笑うと格好良いな!」
「お前と違ってな」
康介は、翔太の言葉に対して、薄い笑みを浮かべながら憎まれ口で返す。
「……康介、少し変わったな。口数が増えたし、なんか柔らかくなった。なんかあったのか?」
少し考える様な顔をした後、翔太は口を開く。
「……別に、なにもないさ」
「何!今の間!?絶対なんかあっただろ!」
「何もないって言ってるだろ」
「じゃあさっきの間はなんなんだ!さぁ!吐くんだ!」
「くどいぞ」
そんな言い合いしていると、そこに氷上が近づいて来る。
「騒がしいわね。どうかしたの?」
2人を見ながら尋ねる。
「康介が少し変わったんだよ。んで、その理由を教えてくれないから、問い詰めてたんだ!彩華は何か知ってる?」
「さあ?知らないわよ?変わったってどんな風に?」
「口数が多くて、なんか雰囲気が柔らかいんだ」
「へぇ、良いことじゃない。きっかけが何か、気になるわね」
翔太と氷上は、そんな話しをした後、ニヤリと笑いながら翔太を見る。
「な、なんだよ?」
2人の不敵な笑みに、康介はたじろぐ。
「康介君?何がきっかけなの?」
不敵な笑みのまま、氷上は康介に近づいて行く。
「ちょっとトイレ行ってくる」
康介は逃げるように立ち上がる。
すると、すかさず翔太が康介の肩を掴み、捕まえる。
「康介、逃げるなよ」
翔太は言いながら、ニヤニヤと笑みを浮かべている。
「「さあ!」」
声を揃えて、2人は康介に詰め寄る。
「そ、そんな事より、早くチームを決めないと」
顔を引き攣らせながら、康介は話題を変えようとする。
「……、まぁ言いたくないならしょうがないか!」
「そうね。確かにチームも決めないといけないし。
というか、この3人で良いんじゃない?」
聞き出すのを諦めたのか、翔太と氷上が順に言う。
「確かにそうだな!康介もそれでいいだろ?」
氷上の言葉を受けて、翔太が同意を求める様に聞く。
「ああ、良いんじゃないか」
「決まりね!」
「じゃあ先生に報告しに行こう!」
そう言うと3人は担任の所に行き、チームのメンバーを報告する。
「この後、どうする?」
翔太が2人に問い掛ける。
「せっかくだし、模擬戦の練習でもしない?」
「ああ、いいんじゃないか?」
氷上の提案に康介が頷く。
「じゃあ校庭に行くか!」
「ああ」
「ええ」
翔太の言葉に、2人は返事し、皆で歩きだす。
「で、練習って何するんだ?」
校庭に着くと、康介が口を開く。
「んー、とりあえず、実力把握の為に戦うか!」
「まあ、そのくらいしかすることないしな」
翔太の言葉に、康介が頷きながら言う。
「じゃあ私は2人の戦いを見て勉強してるわ」
「勉強になるかは分からないけどね。合図頼める?」
翔太は、苦笑いしながら氷上に話す。
「良いわよ。それじゃあ準備して」
氷上が言うと、康介と翔太は、10メートル程離れて向かい合う。
「始め!」
氷上の合図と同時に、翔太が康介に向かって走り出す。
「ふっ!」
瞬く間に距離を詰めた翔太が、康介の顔を目掛けて拳を振るう。
康介は、それをヒラリとかわすが、翔太は続けて回し蹴りを放つ。
それとほぼ同時に、康介は深くしゃがみ込む様に回し蹴りを避け、流れる様な動作で翔太の軸足を払う。そして、止めと言わんばかりに、体勢の崩れた翔太目掛けて雷撃を放つ。
輝く閃光。
体勢の崩れたままの翔太に向かって行く。
普通なら避けられない状況。しかし、翔太は急に浮き上がり、その雷撃を避ける。そして直ぐに距離を取り、体勢を立て直す。
「風……か、浮き上がって避けれるなんて、便利な能力だな」
ため息をつきながら、康介が口を開く。
「まあな!その気になれば、空も飛べるかもよ?」
「それは本当に便利だな」
軽口をたたき合う2人。
「はっ!」
不意に翔太が腕を横薙ぎに振るう。
それと当時に、突風が吹き荒れる。
「くぅっ」
康介は風に撒かれて吹き飛ばされる。
が、器用に空中で体勢を整えて着地する。そして翔太に反撃しようとするが、風によって舞い上がった砂煙で周りは見えなくなっていた。
「くそ、この為か」
塞がれた視界に小さく毒づく。
「けど、甘いな」
康介はそう呟きながら目を閉じる。
翔太は、後ろから康介に近づき、風を纏った腕で殴りつける。
「終わりだ!」
康介に当たる瞬間、翔太は叫ぶ。
完璧な不意打ち。しかし康介は、それをかわしてみせた。
「なっ――」
まさか避けられると思っていなかったのか、翔太は驚き、声を上げる。
そして驚くと当時に動きが止まってしまう。
康介はその隙を見逃さずに、思いっきり体重を乗せた蹴りを放つ。
「がぁっ!」
隙を突かれた翔太は、防ぐ事も出来ずに蹴りを脇腹に受けて、地面を転がって行く。
翔太は転がりながらも、風を使って体を浮かせ、体勢を整えようとする。
だが、
「チェックメイト」
康介が言いながら、雷撃を放つ。
翔太は急いで避けようとするが、放たれた雷撃は1つではなかった。
雨の様に降り注ぐ雷撃。
到底避けきれる物ではない。
そして、
「ぐ、ぅ……」
成す術なく翔太は雷撃を受けた。
「大丈夫か?一応威力は絞ったんだが……」
康介がそう言いながら、倒れている翔太に手を伸ばす。
「いてて、少し痺れてるけど大丈夫だよ」
翔太は返事をしながら、伸ばされたを手を掴み、立ち上がる。
「そういや康介!あの後ろからの不意打ち、なんで避けれたんだよ!」
翔太が、不思議でならない、といった感じで康介に問い掛ける。
「なに、俺を始点に微弱な電気を飛ばして、レーダーみたいにしただけだよ」
「なるほどね、そんな使い方もあるんだ。勉強になったよ!」
康介の答えに、翔太は納得したように頷く。
するとそこへ、観戦していた氷上が話しかけてくる。
「2人とも凄かったね!うん、参考になったよ!」
「ありがと!それなら感電した甲斐があったよ!
にしても、康介強いな!」
「まぁ、伊達にBランクじゃないからな」
「私もBランクだけど、あんなに戦えないよー」
しばらくそんな感じに3人は話しをしていたが、陽が暮れてきたのもあり、解散することにした。
「康介君、翔太君、またね!」
「じゃあね!」
「ああ、またな」
氷上、翔太、康介の3人は、そう言うと、それぞれ帰路についた。
康介の変化……、展開が早い気が……