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第24話 穏やかな日常

 康介と翔太は最寄のスーパーの店内を歩いていた。あの後五人は康介の家に移動し、氷上が料理を始めようと冷蔵庫を開けたところ、食材はあったが飲み物が何も無いことに気づいた。そこで康介と翔太に白羽の矢が立ち、二人で飲み物を買いに行くことになったのだ。しかし翔太は何を買いに来たのか忘れたのか、康介に問い掛ける。


「何買えば良いんだっけ?」


 飲み物を買う、そんな簡単な事も覚えておらず、首を傾げてキョロキョロと辺りを見ながら思い出そうとしている翔太。しかし思い出せないようで仕舞いには腕を組んで、うんうん唸りながら考え込むように目を閉じてしまった。そんな翔太の様子に康介は呆れ果てたような溜め息を吐くと、このままじゃ買い物が終わらないと判断して教える事にした。


「なんか適当に飲み物買って来いって言われただろ? お前は三歩歩くとそんな事も忘れるのか?」


「おぉ! そういや飲み物だったな。ん? 三歩って……俺はニワトリかよ!? 歴とした人間だから!」


 言われて漸く思い出し、ポンッと手を叩く。ワンテンポ遅れて康介の最後の言葉の意味に気づいたのか、相変わらずの大袈裟なリアクションを取りながら康介に突っ込んだ。


「声がでけぇよ。誰もニワトリだなんて言ってないだけどな。とんでもない被害妄想だ」


 五月蝿そうに康介は顔をしかめると、やれやれと手を軽く上げながら翔太から視線を外して歩き出す。その後ろでは翔太が康介の物言いに対して騒いでいるが、当の本人はそれをサラっと流している。しばらく翔太は抗議の声を上げていたが、やがて諦めたようにトボトボと歩き出した。

 飲み物のコーナーを探して歩いていると、翔太が急に面白いものでも見つけたかのように立ち止まった。


「康介康介! これ見てみろよ!」


 よほど珍しい物を見つけたのか、無邪気な笑みとキラキラ輝いた瞳を康介に向ける。その様子は新たな発見をした子供の様だ。しかし指差す先には至って普通の豚肉が陳列されてだけ。


「豚肉がどうした?」


 別にスーパーなのだから豚肉が置いてある事に不自然は無い。置いてある豚肉もなんら変わった点の見受けられない普通の物。その為、康介は翔太が面白がっている理由が理解できずに首を傾げた。


「これだよ! これ!」


 翔太は意図が理解されないことにじれったそうにしながら、陳列されている豚肉の中から一つのパックを手にとって、康介の顔に押し付ける勢いで近づける。


「近っ――! そんな近づけられたら逆に見えないだろうが!」


「あ……悪りぃ。けどほら、これ!」


「だからその豚肉がなんだよ? 別に普通だろ?」


「ここ見ろ、ここ! こかん切れ、って書いてあるだろ? こかんって……やっぱあの股間なのかな?」


 そう言って強調して翔太が指差す所には、肉の部位名が表記されていた。『小間切れ(こまぎれ)』と。それを事もあろうに、翔太は『こかんぎれ』と読んだのだ。

 確かに翔太が言うような『股間切れ』なる部位なら面白くて、それは騒ぐ価値もあるだろう。しかし実際はまったくの勘違い――いや、読み間違い。そんな小学生レベルの間違いを犯した翔太に、康介は言葉を失い立ち尽くした。そんな様子を不思議に思った翔太は、顔を覗き込む。


「あれ? 何で黙ってんの? 股間切れだよ? 面白くない? 康介には解んないのかなー、この面白さが」


「……そうだな、股間切れ……面白いな」


 呆れを通り越したのか、口元を引き攣らせながら康介は疲れたように適当に肯定する。その間にも翔太は一人で勘違いして『ふふふ、股間……股間ってどんな味なんだろう? 股間、股間って――』等と呟きながら肩をプルプルと震わせながら笑っている。傍から見たらかなり怪しい人に――変人に成り果てた翔太に康介は憐憫の眼差しを向けた。

 しかしそんな事には気づかずに、何かに取り付かれたかの如く笑い続ける翔太。暫くその状況が続いたが、翔太は徐々に落ち着きを取り戻すとその眼差しに気がつく。


「え!? なにその可哀想な物を見る目!? 俺なんか変なこと言った!?」


「いや、変なことは言ってないさ。翔太に取っては正しい事だったんだろう? ただ……少しづつで良い、少しづつで良いから勉強していこうな」


 心外だと言うように騒ぐ翔太。康介はいつもと違って妙に柔らかな態度で翔太の両肩にポンッと手を置き、諭すように話す。その態度と言い回しに妙に引っ掛かりを覚えた翔太は、激しく突っ込む。


「えっ、なに? どゆこと!?」


「いや、気にしないでくれ。今はとりあえず買い物を済ませよう」


 はぐらかすように言うと、康介は歩き出した。読み間違いについて指摘しないのは、ただ単に面白がっているのか、それとも疲れたてしまったのか。恐らくはその両方だろう。

 翔太は訳が解らず釈然としなかったが、見失うと探すのが面倒なので大人しくついて行く事にした。


 結局翔太が『小間切れ』の正しい読み方を知る事は無く、買い物は終わって二人は帰路についた。

 その帰りの道すがら、翔太が康介に話しかける。


「そういえば、最近の康介は大分丸くなったよなぁ」


「なんだ藪から棒に」


 何の脈絡もなく突然放たれた言葉に康介は首を傾げる。


「性格だよ。前はもっとツンケンしてただろ? けど最近は少し穏やか? ――ってか、丸くなったよ」


「そう、なのか……?」


「そうだよ。今がその証拠だ。前はいくら誘っても断られて、どんなに説得しても康介が折れることはなかったじゃん? それなのに今はこうして、一緒に買い物までしてる。口数も多くなったし。な? 康介は変わったよ」


 翔太は、うんうんと頷きながらそう話す。確かにそうなのかもしれない。いや、事実そうなのだろう。だがそれは当然と言えば当然の事。以前とは康介の考え方が変わってきているのだから。以前は、ひたすらに他人を拒んで生活していた。しかし今では、相手は限定しているが会話を楽しいと感じるようになっている。康介はそう思い当たり、肯定するように呟いた。


「……言われてみれば、そう……なのかもな」


「そういや、変わり始めたのは彩香が来てからだよな」


 少し寂しそうな、それでもどこか嬉しそうな表情を浮かべる翔太。その言葉は、言い換えれば『氷上が康介を変えた』だろう。事実、翔太はそのニュアンスも込めている。康介が変わるのは本来喜ばしい事で、翔太はずっとその為に康介に話し掛けたりと努力してきた。しかし実際に康介を変えたのは氷上で、そう思うと翔太は複雑な気持ちになっている。

 だが康介の返事は、そんな心境とは裏腹なものだった。


「その時期くらいからいろいろあったし、そりゃ変わりもするだろうさ。と言うか、なんだその珍妙な面は」


「あー、一緒に戦って芽生えた仲間意識ってやつか。ってか珍妙ってなんだよ!?」


「いや、何時もの能天気な面じゃなかったから。考え事か?」


 康介は翔太の心境は解らずとも、表情の変化には気がついていた。その事が気になっての問い掛け。どこか心配そうにしている康介に翔太は意外そうにポカンと口を開ける。普段もなんだかんだ言って面倒見が良い方なのだが、それは表面上だけであって今のように突っ込んだ事を聞く事は非常に稀だ。その事が嬉しくなった翔太は満面の笑みを浮かべる。


「康介が俺の事気にするなんて……。ちょっと嬉しいぜ!」


「……社交辞令みたいなもんだ」


「喜んで損した! 絶望した! いや、待てよ……そうか、照れてるのか!? いやー素直じゃないなぁ康介君!」


 翔太の反応に康介は気恥ずかしさを感じ、それを隠すように素っ気なく返す。しかし妙なところで鋭さを発揮する翔太は直ぐにその心境に気がつき、バシバシと康介の背中を叩きながらニヤニヤと口元を緩ませた。


「離れろ暑苦しい」


 そう言って康介は手を鬱陶しそうに払い除ける。実際はそれほど鬱陶しさは感じていないのだが、冷たくあしらうのは所謂照れ隠しだろう。


「ひでぇ!? そんな照れなくても良いだろ? この照れ屋さんめ! ツンデレ!」


「……あぁ、いい天気だ。雷でも落ちて来そうじゃないか? なあ――翔太」


 ツンデレ――その言葉に眉を吊り上げつつも珍しく良い笑顔を浮かべる康介。だがそれが逆に恐怖心を煽り、物騒な言葉もあって更に怖く感じる。否定せずに高圧的な態度を取るあたり翔太の言葉が図星だからなのだろうが、ツンデレもここまでいくと捻くれているとしか言いようが無い。そんな康介に翔太は怯えた表情を見せ、さっと距離を取る。


「ひぃ!? いい天気で雷は落ちないから! 雲一つないから! だから電撃やめて!」


「青天の霹靂って言葉があるだろ? 突発的な事故みたいなもんだ。人の事からかったんだから甘んじて受けろ」


「謝るから! 謝るからやめて! 悪かった!」


 地面に額を擦り付ける勢いで頭を下げる翔太。放電していた康介はそれで気が晴れたのか、軽く鼻を鳴らすとだいぶ脱線した話しを元に戻そうとする。


「で、何考えてたんだ?」


「ひ・み・つ!」


 言いたくないのか、翔太はふざけたように人差し指を唇に当ててウインクしながら答える。彼としては自分の考えていた女々しい事を知られるのは恥ずかしいのだろう。だからと言って、男がやっても気持ちが悪いだけの動作を平然とやってのける翔太は流石と言える。その仕草は人の事を小バカにしてるとも取れるのだが、そんな様子からどうあっても話し逸らそうとしているのを察したように康介は小さくため息を吐いた。


「だってほら、男は秘密があったほうが格好良いだろ?」


「そう言うのは女相手にやれよ。男の俺相手にかっこつけてどうする…………まさかお前、そっち系か?」


 急に距離を取り、康介は翔太に汚れ物を見るような視線を向ける。突然のその行動に翔太は訳が解らず、ただ首を傾げるしかなかった。


「へ? 何が?」


「男相手にかっこつけるなんて……男色、なんだろ……? やめろ、非生産的だ。そんなんじゃ少子化は改善されない」


「はぁ!? ちげぇよ! そんな趣味ねぇから!」


「趣味嗜好は人それぞれだが……流石にそれはどうかと思うぞ?」


「話し聞けよ! それに俺は女の子が大好きだ!」


 康介は本気で言っていた訳ではないのだが、冗談に聞こえなかった翔太は大声で豪語するのはどうかと思う事を胸を張って翔太は言い放った。

 女の子が大好き――それは男なら至極当然の事。しかし翔太のチャラチャラとした出で立ちが災いしてか、それは女好きというニュアンスで聞こえてしまう。

 その所為か、近くを歩いてる人達から侮蔑の視線が集まっていた。


「翔太……、黙った方が良いみたいだぞ? 辺りの人達がお前の事をゴミを見るような目でみてる」


 かく言う康介もそんな目をしている。原因の半分くらいは彼の所為でもあるのだが、無関係と言わんばかりの反応を見せている。


「誰の所為だよ!? 畜生……なんで俺ばっかこんな目に。俺のハートは……ガラスで出来てるんだぜ……?」


 康介からも辺りの人からも冷たい視線を向けられている状況、それは四面楚歌と言える。その状況がかなり堪えたのか、翔太はガックリとうな垂れてどこか哀愁を漂わせていた。いいさいいさ、どうせ俺なんか……と言う声が聞こえてきそうなその状況は非常にシュールだ。仕舞いにはしゃがんでのの字を書きだしてしまう。どんよりとした空気を纏う翔太に流石の康介も焦りを覚えたのか、励ますように声を掛ける。


「元気出せって、な? こんな日もあるさ。それにこんな状況も翔太らしくて良いんじゃないか?」


 膝を抱えている翔太の肩にやさしく手を乗せて励ます。いや、励ましてるつもりで言う。こんな状況が翔太らしい、とは果たして励ましになっているのだろうか? むしろ追い討ちを掛けているようだ。康介は励ます事に慣れていない為、仕方が無いといえばそこまでなのだが……結果的には地雷を踏んでしまい、翔太は更に纏う空気を暗くしてしまう。


「人に蔑まれてるこの状況が俺らしいのか……」


「え、あ……いや……ほら。……家に帰れば氷上の飯が待ってるぞ?」


 ボソッと呟いた翔太の言葉に、康介は失敗に気づいて口ごもり、話題を逸らそうとする。しかしそんな無理やりな話題変換に翔太は乗らずに、依然として暗いままだ。良く見ると肩が小刻みに震えている。まさか泣いているのか? そう思い、徐々にあたふたし始める康介。せわしなく手を動かし、目を泳がせている状況は非常に康介らしくなかった。と、そこに突然笑い声が響く。


「ぷっ……はははは! 引っかかった引っかかった!」


 翔太がスッと立ち上がり、腹を抱えて笑い出す。その表情は悪戯に成功した子供のようにキラキラとしている。突然のその事に康介は間の抜けた表情を浮かべ、それが面白いのか翔太は更に笑い続ける。

 少しの間その状況が続いたが、康介は騙された事に気がつくと依然として腹を抱えている翔太の頭を小気味良い音を響かせながら引っ叩いた。


「あてっ! 叩くこと無いじゃんか! まぁ珍しいもの見れたから良いけどな」


 叩かれた頭を擦りながらもニカっと翔太は笑って見せる。叩かれつつも笑っているのは彼がマゾだからではなく、慌てふためく非常に珍しい康介が見れたからだ。その新鮮さと、普段の落ち着いた雰囲気とのギャップがよほど良かったのだろう。

 一方康介は、してやられたという気持ちからか目を細めて顔を強張らせている。だか、直ぐに表情を緩めると小さくため息を吐いた。


「ったく、ガキかよ」


 そうは言うものの嫌悪感は見られず、むしろ僅かながら口元が緩んでいる。呆れとも取れるその仕草だが、実際はこのやり取りをなんとなく楽しいと感じていた。


「ガキで結構! 人生楽しんだ者勝ちですよ、康介君!」


 腰に手をあて、グッと胸を張って豪語する翔太。いつもバカな事を繰り返し、その度に無邪気に笑っている翔太が言うとやたらと説得力がある為に康介も思わず納得してしまった。それを感じ取ったのか、うんうんと満足そうに、なぜか勝ち誇るように翔太は頷く。康介が納得したのが単純に嬉しかったのだ。と言っても勢いで押しただけなのだが、そんな事は翔太には関係なかった。


「……お前といると退屈しないな」


 康介はなぜか勝ち誇っている翔太を苦笑いを浮かべながら見ていると、自然と声が零れた。それは無意識のうちに零れた言葉なだけあって康介の本音だ。うっかり口にしてしまった事に慌てて口を噤むがその言葉はしっかりと翔太に届いていたようで、目を輝かせながら身をのりだして康介に近づいた。


「えっ!? なになに? ワンモア! ワンモア!」


「……聞こえてたんだろ? 白々しいな」


 聞こえていたにも拘らず再度聞き返してくる翔太に、康介は荒っぽい口調で言い放ち顔を背ける。顔を背けたのは気恥ずかしさからだろう。いつもなら、なんでもない等と適当にあしらうのだが、なぜか誤魔化す気にはならなかった。そんな自分に違和感を覚えたが、その思考は翔太の言葉によって遮られる。


「あれ? 誤魔化さない……? はっはーん、漸く心を開いてくれたんだね! 康介!」


 満面の笑みで強引に肩を組み顔を覗き込む翔太。茶化しているような言葉と行動だが、そこからはまた一歩康介に近づけた事に対する嬉しさが溢れていた。と言っても別に彼は同姓嗜好な訳ではなく、ただ純粋に嬉しさを感じている。

 康介はそんな翔太の様子で恥ずかしさが倍増したのか、組まれた肩を無理やり振りほどいて背を背ける。


「うっせぇ! やっぱお前はホモか!?」


 そう言い放つと早足で進んでいく。康介の頭は恥ずかしさでいっぱいで、同時に誤魔化さなかった事を激しく後悔した。


「だから違うって! なんというツンデレ!」


 翔太が後ろでそんな事を言っているが、康介は聞こえていないかのように更に足を速める。当然二人の距離は離れ、翔太は慌てて康介を追っていく。


 二人が家に着くと既に料理が並んで準備が整っていた。買い物中にいろいろと話し込んでいた為、結構な時間が経っており、皆は待ちくたびれたという顔をしている。翔太と康介は背中で文句を受けつつ、とりあえず冷蔵庫に飲み物をしまうと席に着く。


「遅いよ。どんだけ時間掛かってんのさ?」


「わりぃわりぃ。いろいろあってさ」


 まるで女の子のように頬を膨らませて文句を言う折田。翔太はそれに頭を軽く掻きながら謝るが、大して悪びれてるように見えないのは気のせいではないだろう。先ほどの康介との会話からずっとご機嫌な様子の彼には文句などあまり聞こえていない。


「それより早く食べようよ」


 夕食を前に待ちきれない様子の佐藤が折田と翔太を制すように会話に割って入った。その手には既に箸が握られており、はやる気持ちが見て取れる。氷上はその言葉に頷くと康介と翔太に箸を渡してご飯をよそり始めた。その傍ら、翔太が康介に小声で話し掛ける。


「なぁ康介、これで実は料理が下手でしたって感じのベタな展開だったらどうする?」


 翔太の言葉を受けて康介は多少心配になり、眉を顰めた。とりあえずテーブルの上を見回してみるとそこには至って普通の料理が並んでおり、それなりに美味しそうに見える。これなら、と安心したように康介は返事をする。


「大丈夫だろ」


「だよなー」


 翔太も本気で言っていた訳ではなかったようで、ニヘラと表情を緩ませる。そんな会話をしている間に氷上はご飯をよそり終えていて、食べて食べてと言うように康介の前に茶碗を持っていく。康介がそれを受け取ると氷上は笑顔になり、食べるよう促した。自分が作った自信作を早く食べてもらいたいと言うのが見て取れる。皆もそれに伴い茶碗を取った。


「さ、どうぞ」


 氷上が促すと何故か康介に視線が集まる。最初に食べろと言う事なのだろう。なんで俺? と思いつつもそれを感じとった康介はおかずの一つを取り、口の中に放り込んだ。


「どう? 結構良く出来たと思ったんだけど……?」


 どこか不安そうな表情で康介を覗き込んで感想を求める氷上。その事に康介は――少し困った。不味くはない。かと言って美味しい訳でもない。えらく中途半端な味なのだ。言うなれば“食べれなくはないが微妙”と言った感じだ。さて、なんて返そうか? 正直に言うのか、少し上方修正して言うのか。康介は悩んだ挙句取った選択は――。


「あ……あぁ。美味しいよ」


「――よかったぁ」


 不安そうな氷上に正直な感想は言えず、出来るだけ考えを顔に出さないようにしてそう答えた。しかしそんな事は知らない氷上は、嬉しそうに笑顔になる。頑張った甲斐がある、と満足しているのだろう。その後、皆も食べ始める。すると――それぞれなんとも言えない表情を浮かべ、氷上だけは終始ニコニコと笑顔を作っていた。

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