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第23話 特訓の日

 何故一族は滅んだ……いや、滅ぼされたのだろうか。康介は思案に暮れていた。それは今まで考えて来なかったのが、不思議なくらいに大きな出来事。

 その考えに至ったきっかけは四人に魔法について話した時。その時に、目を背け続けていた過去に、初めて向き合いはじめた。

 ひっそりと暮らしていたにも係わらず、滅ぼされなければならなかった理由。あの男達は、どういった思惑で攻め込んで来たのか。そもそも、何故一族の事が知られていたのか。全ては謎に包まれている。


「氷炎は……あいつが一族を……?」


 氷炎の今までの言動。それは確実に何かを知っているようだった。何か、ではなく全てを知っているのかもしれない。だとすると、何故知っているのか。それは氷炎が関わっていたからではないか。


 康介は目を瞑る。そして暗闇の中に、少女の姿が浮かんだ。


『生きて』


 最期にそう言った時の――護ろうとしていたのに、逆に護られてしまった、あの日の光景。


「……雪華……」


 康介の表情は複雑なものだった。悲しみ、後悔、そして――怒り。その怒りはいったい、何に向けられたものなのだろう。襲ってきた者に対してか、護れなかった不甲斐ない自分に対してか。恐らくは、その両方だ。

 そんな時、氷炎の言葉が康介の脳裏をよぎる。


『――代用品』


 そして頭に、あの少女と重なるように浮かび上がる氷上の姿。


「――っ! 違う……!」


 とっさに否定する。代用品なんかではない、と。

 しかし、否定するも康介は気づいていた。自分が無意識のうちに、氷上にあの少女の影を見ている事に。

 氷上に危機が迫った時には、それが顕著に出る。氷炎の襲撃の時だって、倒れている氷上の姿を見た瞬間に、康介は冷静さを無くした。そして氷炎の言葉に我を失い、がむしゃらに突っ込んだ。

 あの時、康介には倒れている氷上が、あの少女に見えたのだ。


『幼なじみに似てるから?』


 氷炎の言葉に、違う、と言った。しかし、重ねて見ていたのだから否定できていない。


 そして今だって――。


 康介は自分が解らなくなっていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「……ブラックマーケット?」


 氷炎の襲撃からしばらく経ったある日。学校の屋上で翔太は、これでもか、と言うくらい首を捻っていた。

 何故そんな言葉を口にしているのか。それは突如「ブラックマーケットに行こう」と折田が提案したのがきっかけだ。


「なんでまたそんな所に? と言うか、そんなのホントにあるの?」


「それがあるんだよ! 不定期だけど廃区画でやってるらしいんだ!」


 ごく当然の疑問を口にする氷上に、折田は興奮したように話す。

 翔太はと言うと、ブラックマーケット自体を理解していないようで、首を捻ったまま会話に耳を傾けている。


「それで、興味本意で行ってみよう――って事?」


 男の子はそういうの好きそうだものね、と呆れたように手を挙げて、顔を横に振る氷上。


「ち、違うって! ほら、あれ……武器とか! 必要でしょ!?」


「今考えたんじゃない? その理由」


「そんな事ないって! 氷炎の情報とかも買えるんじゃないかなって思ったんだよ! 決して非合法の武器を見て回りたいとか、マンガや小説に出てくるブラックマーケットに興味があった訳じゃないからね! 必要に迫られて思いついだんだよ!」


 折田が大袈裟に身振り手振りをつけながら、長ったらしく弁明する。いや、弁明しているつもりでいる。これはもう嘘が下手とかいう問題じゃなく、本音がだだ漏れになっていて、そんな折田に非難と若干の可哀相なものを見る視線が集まる。


「やめてよ! そんな可哀相なものを見るような――翔太を見るような目で見ないで!」


「ちょ! それどういう事ぉ!? 俺ってそんな目で見られてんの!?」


「そうだよ! そして俺は翔太と同じ目で見られたくないんだ! だから皆その目をやめて!」


「ふはっ、ふはは! 翼は俺をバカにしたな? だが! 結局は同類じゃんか!」


「なにを――……!」


 そんな低レベル極まりない言い争いを見ながら、氷上は空を見上げた。


「空が、青いなぁ」


「彩香まで何言ってんの?」


 遠い目をしている氷上に佐藤が話し掛ける。


「いや、翼君も翔太君と同類なんだって思ったら、ちょっと現実から逃げたくなっただけよ」


「その気持ちは解るよ。私も認めたくない。まぁ最強バカ決定戦を繰り広げる二人はほっとこうよ」


「それもそうね」


 そう話すと、氷上と佐藤はため息を吐く。そして密かに氷上は、折田に対する認識を改めていた。翔太と同類なのだ、と。 しかし、空が青いなぁ、等とベタな台詞を口にする氷上も、それに近い存在なのではないかと佐藤は思っていた。


「それより今はブラックマーケットの話しよね。康介君はどう思う?」


 急に話しが振られるが、康介は何を考え混んでいるのか、難しい表情を浮かべていて反応を見せない。心此処にあらず、といった様子だ。それを不思議に思いながら氷上が再び声を掛けると、ようやく反応を示した。


「あ、あぁ……なんだ?」


「なんだ、じゃないわよ。話し聞いてた?」


「……悪い。少し考え混んでた」


 バツが悪そうに視線を逸らす康介に、氷上は愚痴りながらもブラックマーケットの話しを説明する。それを聞き終わると、康介は少し考え込んでから口を開いた。


「良いと思うぞ。確かにブラックマーケットはなんでも手に入るからな。ただ……あれは無法者の集まりだから、安全な場所じゃない」


「詳しいわね。ブラックマーケットの事知ってたの?」


「ああ。氷上の銃と翔太の刀、買ったのはあそこだから。随分と前の事だが。それよりも……しばらくは開かれないだろうけど。あの戦いで廃区画は一部崩壊して、今は軍がそこを調べてるからな」


「そっかぁ……って、なんでそんな所に行った事あるのよ?」


「それは、まぁ……いろいろあってな」


 歯切れ悪く答える康介だが、氷上は気にした様子もなく「そう」と答え、特に突っ込む事もしなかった。


「けど、もし近々開かれるんだったら行ってみる価値はあるよね」


 今まで二人の会話を聞いていた佐藤が言った。

 確かに武器が手に入る事は大きなプラスになる。それが強力な武器なら尚更に。地味に能力を鍛えて行くのはもちろん大切だが、やはり武器を持った方が手っ取り早く力を手に入れる事ができる。もっとも、武器の力を自分の力と勘違いするようではダメなのだが。

 そして氷炎の、トロイの情報が手に入るのも魅力的だ。あくまで、手に入るかも、の領域だが。

 今の康介達には、決定的に情報が不足している。氷炎とキャサリンの存在は知っているが、その他のトロイの人員は箱庭内にいるのか、等と解らないことは多い。

 その事を踏まえて、康介は肯定するように頷いた。


「そうだな。確かに行く価値はある。開催日とか、少し調べてみるか」


「私はそういうのわかんないから、和田くんにお願いするね!」


「ああ。ちょっとしたツテがあるからな、調べとくよ」


 そんな感じに話しが纏まると氷上が立ち上がり、気合いを入れるようにグッと腕に力を込めた。


「じゃあそれまでは特訓あるのみね!」


 その言葉に、いつの間にか和解した様子の翔太と折田は元気良く返事をする。佐藤もまた、頷いて肯定していた。

 その後はそれぞれ教室に戻って何時も通りに授業を受け、放課後に校庭に再集合した。


「なあ、校庭でやるのか?」


 皆が集まると、翔太がそう口にした。やるのか? とは特訓の事だ。今までは人気のない廃区画でしていた為、学生の多い校庭で特訓するのに抵抗を感じている。

 そんな翔太に折田は尤もな意見を言う。


「別に校庭でもいいじゃん。学生が能力を伸ばすのは当然の事だから、なんも不思議じゃないよ?」


 確かにその通り。ただ、翔太と氷上は武器を使った特訓は出来ないが、それでも能力だけを使うなら、なんら問題はない。それに納得したように翔太が頷くと、佐藤が急かすように口を開いた。


「時間が勿体ないから早く始めようよ!」


 そんな佐藤にそれぞれ返事を返すと、ばらばらに広がって各自特訓を始める。


 しかし康介だけは、何もせずにその様子を眺めていた。いや、何もしないのではなく何も出来ないのだろう。康介は能力ではなく魔法を使い、そして魔法の存在を知る者は学校に翔太達しかいない。それ故に何も出来ずに眺めていた。唯一出来る事と言えばアドバイスくらい、それを理解しているように康介は真剣に皆の特訓風景を見ている。

 すると、そんな康介の所に折田が近づいて行く。


「ねえ、康介」


「なんだ?」


「俺の能力って転移じゃん? それって攻撃手段が、相手の死角に転移して殴りつけるか、手に持ったナイフとかを相手に転移させるしか思い浮かばないんだよね」


 それは至って単純な攻撃手段だ。しかし、対個人ならば中々に強力な攻撃手段に思われる。単純故に対処し辛い、と言うのだろうか。事実、折田に勝てる生徒は少なく、今まではその事に満足していた。そう“今までは”満足していたが、氷炎にそれは通用せずにあっさりと破られてしまった。


「けど、何か違う戦い方を考えないとこれ以上強くなれない気がするんだ」


 折田は模索していた。新しい戦い方を――強くなる方法を。そして助言を求めてきたのだ。康介はその意図を読み取り、目を閉じて少し考えるようにした後、口を開いた。


「折田は、手に触れていない物でも転移させれるか?」


「出来なくはないけど……少し時間が掛かっちゃうね」


「そうか。だったらまず、その時間を無くす練習だな。タイムラグなしでそれが出来るようになれば、自分に迫って来る攻撃を違う場所に転移させて防ぐ事が出来る。その攻撃が相手に当たるように転移させる事だってな」


「それは……凶悪だね」


 そう言いつつも折田は笑みを浮かべた。康介が言った事が実際に出来るようになれば、それは相手に取って厄介な事この上ないだろう。それを理解したからこその笑みだ。

 そして、強くなれる可能性に喜びを顕わにするが、同時にそれが出来るようになるには地道な努力が必要だという事に気づき肩を竦める。


「触れずに転移を時間掛けずにかぁ……大変そうだ」


「そうだな。とりあえず何度も繰り返しやるしかない。能力に、その使い方に慣れるのが大事だ」


「そうだね、うん! 頑張ってみるよ!」


 そう言うと折田は元居た場所に戻って行き、練習を始める。近くにある石を触れずに転移させ、それをまた違う場所に転移させる。ただひたすらその事を繰り返し続けていく。


 その近くでは佐藤が陣を張っていた。それを一度解き、何か考えるように動きを止めて、しばらくすると張り直す。そんな動作を繰り返している。それは状況は、何かを試しているように見える。

 実際、佐藤は新しい事を試していた。今までは防御や相手を閉じ込める為の陣を結界として使っていた。そして今試しているのは、それとは逆の攻撃用の陣。

 しかしそれは上手くいかずに何度も張っては解いてを繰り返している。


 康介はただそれを見ていた。陣には不明な事が多く、その全貌は能力者の佐藤ですら把握仕切れていない。その為に、康介は何もアドバイス出来ずに、見ているしか出来なかった。

 翔太と氷上も、少し離れた場所で特訓をしていた。佐藤と同様に何らかの技を試していて、こちらは意外と上手くいっている様子だ。


 陽も暮れだした頃、康介以外の四人は特訓の疲れからか地面に腰を降ろしていた。


「疲れた……」


「そりゃ三時間もぶっ通しで能力使ってりゃ疲れもするだろう」


 ぐったりとして呟いた翔太に、康介が呆れたように返す。かれこれ三時間近くも能力を使い続けていたのだから、疲れるのは当然の事だ。しかしその特訓の甲斐があったのか、皆は心なしか疲れと共に満足そうな表情を浮かべている。一日で劇的に強くなれるはずはないのだが、それでも何か掴む物がそれぞれにあったのだろう。


「この後皆でご飯食べに行かない?」


 そう佐藤が口にする。時刻は既に六時を回っていて、少し早いが空腹を感じてもおかしくない時間帯だ。そして休憩なしの特訓の疲れがその空腹感に拍車をかけていた。それは佐藤だけでなく皆も同じなようで、それぞれ同意の言葉を口にしている。しかしその話しの腰を折るような発言を康介がした。


「俺は腹減ってないからパス」


 四人が特訓しているのを見ているだけだった康介は、大して空腹を感じていなかった。だからと言って断らなくてもいいのだが、そこで断ってしまうのが康介だ。


「えぇー、康介も行こうぜー?」


「そうよ。やっぱりこういうのは皆で行かないとね」


 やはり、と言うべきかそんな康介に翔太と氷上が説得を始める。断っては説得され断っては説得され、以前にも同じような事があったもはやお約束な光景。翔太を筆頭に皆がしつこく説得を繰り返し、それは人によっては鬱陶しく感じるだろう。しかし康介は薄くだが笑みを浮かべていた。

 今繰り広げられているなんて事の無い、たわいもないやり取り。康介はそのやり取りを楽しいと感じているのだ。

 と、その時、氷上が突拍子も無い事を言い出した。


「じゃあ皆で康介君の家に行きましょ!」


 そんな突然の言葉に康介は固まった。今までのやり取りが、なぜその言葉に繋がるのかまったく意図が掴めない。そもそも氷上達は、康介の家を溜まり場か何かと勘違いしているのではないか。そう言うような疑惑の視線を康介は向ける。すると氷上はそれに気づいたのか、再び口を開いた。


「食べに行きたくないなら、康介君の家で食べればいいのよ。作ってる間にお腹も減ってくるだろうし、ね! それならいいでしょ?」


 随分と勝手極まりない言い分。当然の事ながら康介はそれに反論する。


「いや、なんでそうなるんだよ? 普通に俺抜きで食べに行けばいいだろ」


「別にいいじゃない。ご飯は皆で食べたほうがおいしいわよ? それに――」


 白い歯を見せて悪戯っぽく氷上は笑う。


「――私の手料理食べてみたくない?」


 その言葉に康介の心は揺れた。やはり康介も男の子、女の子の――美少女の手料理はとても魅力的に感じたのだ。しかし今まで断っていた手前、ここで折れるのは何か負けた気がする。康介はそんなことを考えて、黙り込んでしまった。

 いつまで経っても返事が返ってこない事に氷上は自分の胸元をギュッと押さえて俯き、上目使いで不安そうに康介を見る。


「康介君? 食べたく、ないの……?」


「!? いや、そんなこはない……!」


 うっすらと涙を浮かべている氷上を前に、康介は断ることが出来なかった。


 そして翔太達は、その二人のいい感じの様子にガッツポーズしていた。


 

 

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